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人類レヴォリューション  作者: p-man
アナナキ世界
50/109

3


今までの構えより、若干低い位置からの飛び出し。

気魄を使っての突進は、一歩で間合いを埋める。


ほんの一瞬で互いの距離をゼロにしたイザベルは、意外にも蹴りを選択してきた。

低い態勢から、飛び上がるようにしての膝。

不意を突かれたジョージは、バックステップをしつつ片腕で防御に入る。

初手としては大きいモーション。

致命的なダメージを与えないと、それは相手の好機を生む。

咄嗟に膝を受け切ったジョージは、ゼロ距離で隙だらけになっているイザベル目掛け、右の掌を向けた。


その動作がなにを意味するか、アイツを相手取った私には痛い程身に染みている。


ゼロ距離での気魄弾。

避けようにも、ダメージ範囲が広いその攻撃は、至近距離ならば上半身全てに覆い被さってくる。


膝を出した左脚が着地した途端、今度は両脚が地面から離れる。

瞬時に両腕で上半身をガードしたイザベルだったが、ゼロ距離での気魄弾は難なくそれを貫通する衝撃で襲いかかる。


上半身だけがその場から弾かれ、その後に下半身が付いてくるような態勢で後方にふき飛ばされた。

しかしそれだけでは終わらず、ジョージの好機はまだ続く。

地面につく前に一発、その衝撃で大きくバウンドし、そこにまた一発。

遠ざかっていくイザベルに、その後も何発も気魄弾を打ち込むジョージ。


片腕だけでも戦える。

常人を逸脱した私達にだけ、許された戦闘方法だ。

体を丸めて防御していたが、そのダメージはしっかり体に積み重なっている事だろう。

連弾して放つジョージ。

止まっている標的は格好の的である。


回避を目論むイザベルだが、立ち上がろうにも追撃がそれを許さない。


やがて10発を越える数を受けている。

圧倒的になった戦況は、最早こちらが止めるのを待っているかのようだった。


だが、私は止めるタイミングを判断出来ない。

遠くに見えるイザベルは、追撃をガードしつつも機を狙っている。

気魄弾を拒む腕が、立とうとする脚が、必死にもがいているその全身から、それがヒシヒシと伝わってくるのだ。


隣にいるアナも、止めることを促してこないところを見ると、それがわかっているのだろう。

それはジョージにも当てはまる。

一切の余裕を浮かべず、放つ間隔を維持している。

少しでも緩めば、イザベルは来る。

それを感じているのだろう。


そしてそれはジョージに緊張を生ませた。


等間隔で放ち続ける事の難しさ。

それは極度の緊張を脳が異常に感じ取ってしまう。

それが形になって現れたのは、やがて20発を越えようとしていたその時である。


見ている側には些細な瞬間。

だが、受けている側には大きなチャンスとなった。

最早立てるかも怪しいダメージをもらっていながら、イザベルはその機を逃さず、一発の気魄弾が当たる事なく地面に突き刺さった瞬間、最低限に避けられた体は解放の時を喜んだ様に飛び、追撃されていた気魄弾とすれ違ったかと思うと、一瞬にしてジョージの間合いに入った。


