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人類レヴォリューション  作者: p-man
アナナキ世界
38/109

3


先程のデイジーの衝撃波を皮切りに、可燃した戦闘は、瞬きを許さないほどの速度で繰り広げられていた。


最早何本ものレイピアが刺突を繰り出しているかのように見える連打のデイジー。

それを気魄を纏わせた腕で払い除け、隙あらば気魄弾を撃ち込む知里ちゃん。


見れば知里ちゃんの肩や太ももといった箇所の服は破れ、デイジーの方も、腹部や肩の部分の服が焦げている。


苛烈!

事あるごとに震える大気が、両者のぶつかり合いをこちらにお届けしてくる。



「なに?どちらかが死ぬまで続くの?」


最早仲間であることを忘れているかの如く、急所への攻撃を怠ることなく猛撃している。


「あまり長引くと危ないですね。タチバナ様、バータル様。そろそろ止めに入る準備をお願いします」


エリームは先程までの興奮を抑え、冷静さを取り戻した顔付きで、僕とバータルを見やった。


準備ったって、ねえ?

心の準備って事だろ?


バータルを見ると、バータルもこちらを伺っており、どのタイミングでいく?という顔をしていた。


「あと一回。どちらかが良いの貰ったら止めに入るか」


「おう、わかった」


バータルの了解も得、戦況に向き直る。


永遠に続くような戦闘は、先程から間合いが離れず、至近距離での攻防が続いている。

恐らく、デイジーが敢えて間合いを詰めているのだろう。

離れれば知里ちゃんの土俵。

中、遠距離攻撃に特化した知里ちゃんの、あの厨二チックなトンデモ技や、それと近似値の弩級の気魄弾。


デイジーとしては、何が何でも至近距離を保たなければならない。

その点、一見不利に見える知里ちゃんだが、これまたエゲツない格闘センスで、有利不利を相殺している。


デイジーの優雅とも言えるほどの剣さばき。

それを本能からくるセンスで、野生的とも表現できる体捌きの知里ちゃん。


もし自分が、などと言う考えをも拒否させる二人の戦闘力に、この場にいる全員が慄いているようだった。



ドゴンっ!


ドラム缶でも潰れたのかというほどの鈍い音が、辺り一面に響き渡る。


刺突を足に向けられた知里ちゃんは、素早く飛び上がり、空転した勢いのまま、デイジー向かって踵落としを振り下ろす。

咄嗟に後退したデイジー。

不発に終わった踵落としが、地面に食い込み、突き刺さっていた。


地面に食い込んだ右脚を引く動作と共に、後ろに大きく飛び退いた知里ちゃんは、その口を半月のように曲げて嗤った。


今まで離れる事のなかった二人の距離が、両者の後退とともに大きくひらく。


すぐに間合いを詰めようと試みたデイジーだったが、それが危険だと瞬時に判断した様子で、ハッとした顔と共に足を止める。


「ほぅ。よく踏み止まった。褒めてやろう」


間合いを詰めてくると予想していたのだろう。

その掌には、気魄の塊が浮かんでおり、その塊の表面は禍々しく蠢いていて、大きさに見合わない威力を感じさせる。


「フンっ。アンタの魂胆なんか見え見えよ」


多分、数手前にはこの状況を予測していたのだろう。

踵落としを避けられ、後退し間合いが開いたところを詰めてくるデイジーに、カウンターを浴びせる。


言うは簡単だが、やって見せろと言われれば絶対に無理だ。あれだけ熾烈な戦闘中に、そんな所業を思いつく知里ちゃんが異常なのである。


「ちょっと長引いただけ。これで終わらせるよ」


間合いを詰める為に、突っ込む準備をする知里ちゃんの掌には、未だにその脅威は蠢いている。

あれでこの戦闘を決するつもりだろう。


「じゃあ私もとっておきのを見せてあげるわ」


ディジーもまた、次の邂逅で雌雄を決するつもりなのだろう。

右手に握られたレイピアを突き出し、左手を後ろへ回し、腰に置く。

その姿は正しく騎士。


短い沈黙。

僕はそれが長く続かないと知っていた。


緊張が一定を超えた瞬間。


「「はっ!」」


二人の口から同時に空気が吐き出され、一秒の狂いもなく、同時に動き始めた。


正面衝突。

真っ向から相手を淘汰する為に、二人はなんの淀みもなく真っ直ぐ相手向かって飛び出した。


知里ちゃんは右ストレートを撃ち込むような動作。

ディジーはそれになんの迷いもなく、真っ直ぐに刺突を繰り出す。


それらが重なり合った瞬間。

目も開けてられない程の閃光が走ったかと思うと、遅れて未だかつて聞いたこともない破裂音が耳を劈いた。


立っていられない程の風圧に、僕は何が自分の身に降りかかってきたのか理解出来ないまま、後方に弾き飛ばされた。


「ぐわぁ!」


各地から聞こえてくる苦鳴。

吹っ飛ばされた勢いが止み、何回転したのか定かではない身体を転げた痛みを堪えて整える。


二人は!?


