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僕と知里ちゃん、熊本くん、アナナキっち、ディミトリー、バータル、イザベルは、談笑しながら賑やかな時を過ごした。
他を見ると、こちらと同じように何グループかに分かれて各々談笑していたようだ。
とにかくディミトリーとバータルはめちゃくちゃいい人で、イザベルが変わっているってのはわかった。
「それでは夕食でも食べながら、これからの説明を軽くさせていただきますので、ご自由に席にお座りください」
ぽっちゃりアナナキがテーブルから良く見える段上がりになっているステージに立ち僕達を促す。
ん?夕食って、まさか。
さっきアナナキーズが言ってた、錠剤出てくんのか?
と、思ったがそこはやはり人間相手という事もあるのだろうか、しっかりした洋食が振舞われた。
案外美味そうで何よりです。
僕達は折角仲良くなった事もあり、ステージに近い位置で固まって座ることにした。
「見てムネリン。ここでも社会の縮図がなされているよ!」
知里ちゃんの喜色満面な笑みの先を見やると、そこには一番遠い席でポツンと1人になっているデイジーが、テーブルに肘をついてふてくされていた。
「あらら、あの高圧的な態度崩さなかったのな彼女」
なんとも言えない気持ちになったが、まあ自業自得だろう。
「あらま、あの子1人だわ!私行ってくる」
僕達の視線を追ったイザベルが、なんの気もなしにそう言ってデイジーの方へと走っていった。
なんか罪悪感に駆られた。
それは知里ちゃんも同じだったのか「ふんっ」と鼻を鳴らしてはいるが、少し安心した様子にも見えた。
にしてもいい子だなイザベル。
走って自分の所に来たイザベルに、驚いた様子だったがすぐに「なにしにきたの?」って顔をしているディジー。
なるほど、知里ちゃんとは同族嫌悪というやつか。
「それでは食べながらお聞きください。まず、この場に集まっていただきました英雄の皆様に心から感謝致します。ある程度の説明は各担当のアナナキから聞いておられるとは思いますが、改めて説明致します。現在、この地球にクリーチャーという地球外知的生命体が襲撃をしようと企んでいます。それが発覚したのがつい最近の事で対応に追われ、このような唐突な招集になってしまいました。申し訳御座いません。戦闘準備を早急にさせてはいますが、我々アナナキ軍だけでは頼りなく、人間の各国首脳にも戦闘に加勢して頂くように通達しております。ですが、それでもクリーチャーを一掃できる見込みが乏しい。そこであなた方英雄軍を招集し、短期間ではありますが訓練の末に気魄を使いこなして頂き、軍事力とはまた別の火力としてこの戦争に加わってもらう。それが今の最大戦力なのです。正直に申し上げますと、それでもクリーチャーを掃討するにはまだ安心ならない戦力です。それほどにクリーチャーの戦力は高く、生命力も異常な上に、戦場がこちら側という不利な状況です」
「大丈夫なのか?それ?こんな悠長に飯食ってて」
ジョージの至極真っ当なご意見。
「そうですね。出来るだけ時間を有効に活用したいというのはその通りで御座いますが、焦っても良くありません。人間の体は肉体疲労と精神疲労の2つで分けられます。治癒により肉体の回復は直ぐ癒せますが、精神はそう簡単にはいきません。嬉しい事にチサト様やタチバナ様のように気魄の適応がかなり早い方もいらっしゃる。報告では他の皆様も非常に順調に習得なさっておられるという事もあり、皆様が我々の計算をいい方向に覆して頂けるのではと期待しております」
わあお、プレッシャーかけてくるねえ。
「まぁ戦うってのはもう了承しているし、いいのだけれど、この戦いが終わった後、私たちはどうなるの?」
言われてみれば考えてなかったな。
意外と考えてるんだねデイジー。
「その点は御安心下さい。これは古代から秘匿されてきた事なのですが、人間世界にも我々アナナキの仲間が暮らしています。その者達のお陰で、今回の各首脳への迅速な対応が出来たのです。それだけの力がその者達には与えられていますので、人間世界の混乱を避けつつ、皆様の名誉を守りながら、出来るだけ元通りの生活を送って頂けるように手配する手筈になっております」
ほうほう。
って!それ裏ではアナナキ達が人間世界で暗躍してたってこと!?
各首脳に連絡出来るって相当の存在じゃん!
アナナキ恐ろしや。
「アナナキの存在をこうなる前から人間世界のトップ連中は知ってたってことか」
「その通りですタチバナ様。ですがそれはほんの一握りの人間のみしか知り得ない情報ですので、それを徐々に情報開示していかないと今度は人間世界で戦争が起こってしまいます。なるべく早急に手を打ちますが、少しアナナキ世界で暮らして頂かなければならないかもしれません」
「僕達の家族はそれを知っているんですか?」
「詳しくは説明しておりませんが、あなた方が非常に重要な戦力として、戦地に出る事は伝えてあります。各国の首脳がご家族の安全と精神の安定に善処していますので、ご不満でしょうがご了承下さい」
各国の首脳が家族を保護?
それって総理が直々にウチの家族の面倒見るってことだよね!?
