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人類レヴォリューション  作者: p-man
アナナキ世界
28/109

2


目の前で無惨な姿で横たわるマリエフ。

私は呆然と立ち尽くし、その喉が切り開かれても尚、憎悪を一身に纏わせた瞳に目を向けていた。


まだ、見ている。


マリエフはまだ、その憎しみを晴らせず、私を睨め付けている。


「逃げてるじゃん」


マリエフのその姿を見た、率直な感想だった。

マリエフもまた逃げたのだ。

私はそう思った。


「マリエフ様!!っう!」


背後から聞こえていた足音が止まり、私に呼びかける。

この凄惨な現場を目にして、その足音の主は言葉を失ったようだ。


「私はどっちだと思う?」


「マリエフ様?」


「私はマリエフ・アーレフ。賢い子」


先程まで呼ばれていた私を蔑む言葉。

それを確かめるように、私は自分の口で言ってみた。


「自分を殺したのですか?」


「そう。いや、それより悪いわ。自死させたのだもの」


綺麗な顔立ちだけれど、どこかなにかが欠けているように感じる表情のアナナキは、私の言葉に目を見開いて驚いていた。


「だ、大丈夫なのですか?」


「なにが?」


「どこか異変などは?」


「ないわ。行きましょう」


「え?」


「英雄になれるんでしょ?」


その先のアナナキの言葉が何故か鮮明に頭に浮かんできた。

アナナキは「こちらです」と言う筈だ。


「こちらです」


ほらね。



それから私は言われるがままに、脳力解放とその結果なにが起こるのかを説明され、その処置を無抵抗で受けた。


体中に不可思議な冷たいモノが蠢いているのがわかる。

頭から足のつま先まで、どこに感覚を逃しても追ってくる。

気魄と呼ばれるモノらしい。

クリーチャーという得体の知れない地球外生物を殲滅する為に、私はこの力でその化け物達と戦うらしい。


どうでもいい。


それよりも早く、私を英雄にして欲しかった。

誰もが認める存在で、誰からも讃えられる、敬われる、崇め奉られ、あらゆる恐怖をもひれ伏させる圧倒的な英雄。


私は早くそれになりたかった。


もしくは早く殺して欲しかった。



ーーーーーーーーーーーーーー


アナナキは終始話しかけてくる。

何がそんなに楽しいのか、話すとは楽しいという事だろう?


楽しいとはなんだろう。

でも知っている。

私は一度も感じた事がない、楽しい。

でも知っている。


心が躍る。胸が高鳴る。頬が緩む。目が輝く。声が弾む。

時間を忘れる。景色が色付く。音が消える。


全て恥ずかしい事なのに。

そんなにも恥辱に塗れなければ味わえないなら、私はいらない。楽しい。


吐き気がする。

楽しいと思っている人を見ると、吐き気がする。

馬鹿だと曝け出しているのに。

気付かない。


道化は賢い。

楽しいだなんて思わない。

道化は賢い。

楽しませようと思っている。

道化は賢い。

人を楽しませれば、忘れない。


こんなにも気持ち悪いモノを私達はすぐに忘れる。

二度と楽しいなんて思わないと思っていても、すぐに忘れて楽しいと思ってしまう。


人間って本当に気持ち悪い。


なんで生きているのだろう。

なんでこんな醜い生物が、この地球を支配しているのだろう。



私はずっとあの森から出て、そんなことばかり考えていた。

人を見るからいけないんだ。

そう思って、極力人と会わないようにした。

アナナキにも英雄になる条件として、人との接触を持たない。そう約束した。


だけど今日だけは、とお願いされてしまった。

辛そうにお願いされてしまった。


辛いは美しい。


だから今回だけは、アナナキのお願いを聞いてあげたのだ。






「あらぁ、美しい」


わちゃわちゃと騒がしい空間の中、私は黙ってこの時間が過ぎるのを待っていた。

すると、隣の席から今まで一緒に黙っていた女性がふと気付いたかのような調子で声をかけてきた。


「ふふ。私も黙ってたいと思ってたのだけれど、こんなに可愛いらしい子が横にいるのだから、お話してみるのも悪くないかなぁて気が変わっちゃった」


そう言って口に手を当てながら、目を細めて微笑む女性。

妖艶。見た瞬間に頭に浮かんだ単語が良く似合う。


「さっきの自己紹介聞いていたかしら?私はアナ・サラザール。貴女はマリエフ・アーレフちゃんだったわよね?」


「はい」


ーーーーー!


私は私の口が勝手に動き出した事にびっくりした。

話す気などさらさら無かった筈なのに。

無視して諦められるのを待つだけだった筈なのに。


「無口なのね。私もあんまりお喋りするのは好きじゃないけれど、貴女とはどうしてか、お喋りしたいって思えちゃうのよね。どうしてかしら?」


「知らない」


まただ。

知らないなら喋らなければいい。

返事をする気が無いのに、口が勝手に動いてしまうこの現象に、私は内心恐怖を感じていた。


このアナという女性。

そういう能力の持ち主なのかもしれない。


ここにいる皆は、あの脳力解放とかいうのを済ませてきている人達だ。

特殊な能力を持っていても不思議では無い。

現についさっき、人からオーラのようなものが溢れ出し、人外の動きを軽々とやってのけた女性もいた。


「マリエフちゃんはおいくつ?」


「16歳」


ーーーっ!?


どう抗っても、やはり口が勝手に動いてしまう。

こうなってはポロポロと必要ないことまで言ってしまう可能性がある。


私はこの妖艶な雰囲気のアナに危険を感じ、アナに注意を向ける。


次にくる言葉は。

「まぁ若い。私の半分ね」だ。


んー?危険なのだろうか?



「若いのねぇ。私の半分しかないじゃない」


「え!?」


私は今なにが起こったのか、判断に困り、咄嗟に驚きが口を出る。


「どうしたのぉ?私、32よぉ?そぉんなに若く見えたかしらぁ?」


「いや、違っ」


「ふふふ、失礼だわぁ。そういう事にしておけばいいのよ?」


ゾワっとした怖気が背筋を蠢いた。

今確かにアナは私を見透かしていた。

それは私の、なのに。


「怖がらせちゃったみたいねぇ。ごめんなさい。でも大丈夫よぉ?私は貴女とは同じなだけ」


「え?同じ?」


「そう。同じ」


微笑む顔が半分手で隠されているが、それが本物だと私にはわかる。

アナは本気で私を可愛らしいと思い、微笑みかけているのだ。


「あなたも私と同じなの?」


「ふふふ。アナって呼んでね。マリエフ」


「ア、アナ。教えて!アナも私と!?本当に!?」


私はこちらに来て。

いや、生まれて初めて縋れる存在を見つけたような気がしていた。







「そうよ、賢い子ねマリエフ」


絶句。

その言葉の響きは、私に言葉を失わせた。


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