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「んで?結果エリームにボコボコにされてるようだけど?」
仰向けの熊本くんが起き上がり、草原に胡座をかいてこちらを睨みつけている。
「だ・か・ら!全部を知ってからそういう事言って貰えないスカね!?」
「タチバナ様。これは特殊訓練です」
膝についた草を払いながら、エリームはにこやかな顔で満足気な様子だった。
「というと?」
「今はクマモト様の武器である気魄銃を私が扱い丸腰で戦ってもらっていたのです」
「そうそう。リムさん曰く、自分が使う武器の対処法を知る為には相手に使わせる事が手っ取り早いとの事でしてね」
なるほど。
自分の使用する武器の対処法を知る事で、弱点を理解しようという目論見か。
納得した僕らだったが、「ほら見た事か」と言うような顔の熊本くんの顔に苛立ちを覚え、謝罪を諦めた。
「いやいやいや、謝罪を要求する」
「それはしっかりとこの目で判断してからにする!」
「な!?この期に及んで!良いでしょう。組手でもしまスカ?」
やけに自信たっぷりだなこいつ。
「いや、その自信には何か裏がありそうだ。……ねえねえ知里ちゃん」
僕は熊本という男を熟知している。
こいつが僕相手に何かを仕掛ける時には、絶対に裏がある。
「御意」
「言わずとも通じた!?」
ここは最恐魔王にお相手して頂こうと、お伺いをたててみようかなと思った刹那。
魔王さまは既に私の浅知恵など見抜かれておられたのでした。
「ま、待つッス!どうして部長と!?」
見るからに眼球がバタフライ。
頬に垂れる汗が、尋常ではない程の焦りを伝えてきていた。
「なにか問題でも?」
「アンタ後輩を殺す気か!?ジャイアンに縋るスネオみたいな顔してるぞ!?」
「誰がジャイアンだって?」
自分から地雷を踏んでいくスタイル熊本。
優しくて可愛らしいご尊顔が、みるみるうちに般若へと変貌していく知里ちゃん。
もうこんな展開もなんのその。
僕はおろか、エリームもエレーヌも慣れた様子で熊本くんと知里ちゃんから離れていく。
「待てい!いじめてる奴の周りに居るやつみたいな逃げ方すんな!同罪だからな!?アンタらも!」
「ピーヒャラピーヒャラパッパパラパーと煩い子だね本当に」
「そんなポンポコリンな発言してないですけど!?それを言うならピーピーでしょ!?付属が多すぎて原型留めてないっスヨ!」
おや?意外と冷静に見える。
アイツ口では怯えている風だけど、知里ちゃんを目の前にしてしっかりツッコミを入れているところを見ると、少しくらいはやれると思っているのかもしれない。
「気付きましたか?タチバナ様」
腕を組んで僕の隣に来たエリームが、選手を鍛え上げたコーチの様な顔をして尋ねてきた。
「そんなに強くなったのか?」
「強くなったというと、パワーアップのイメージが強いですが、パワー自体はあまり変わっていません。その分技術やスピードは格段に進化しています。ふふふ、パワーに頼り過ぎるとダメなことは鳥山〇先生が教えてくださいましたからね」
どこで戦闘の勉強してんだよ!?
こいつ本当にアナナキ軍の軍事参謀か!?
発言が、アホ過ぎるんだが!?
「フン!ちょっとは腕を上げたみたいだな!だがこのエリート英雄の私を倒せるかな!?」
あー、アホしかいねえ。
揃いも揃ってドラゴン〇ール好き過ぎだろ。
「チサト様!クマモト様!準備は宜しいですか?」
「おう!でぇーじょうぶだ!ワクワクすっぞ!」
「だから!承諾してねぇって!!なんでこんな戦闘民族と戦う羽目になってんスカ!」
と、ウダウダ言いつつも、しっかり半身になりその場で腰を沈める熊本くん。
なんだアイツ。
結構乗り気じゃないか。
そんなに腕を上げたのか?
「ククッ。ハンデだ!タロー!貴様から来い!」
構えをとることもなく、いつもの魔王立ちで真正面から熊本くんを迎え撃つ様子の知里ちゃん。
どう熊本くんが腕を上げたとしても、知里ちゃんにしてみれば飼い慣らされたチワワ同然。
油断する。という言葉がもう通用しない程の差があるのは明白だった。
「くそ!一矢報いてやる!」
おや?
言うようになったじゃないこの子。