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人類レヴォリューション  作者: p-man
アナナキ世界
30/109

2


アナナキっちの戦略説明は、それからもう少し続いた。


それぞれの隊員の役割、第一隊イヴァンは隊長としての指揮、後衛としての気魄弾攻撃。

僕は前衛での対個体戦闘及び隊員間での、けが人の治癒。

ブラッドは後衛での前衛補助、怪我や疲弊した前衛と随時交代する役割。

バータルは最前衛で敵と最初に相対するゴリゴリの壁的役割。


大体の隊の編成も同じようで、唯一違うのは治癒が出来る人間が僕しかいない事くらいだろう。


大事じゃね?それ?


第二隊、第三隊には治癒が付与できる人間がいない。

ということは?


「タチバナ様は随時様子を見て第二隊、第三隊との合流に回って頂きたい。その伝令としてクマモト様が各隊を動き回る形になります」


きっつ!

大丈夫か?それ?


全員への説明を終え、渋い顔でやってきたアナナキっちが、申し訳なさそうにそう言ってきた。


「その点で第一隊の戦力は瞬間的に落ちてしまいます。ですので、第一隊には今現在気魄量、コントロールに秀でている方々を寄せております」


「治癒ってアナナキっち達の軍にも使える人いるんだよね?」


「はい。第一円と第二円の間に等間隔で付与師の拠点を設けます。ですがやはり瞬間的な事情には対応が遅れてしまいます。付与師も兵士を付けて前線に向かって貰いますが数が少なく、その者たちがやられてしまうと今度は付与師の拠点が潰れてしまいますので」


「こりゃ大変な任務だわ。して?熊本くんの方は?大丈夫なの?」


先程から姿の見えない熊本くんだが、この話を聞いたら怯えて逃げ出すのではないだろうか?


「クマモト様には私とアナナキンヌが付いて回ります」


あ、意外と気に入ってんのねアダ名。


「なるほど。少数精鋭で戦地駆け回るわけね。そっちも大変そうだな」


「そうですね。ですが、クマモト様に関しては全力を持って我々が守らせていただきます!戦争に駆り立てたのは私です。絶対などという希望的観測はあまり好きではないのですが、ここではあえて絶対を付けて守り抜くとお約束します」


そのアナナキっちの力のこもった表情に、安心したというのは大ウソになってしまう。


その気概を見て、僕は今まで覚悟もなにもしていなかったことを激しく後悔していた。


英雄と呼ばれ、脳を弄られ、人外の力を得ても、僕は、いや僕達は戦争なんてものを実感する事なく生きてきた日本人だ。


どれだけ頭で理解しようとも、こうやって戦争前に戦略会議をし、事の大きさを知った上で、覚悟を持って戦争に臨もうとしている相手を目の前にすると、痛烈にその恐怖が押し寄せてきた。


他の英雄達がどういう気持ちでここに居るのか。

本当に彼等彼女等も戦争に赴く覚悟をしているのだろうか。


「タチバナ様」


忘れていた。アナナキっちは僕の心が読めるのだ。


アナナキっちの僕を心配そうに見つめる顔を見て、自分の情けない心情を呪った。


「その不安は至極当然です。ですが、戦争に赴く前の兵士がみんな覚悟を持って居るわけではありません」


「え?」


「様々です。人間世界でも戦争は起きていますよね?その戦地に向かう兵士全員が、死を覚悟しているなんてこと、あるわけがないのです。タチバナ様のように無理矢理連れてこられ戦う兵士もいるでしょう。生活する為に戦う兵士もいるでしょう。家族の為、その国の為に戦う兵士もいるでしょう。ですが、その誰もが自分が死ぬかもしれないと完全に自覚しているものなどいないのです。死を前にしてやっと、死ぬのか?と考えるのだと思います。それは決して卑下されることではありません。命ある生物全てに通ずる事です。だって私達はまだ死を経験したことなどないのだから」