やばい。あの家族、何かしでかさないだろうか。
不安でソワソワしてきた。
「それは我が家も同じ待遇なのだろうか?」
凍てつくような目つきでぽっちゃりアナナキを睨みつけるコンゴ共和国のカメンガ。
「勿論です。その対応に関しては我々アナナキが直接赴いたり、同行したりし、適切な対応を心掛け、監視もしていますので御安心下さい。英雄の家族は、謂わば準英雄です。英雄をこの世に生み出したご両親、英雄と同じ血縁のご兄弟、その眷属に至るまで保護するのは至極当然な責任と思っております。各国様々な事情を我々も把握しております。我々にそこはお任せ頂けると幸いです」
良くはわからないが、日本国であれば首脳が動いたって聞けばある程度の安心が約束されるけど、そうじゃない国もあるって事か。
少し安心出来たのか、それ以上カメンガも何も言わなくなった。
てか、眷属って?子ども?ペット?
ペットも家族だし、むしろ妹まである。
まぁ、あの家族がギンほっぽらかして自分達だけ保護しようとする奴らを許すとは思えんし、大丈夫だろう。
なんせ、この前の震災の時、避難場所がペットお断りだった事に激昂した母親が、担当職員相手に殴りかかろうとしたぐらいだ。
そう思えば、僕が心配するほど家族はこたえてない気がしてきた。
なんなら準英雄とか言われて調子乗っているまである。
「これからの皆様の行動についてですが、本日からこちらで宿泊していただきます。翌朝こちらを出発し、アナナキ世界に存在する聖域と呼ばれる山での訓練となります。そこは精神性を高めるに適した空間になっておりますので、気魄のコントロールや、身体強化をスムーズに行える術を鍛えることができるでしょう。各担当のアナナキの指示に従って訓練されてください。その後、13名各々の能力を加味し、グループ化します。それから本格的な戦闘訓練に移ります」
「一つ疑問なんだが。俺たちが気魄を使い熟して戦闘するとして、人間世界の軍隊も参戦するんだろ?むしろ邪魔じゃないのか?」
それもそうだ。どういう戦闘をするかだけど、だだっ広い戦場オンリーなら、銃撃やら戦車やら、砲弾やら、空爆やらの中、僕達が動き回るのは邪魔だし、危険過ぎる。
「バータル様の仰る事は理解出来ます。ですが、今皆様が考えておられる戦力をはるかに上回る程の力を身に付けていただく、それが英雄の使命です」
ーーーは?
「お?どういう事だ?俺たちは銃弾やらロケットなんかが降り注ぐ戦場を、余裕で駆け回れるようになれって事じゃないだろうな?」
「えぇ、極端に言えばその通りです」
ーーーは?
「「「は?」」」
おう、英雄の団結が垣間見れたわ。
みんながみんな呆気に取られている。
「一つ理解していただかなければならない事があります。皆様の英雄に対しての想像はまだ浅いものです。我々が理想とする英雄の戦闘力は、単純に人間世界の一国の軍事力と同じレベルもしくはそれ以上です」
「はい!?突拍子もないな!」
「ですが、そのポテンシャルは確実に御座います。この短期間という限られた時間を加味してもそれくらいの戦力には確実に辿り着けます。古代の英雄ともなれば勿論それ以上の戦闘力を有していました。それを考えるならば、まだまだ伸び代があるという事です」
「一国の軍事力って!?核も含めてんの!?一国舐めてんの?」
「勿論です。舐めてはおりませんよ、タチバナ様。核爆弾程度の威力ならば、気魄弾で実現可能ですし、それを何発も放てるあなた方は核爆弾製造機みたいなものです。そんな方々が一国の軍事力に及ばない訳がない」
HA!HA!HA!じゃねーよ!
「待て待て待て!そんな化物になっちゃうの?僕達!」
「おい!それを単純に飲み込んだとして、この戦いが終われば俺らは軍事利用のいい材料じゃねえか!」
その通りだな!ジョージ!
さっきからまともなご意見ありがとう!
「日本はそんな核精製機を2台も有する国になるのか?非核化が聞いて呆れる」
待て待て、言い方が悪いぞ!
そんな朱さんはとんと呆れた様子で腕を組んで目を瞑っている。
「先程も言いましたが、その点に関しては十分に協議して、安全対策を取らせていただきます。こう言ってしまうと威圧の様になってしまうのですが、アナナキはこと人間という種属にはかなり精通しています。あらゆる角度から我々が謀を駆使すれば、その懸念は無駄なものになるでしょう。ですので、御安心下さいとしか我々は言いようが御座いません。我々は、あなた方英雄を高位な存在と位置付け、本人、親類、眷属が害される要素を許しません。そしてあなた方が、その高位な存在である事を否認する事も許しません」
「この戦争後の未来はアナナキがどうにかするから黙って働けって事か。しかも、俺らが反旗を翻してアナナキに対して害をなす事も無駄ってこったろ?」
「バータル様の仰る事はかなり極端ではありますが、間違いだと指摘する要素は御座いません」
今までの柔和な印象を与えていたぽっちゃりアナナキの顔が、冷徹と感じさせるほどの無表情になっていた。
なるほどねぇ。
英雄は1人1人が異常な戦闘力を持つ為、人間世界にも混乱を生み出し、戦争の種にしかならない。
しかも、人間がアナナキの技術に欲かいてそれを手に入れようと侵略する要素にもなりかねない。
だから、アナナキは裏でずっと暗躍してそうならないようにしてたってーこと。
ついにここまできたよね!
パンドラの箱開けちゃったよね!
開けるどころか開けさせられちゃったよね!
って!ゴリゴリ陰謀論やないかい!!
ハロー!バイバイ!常識さん!
「我々も出来る限り英雄に関する件には全力を尽くす所存です。我々が英雄を招集せざるを得ない状況になった時からそれは水面下で進行しております。御安心下さい。クリーチャーを倒しさえすれば、地球を平和なままに保ってみせます」
アナナキっちはそうみんなに言うと、初めて口角を上げて微笑んで見せた。