表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人類レヴォリューション  作者: p-man
アナナキ世界
34/109

5


また僕はこの森で独りぼっちになった。

元々独りぼっちだったのか?

まあいっか。


いやぁでも、なかなかに堪えるな。

こんなのと熊本くんは戦ったのか。

そりゃ、ナチュラルモンスターになっても仕方ないわな。


僕も熊本くんの前情報があったから、なんとか助かったようなもんだ。

あの時、俺を殺していたらどうなっていたんだろう。


あぁ、恐ろしい。




「その場合、タチバナ様は自我を失って彼にその身体を乗っ取られていたでしょう」


ーーーっ!?


「うぇっ!?アナナキっち!?」


僕が通ってきたであろう獣道から、申し訳なさそうに苦笑いをするアナナキっちが現れた。


「え?見てたの?」


「はい。見てました」


「てか、あれって見えるものなの?」


「はい。見えちゃってました」


はっず!!


「すみません。追っかけてきたらまさかの精神対話していたもので、私もほっといて良いものか助けるべきか悩んでいましたら、いつのまにか見入ってしまい」


「見入るなよ!心読むだけに飽き足らず、一番ナイーブな面まで覗き込みやがって!」


「すみません。それがアナナキっていう種属の悪い癖です」


ん?

なにかアナナキっちぽくないぞ?


またもや何かの精神攻撃か!?


「いいえ、私は私です。アナナキのエリームです」


「へ!?エリーム!?なにそれ!?」


「私の名前です」


ーーーっ!?


すごい優しそうなクリーミーなお名前が出てきたのに、僕は次の軽口が出てこない程びっくりしてしまった。


「え!?でも名前ってアナナキっち達には大事なものって?」


「私だけタチバナ様の秘密を知っておいて、タチバナ様が私の秘密を知らないのはフェアじゃないと思いまして」


「え、でも」


「私達が名前を言わない理由は、自分以外を信用していないからです」


ん!?

なにそれ!?

凄い重い話になりそう。


「えぇ、重いですよ。かなり。4000年以上もの暗黒歴史ですから」


ヘビー過ぎる!


「でも大丈夫?そんなこと僕聞いて殺されたり記憶無くされたりしない?」


「その心配を無くすために私は名前を明かしました。今からアナナキという種属について話そうとも思っています。タチバナ様がさっき仰られた信用を、私は今全力を尽くして勝ち取ろうとしています」


アナナキっち、否、エリームはそういうと、僕が歌を歌っていた岩に近付き、ひょいと身軽に飛んで腰かけた。


「なかなか疑ぐり深いよ?僕は」


「でも邪推はしない人だろうと私は先程確信しました」


「やめなさい?人のナイーブ突くの」


「すみません」


苦笑いのエリーム。

いや、反省せい。


「んで?」


「あ、はいはい。アナナキという種属についてですが、私達は謂わば不老不死です。寿命という概念がないんです。それは私達が半精神化しているからです」


「半精神化!?なにそれ?」


「半精神化とは、肉体は死んでいるのですが精神は生きている状態です。肉体の機能の低下や劣化に対しての処置として、完全な状態で止めて保存したというと解りやすいですかね。だから私達では肉体の強化が十分に出来ないため、人間の助けを求める形になりました」


「なるほどね!なんでなのかなって少し疑問に思ってたのがわかったわ」


「その半精神化、不老不死状態を獲得した私達は、アナナキ種属の最も強い欲求である、知識欲を満たす事だけに長い年月をかけてきました。その知識欲というものが私達を信用という言葉から最も遠ざける要因となるのです。信用とは、ある個人に対して、期待し、それが必ず報われるだろうと確信する事だと思っています。それを私達は真っ向から否定出来る知識を身につけてしまいました。まず、先の戦争。私達は兄弟種である人間に裏切られ、多くのアナナキを亡くしました。無論、戦争ですので、互いにそれは付き物です。ですが、そこで人間に対しての信用は失いました。そして、同属。アナナキにも信用を失ってしまう事件が起きてしまいました。アナナキを対象にした洗脳実験。同属を被験者とした禁忌とされる洗脳実験。私達は不老不死です。一個人の生涯は最大の財産であり、誰もが持つ平等の権利なのです。それを洗脳によって奪われる。それは死という逃げ場のない、永遠に続く苦痛をも理解することすら許さない地獄を意味します。この事件により、個人の精神を保護する精神の門というものを開発し、その門の鍵としての役割に個人の名前を利用しました。そしてその鍵を誰にも明かさないようにする取り決めをした。だから、名前を私達は大切にするのです」