「言ってる事はわかる。でも初めてなんだ。死ぬって、死ぬかもしれないって思う事なんて今まで無かったんだ。こうやって死だのなんだのと言ってるこの瞬間、瞬間に自覚してきて怖気付いてきてる。そんな奴が役に立つのか?」


心の内はもう既に読まれている。

僕はこの際感じた事をありのまま伝えることにした。


そうする事によって、僕のまだ奥深くに眠る気持ちを看破されずに済むはず。



「そのことに関しては、我々が巻き込んだのです。全力を持って英雄が死んでしまうなどということにならないよう尽くします。その為の一人の英雄につき、一人のアナナキがついているのです。タチバナ様を以ってしても役に立たないというのならば、地球はクリーチャーに為すすべもなく奪われてしまうでしょう。ですが、タチバナ様は現にこの英雄軍でも一番の気魄量を持ち、珍しい青の気魄を駆使して付与が出来る。役に立たない訳がない。それを覚悟云々で戦地に立つ資格が無いなどとは言わせません」


「信用が出来ない」


「え?」


「そりゃそうだろ?アナナキっちに無理矢理連れて来られてまだ何日目だよ?敵のクリーチャーも見たことない。戦争もしたことない。アナナキって種族すら全然知らない。こんなこと急に言い出してすまないとは思う。だけど、思っちゃったんだから仕方がないだろ!?君は僕の心を読むんだから!」


自分でも愚かだと思う。


現実をまざまざと見せられ、急に今までの夢物語が形を帯びてきた時、僕の心は不安でいっぱいになった。

死ぬかもしれない恐怖。

死なせてしまう恐怖。


読まれまい読まれまいとして、つい語気が荒くなってしまった。

みっともないな僕。


ここで知里ちゃんや熊本くんの名前すら出ず、自分の身可愛さで言っている事にも嫌気がさす。


体裁でも、恋人をそんな危ない所に行かせられないとか、無関係な後輩を巻き込むなとか言えないものかね。


僕は降って湧いた苛立ちを抑え込めず、その場から逃げた。


「タチバナ様!」


後ろから聞こえるアナナキっちの声。

あの場にいたら、全部が読まれる。

それだけは避けたかった。




ーーーーーーーーーーーーーーーー


僕はイライジャ・ウッドが嫌いだった。

幼い頃にロードオブザリングという映画を見て、それから僕はイライジャ・ウッドが嫌いになった。


なぜ?

なんでこんな気弱なホビットが重要な役割を担ってるのだろう。

ガンダルフが全部魔法で片付ければいいのに。


僕は孫悟空が大好きだった。

どんなに弱くても、修行を重ねて絶対勝てないような敵、フリーザにでもセルにでもあの魔人ブウにでも勝っていく。


あんな力があれば僕だって、血反吐を吐いてでも自分の能力を伸ばして、敵をやっつけられるのに。


でも僕はどうしようもなく、イライジャ・ウッドだった。

イライジャ・ウッドは俳優の名前だから、八つ当たりになるのか?

まぁでも顔もあんまり好きじゃないからこの際イライジャ・ウッドでいい。


弱くて、ただなんの努力もなく、ただ選ばれたから戦う。

なんで僕がこんな目に?

そんな風にして仲間に心配されて、迷惑をかけていく。


あぁこいつはダメだ。

足手まといになるから、記憶を無くして元の世界に戻そう。


そうなってくれないかなと思ってる。

だけど、多分そうはならないのだろうとも思ってる。

みんながやっぱりこの戦争に自分達が出るのは間違っている!

って言ってくれるのを待ってる。

だけど、多分そうはならないのだろうとも解ってる。


今頃アナナキっちが僕を探しているだろう。


僕は逃げ出してこの情けない姿を隠す為に、森の中に入り込んだ。


こんな標高の高い山の上にも、森なんてあるんだ!と、場違いにも考えれる神経も今や疎ましい。


鬱蒼とした森の中。

腰高まである岩に乗っかって、胡座をかく。


なんじゃこりゃ?

どんだけ惨めなのだろう。

僕は逃げ出して探される事を求めている?


嗚呼、気持ちが悪い。


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