粉塵から露わになったその姿は、着ていたジャージはボロボロになり、長い髪はボサボサ、肌の見えるところには生々しい傷跡が見え、焼け爛れている。


だが、表情だけはそのダメージを感じさせないギラつきがあり、対照的に焦った様子のジョージを仕留める決意が表れていた。


真正面から飛び込んで来たならば、ジョージも気魄弾を当てられただろう。

そしてこの勝負はジョージの勝利で終わったはず。

しかしイザベルは、確実に最後となった好機を逃す気などない。

ジョージの目の前に現れる直前に、ジグザグとステップを踏み、照準を合わす事を許さない。

最後の気魄弾が、空を裂いた瞬間。

ジョージの目の前には既にイザベルの姿はなく、あっという間にジョージは膝をつき、力なく倒れ伏した。


気魄弾を前転宙返りで避けたイザベルは、ジョージごと飛び越え、反転しながら獲物の背後を取った女豹は、生物全てが必要とする、呼吸を遮った。




「絞め落としか」


アナが急いで治癒の付与できるアナナキを呼び、気を失ったジョージと体中傷だらけのイザベルに治癒を施してもらった。


「クリーチャーにも首はあるでしょ?」


治癒を施してもらったディミトリー担当のアナナキに、イザベルが唯一の光明とばかりに懇願を含んだ質問をする。


「ええ、硬い表皮が首の後ろを覆って居ますが、人間の首と然程変わらない大きさですよ」


「表皮ぐらいなら気魄を腕中に纏わせれば、それごと締められるね!」


恐ろしい事を言う。


対イザベルに於いて、背後を取られれば即、死。

クリーチャー相手ともなれば、圧し折る勢いで極めることだろう。


「本当に一瞬だった」


脱臼していた肩も治り、元通りになった左腕を回しながら、苦笑いのジョージ。


「ええ、見ている側も一瞬のことで慌てたわ」


即死されては治癒も出来ない。


「大丈夫だよー!完璧に極まって10秒以上はアウトだけどね」


「恐ろしいな!あの腕を極められた時も思ったが、イザベルの技は対応出来ないくらい早い。首に至っては触れられた感覚さえわからなかった」


ジョージは自分の首をさすり、笑っていながらも頬が軽く痙攣している。

余程堪えたのだろう。


「そう言うジョージも、あの連弾はエゲツなかったよ!?」


イザベルの言う通り、あの連弾ははたから見ていても圧倒的だった。


「そうだな。よくあんなに連続で撃てるな。気魄量が多いのか?」


「全部受け切った挙句ピンピンしてたクセによく言うぜ。どんなタフネスしてんだ。気魄量?いいや、俺の気魄量はそうでもない量だと思う。だが、節約している」


本当に。イザベルのタフさには私も驚いた。

私だったらあそこまで耐えられたか怪しい。

まあ、あんなにくらうほどお人好しではないが。


「節約?」


「そう節約だ。気魄の出所はイマイチ理解出来ていないが、生成するスピードはこの訓練の間ずっと計っていた。自分の体に収めきれないだろう気魄量は生成されるスピードで大きく差が出るはずだ。あのチサトってバケモノや、ディジーなんかがあれだけ身に余る程の気魄を放てるのはその生成するスピードが異常だからだ」


生成されるスピードか。

言われてみれば、体のどこにそんな気魄が滞留しているのか謎だった。

物理的におかしい、身体よりも大きな気魄弾を放てるアイツや、私のようにレイピアから放出する気魄の量が多いやつは、生成されるスピードが速いからなのか。


「放出すればするほど生成される気魄だが、その生成する回転数が身の丈にあっていないとオーバーヒートするみたいで、俺は自分がどれだけの間隔で気魄弾を撃てば安定して生成出来るかを計測していた。さっきのはだいぶギリギリだったんだぜ?あと数発、威力を変えずにあの間隔で撃ってたらオーバーヒートしてぶっ倒れてた」


「なるほどな。それは良い事を聞いた。寧ろそれは全員把握しておかなければならない重要なことだろう。そのオーバーヒートを起こしたら倒れるのか?」


「ああ、倒れるぜ。意識も無くなる。しかも治癒じゃどうにもならない。俺は計測中にそうなって2時間は起きなかったらしい。まぁ、ぶっ倒れる前にもなると、頭が痛くなって体が教えてくれる。俺は計測の為に無理したから倒れただけだ。だが、ある程度無理をすれば疲労は現れる。今も治癒じゃ治らなかったその疲れが残っているぞ」


「な、そうなのか?気魄を生成する部位の疲労は治癒じゃ治らないか。厄介だな」


戦争中にそうなってしまっては致命的だ。

己の限界量を知ることは、目下全員が把握しておかなければならない必須事項だろう。


「ちなみにぃジョージの生成スピードはどのくらいなのぉ?」


「俺のは万全時でさっき程度の気魄弾なら、10秒間隔だったら精神が持てば永遠に撃てる。さっきのは大体3秒間隔だったから、30発くらい撃つとオーバーヒートしちまう。一気に放出する量はあの気魄弾の10倍程度ってとこだな」


「さすがハーバード。見直したぞジョージ」


本当に素晴らしい。

そこまで細かく自分を理解しているジョージに、私は感銘を受けた。


てことは、アイツはジョージの何倍だ?

さっきの気魄弾の10倍を想像しても、アイツの弩級には到底及ばないはず。

そしてそれでも尚、気魄弾を撃ち続けていた。


しかもアイツよりも気魄量の多いその恋人は、どれだけの生成スピードなのだろう。

まさか本当に核爆弾並みの気魄弾を撃てるのか?


私も自分がどれくらいの生成スピードなのかを、計測しなければならないな。



「ねぇ?ディジー?」


私が目下、要検討案件に想いを馳せていると、アナがいつもの調子でゆったりと話しかけてきた。


「なに?」


「私も模擬戦するのぉ?」


気魄の生成スピードに気を取られ、元々の流れを見失っていた。


「あぁ、すまない。勿論だ。私が相手をしよう」


私がそう言うと、アナはうえっとした顔でその美貌を歪めた。

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