淡々と語るエリーム。

だが、今までに見た事も無い悲痛を浮かべ語る姿に僕は本当に聞いて良かったのかと不安になる。


「そんな大切なモノなのに」


「先程も言いましたが、タチバナ様には秘密を明かしても大丈夫という信用を私は確信しました。そして、なによりもタチバナ様に信用してもらいたいと本気で思えたからこそ、明かそうと思いました」


「そんな簡単に、って僕が言うのもなんだけど」


「はい。簡単に信用する事が出来ました」


「まあ、あっけらかんと」


あまりにも、え?それがなにか?と言った表情のエリームに、僕は肩透かしを食らう。


「気持ち悪いと感じるかも知れませんが、私達は知識の種属です。もうご存知だと思いますが読心も可能です。それはでも表情や手の動作、発汗、目の動き、相手の語彙力、あらゆる計算から導き出される答えであり、なんでも読心出来るわけではありませんよ?」


「ほんとかよ!?」


ポニョ。


「ポニョ」


「絶対なんでも読心してるよね!?」


「嘘はつきません!」


「ほんとかよ」


あまりにも真っ直ぐな目のエリーム。

なんか今までの雰囲気がだいぶ和らぎ過ぎて、逆に大丈夫なのかと疑えるレベルになってきているような気がする。


「話を戻しますと、その読心や行動、言動、その他計算に必要な全てを観察し、あらゆる結果で私は裏切られる確率が非常に少ないと判断しました。私は人間を対象とした信用の計算に初めて勝ったのです」


「嬉しそうだね」


「ええ!勿論!それは先程の言い合いや、この森での出来事、それも大きな要因となっているのですが、一番の理由はまた別にあります」


一言話す度にキラキラ光る瞳が、本当に嬉しそうで僕は自然と頬が綻んでいた。


「その理由は?」


「チサト様とクマモト様です」


「え!?本人以外!?」


「いえ、結果本人次第です。私はあの二人を高く評価しています。そしてあの二人はタチバナ様に全幅の信頼をおいています。特にチサト様です。本当にほんの少しの期間しかまだ接して居ないにも関わらず、私はあの方には信用の計算を試してみようと思わせる衝動を感じました。それは精神性の異常なまでの潔癖さです。彼女の気魄を見た瞬間、私達アナナキは愕然としました。初めて見る炎色。赤いと表現するには白過ぎる。あんな気魄の色があるのかと、すぐにデータを取らせて研究室に送った程です!」


「いや待て!大丈夫か!その研究室!」


「御安心下さい!私直轄の研究室です!」


余計に不安だわ!


「あのような澄んだ気魄を見て、興味を抱かない訳がない。私は彼女を目敏く観察していました。あ、怒らないでくださいね?私達アナナキにはそういういやらしい気持ちはないので!」


そういう思考経路はあるのね!


「そして先程の信用の計算をしてみたいという衝動へと繋がりました。彼女は澄んでいます。それはタチバナ様が一番よくお判りでしょう?」


「まあ、そうだね。澄んでいるって言われたら知里ちゃんの血流にヤマメ飼えそうなくらい澄んでるよね」


「いや最早クリオネまで飼えるレベルです」


なんか喋り方うつってない!?

こんな子だったか!?


「ふふふ。私の変貌ぶりには驚いたでしょう?なんてったって私も驚いているのですから!」


「は!?」


「いやぁ、多分この森のせいだと思うのですが、やけに気分が高揚すると言いますか」


ん?

ヤバくないか?それ。


僕はふにゃふにゃになっていくエリームを見て、ヤバくないか?は確信に変わった。


「エリーム!一旦ここを出て話そう!」


「あらま!エリームと呼んでくださいましたね!?感激!」


ダメだこりゃ。


僕は急いで体をふわつかせるエリームの腰を抱え、岩から降ろすと、そのまま駆け足で来た道を戻る。



え?これエリームの黒歴史にならなきゃいいけど。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