これだけの衝撃をひき起こした二人に、僕は互いを霧散させあったのではないかと不安になる。


え?


僕の予想がまさか現実になったのか?

先程まで二人がいた場所は、大きく凹んでおり、倒れているわけでもなく、忽然と二人の姿は消えていた。


「知里ちゃん!?」


急いで凹んでいる現場に駆け寄るが、やはりそこには誰もいない。

周りを取り囲んでいた人達は、僕同様に吹き飛ばされ、各々衝撃の発生源から遠く離れた位置で倒れた身体を起き上がらせようとしていた。


「知里ちゃん!?どこに行った!?」


まさか本当に?


いやな予感が、本物になったのか?と、血の気が下がりはじめようとした時。

はるか遠くから「いったぁーい!」と、甲高い声が響いてきた。


声の方を見やると、遠く離れた小高い丘に腰を下ろしている知里ちゃんが目に入った。


えぇ!?

まさかあそこまで吹き飛ばされたの!?


すると、恐らく。


僕は知里ちゃんと逆の方を向く。


そこには同じくらい離れた位置で、倒れているデイジーの姿があった。


「どんだけだよ!」


まさにそれに尽きた。


「ムネノリ、チサトの方に行ってやれ。俺はあのイギリス女を連れてくる」


いつのまにか隣に立っていたバータルはそういうと、颯爽とデイジーの方へ走っていった。

それを確認し、僕も急いで知里ちゃんのいる丘へと走る。


近付いて見ると、知里ちゃんの姿はボロボロになっており、賢政院から給付されていたジャージは、至る所が破けていた。


「だ、大丈夫か?知里ちゃん!」


足を投げ出し、後ろ手をついて座っている知里ちゃんに駆け寄り、その身体を支える。

袖は両腕引き千切れ、そこから見える腕には無数の切り傷があり、生々しい血を流していた。


「あいたたた。さすがに死ぬかと思ったよ」


「バカチンが!」


コツンと、支える逆の手で、頭を小突く。


「あいてっ、もー、怪我人だよ?優しくぅ」


「甘えた声出してもダメ!ほら、治癒するからじっとして」


知里ちゃんがこれだけ怪我してるってことは、デイジーもヤバそうだな。

早く治癒してやらないと。


ものの数秒で、腕から流れる血は止まり、至る所怪我だらけだった知里ちゃんはみるみるいつも通りに治っていく。


「ふー、ありがとね!デイジーにも治癒してあげて」


完治したのかは定かではないが、治癒する腕を掴まれ、そう言われた僕は、すぐさま立ち上がる。


「おっけ!向こうに行ってくるね!ぼっちら歩いてこれる?」


「うん!大丈夫!もう一戦出来るくらいだよ!」


「やめてくださいお願いします」


ゾワッとするような事を口走るマイハニーに、一つため息をついて、僕はデイジーのいる方へと走り出した。


先ではどうやらバータルがデイジーを担いで戻ってきていて、直ぐにそこに辿り着けた。


「うおっ!やっぱ酷いな」


顔、腕、脚至る所に裂傷、火傷、打撲の痕。

見てわかる痛々しさに、僕は予想よりも酷いと顔を歪める。


「意識失ってるぞ」


「マジか!?」


その場でバータルはデイジーを地面に下ろし、仰向けに寝かせる。

バータルの言うように気を失っているのだろう、反応がない様子に僕は急いで治癒を施す。


「大丈夫ですか!?」


肩を揺らし、急いで駆け寄ってきたエリームとぽっちゃりアナナキが不安そうにこちらを見ている。


「気を失ってるみたいだ。ちゃんと治癒出来るのかなこれ」


僕から流れ出す青い気魄が、デイジーの体全体を覆っていく。


「うっ」


瞑っていた目が開き、苦痛に顔を歪めるデイジー。


はぁ、良かった。


「大丈夫か?デイジー」


「うん。ありがと。治癒ってすごいわね」


こちらの方も無事、治癒が効いているようで、顔に生気が戻ってきていた。


「はぁ、良かった。まさか我々がついていながら。タチバナ様申し訳ありません。感謝します」


ぽっちゃりアナナキは、さっきまでの血の気の引いた顔からやっと安堵の息を吐き、横たわるデイジーの傍に腰を下ろした。


「にしても、お前らやり過ぎな」


「すまない。手を煩わせた」


治癒も万全に施せたのか、デイジーはそう言うと起き上がり、服の汚れを叩いた。


「お、生きてたか」


ボロボロの恰好だが、元気そうな知里ちゃんが、ニンマリして現れた。

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