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人類レヴォリューション  作者: p-man
アナナキ世界
49/109

2


有言実行。

宣言通り、ファーストコンタクトはジョージのジャブからだった。

サウスポースタイルからのジャブは、意外と素早く、イザベルの足が止まった。

もしかしたら伸びがあるのかもしれない。


ステップを止めたイザベルに、ジョージはワンツーで右ストレートを繰り出す。

見た目よりも伸びがあるのか、イザベルの方はカウンターを図るより、回避に手こずっている様子。


それを見定めたジョージは、バックステップを挟んで、もう一度同じワンツー。

さっきと同じように、ジャブを払い、ストレートを避けるイザベルだが、それを予想していたのか、すかさず右でボディめがけてフック。

綺麗にフックが決まり、イザベルの左腕が痛みからか下がる。


やはりジョージは経験者だ。


しっかりと踏み込まれた右脚。

その踵がイザベルを向くほど腰を捻り、もう一度右。

今度はボディではなく、顎を狙いに来ている。

右のダブル。

ボクシングの基本的なコンビネーションだ。利き手ではないとは言え、ジョージのこの動きから察するに、威力はそこそこ強いだろう。


下げてしまった左を、目敏く攻めるジョージだったが、イザベルも対人格闘経験者。

目はしっかりジョージの右を捉えており、それに合わせてダッキング。

だが、この右のダブル。

決め手は次の左ストレートにある。

ダッキングによって空を薙いだ右を素早くしまい、それと交互に本命の左が迫っていた。


ダッキングによって、視線が下がったイザベルの顔面めがけ、ジョージ渾身の左が刺さる。

とは、いかない。

柔術家のカウンター。

それはサウスポー同士ならば、狙うは左。

迫ってきた左を右手で捉え、左手はジョージの胸元を掴んだ。

大きくしゃがむ動作とともに、ジョージの体はイザベルの背中に乗せられ、足が浮いた。


おお!綺麗だ!


見ているこっちが賞賛を送りたくなるほど、美しい弧を描いての背負い投げ。


激しく地面に叩きつけられたジョージは、短い苦鳴を漏らす。


柔道の武器。

それは地面という不動の鈍器。


地面に叩きつけた勢いで、イザベルの足も地面を離れる。

全体重を乗せて叩きつけたのかと、これまた賞賛を送ろうとした瞬間。

イザベルの攻撃はこれで終わってはいないと気付く。


地面を離れ、ジョージ諸共その場に転がったイザベルは、ジョージの左腕を離してはおらず、流れるような動作でその左腕に絡まり、全ての動作が止まった時には、腕十字を極めたイザベルの姿が現れた。


「すごいわねぇ。イザベルちゃんは怒らせないようにしなきゃ」


アナの発言に、私も頷いた。


柔道であれば、背負い投げの時点で一本。

試合終了だ。

だが、これは戦闘である。

試合ではないこの状況には、その後がある。

しかしイザベルはその事もちゃんと理解していたのだろう。

関節技での極めは、軟体動物でない限り、その後の戦闘に於いても決定的なダメージになる。


完全に肩を極められたジョージは、痛みに苦鳴を漏らしながら、どうにか解けないかと足掻いている。

だが相手は経験値の高い柔術家。

本領を発揮できるその状況において、彼女が逃すはずもない。


ジタバタと抵抗していたジョージだが、解けない事を判断したのか、左腕を抜く事から視点を変え、どうにか態勢を変える事を優先する。


肩が外れるか、腱が伸びるか、断裂するか。

常人ならばその時点で、勝負がついてしまうが、これは戦闘であり、しかも彼等は常人ではない。


顔を真っ赤に充血させつつも、なんとか両足を跳ねさせ、仰向けからうつ伏せに態勢を変えた。

極めが緩くなり、痛みが和らいだのか、そのまま一度息を整えたジョージは、余った右手を地面につき、イザベルごと浮かせると、そのまま大きく真上にジャンプ。

両者共に地面を離れる。

未だしがみついていたイザベルは、その未経験の状態に判断が鈍った。

ジョージは落下する重力を利用し、地面に自分の左腕ごと叩きつけた。


判断の遅れたイザベルは、咄嗟に手を離そうとしたが間に合わず、顔面をそのまま強打。


やっとのことで解放されたジョージは、そのままイザベルとは逆の方へ転がって、立ち上がる。


「クソ!痛え!」


立ち上がったジョージだが、左腕は見るからに力が入っておらず、ぶらんと下がった状態。

脱臼か?

怪我の具合は判断つかないが、左腕は確実に使い物にならないだろう。


「ジョージ。大丈夫か?」


まだ戦えるだろうが、あまり無理をさせても仕方ない。

私は念の為にジョージが降参出来るような質問を投げかけた。


「大丈夫に見えるか?クソ。でも降参するなら無理して足掻かねぇよ!」


ごもっとも。


私は自分の不粋を恥じた。

ジョージの事も舐めていたようだ。


上がらない左腕をダラリと下げながらも、ファイティングポーズをとる。


対するイザベルも、顔を打ち付けたからか鼻血が出ており、それを乱暴に拭って、構えに入る。


両者共にダメージはあるが、ジョージは決め手の左腕を失った。

明らかにジョージの劣勢から、第2ラウンドが始まる。


ボクシングスタイルならば、片腕が落ちたのは最早勝負がついたものと同じ。

だが、ジョージのやる気は失われてはいない様子だ。

今後どうするのか、見ものである。


「あらぁ、意外に男の子してるわねぇジョージ。だけれど大丈夫かしら。片手であの女豹を相手出来るの?」


アナも私と考えた事は同じだったようで、ジョージのやる気には悪いが、これ以上の怪我に気を揉んでしまう。


「女豹とは言い得て妙ね。まぁジョージも決して馬鹿ではないから、負けが確定していても負けん気で続けるような根性論だけじゃ無いはずよ」


先程の背負い投げからの腕十字は、まるで豹が獲物に飛び掛かって首に噛みつき、窒息させようとしている様そのものだった。

しかし、この柔術がクリーチャーにどれだけ通じるか。

そこが一番の問題である。


それはジョージにも当てはまる。

ボクシングスタイルオンリーの戦闘技術では、クリーチャーには通じないだろう。



そう考えていると、対峙していた両者に動きがあった。


火蓋を切ったのは、イザベル。

手負いの獲物にトドメを刺しに来た。

そんな勢いが、こちらにまで伝わってくる。

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