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人類レヴォリューション  作者: p-man
アナナキ世界
100/109

6


始まりはとても一語一語をゆったりと、その高くも掠れたような耳を擽ぐる声がホール全てに響き渡る。


その場にいる誰もが期待を膨らませる。

素晴らしいモノが今始まったのだと。


アナナキの粋な計らいか、言葉はその歌を構成する言語のまま、意味は理解できないがとても心地よく、でもどこか寂しい。


あの人を見抜くような瞳は瞼で閉じられ、遠く故郷のポルトガルを頭に思い描いているように、楽しい思い出に頬を緩ませ、悲しい思い出に瞼を強く閉じる。


優しい声から突如ドスの効いた声になり、そしてもっと優しい声になる。

全体的にゆっくりなメロディで構成されているが、どの部分も同じ色はない。


僕は色んなジャンルの音楽が好きだけど、この歌はどのジャンルにも当てはまらない。


ジャズ、シャンソン、カンテ。


そのどれにも当てはまるようで、当てはまらない。

初めて聞く歌に、僕はうっとりしながらアナさんを見た。


そして静かに、生き絶えるかのようにして喉を締め、アナさんの口が閉ざされていった。


「incrível!」


またもや知らない言語。


イザベルが割れんばかりの拍手で、アナさんを賞賛していた。

それにならって僕達も心から拍手を送る。

それにアナさんは恭しく礼をして答えた。


いや、凄っ!

鳥肌たったわ。


「おいでぇイザベル」


頭を上げ、いつもの不敵な笑みを浮かべたアナさんは、ステージにイザベルを呼んだ。


イザベルもノリノリでステージに上がると、こちらを振り向き、なにやら耳元でアナさんが言った言葉にウンウンと頷いている。


「よぉーし!それでは私も一緒に歌います!」


二人で何か曲を決めたようで、ニッコニコのイザベルも、胸を張って歌う準備に入る。


みんなもそれに伴って、さっきの感動を押し殺す。


するといきなりイザベルとアナさんの声が弾けるように飛び出してきた。

体を揺らし、リズミカルに歌い始める。


あ!聴いたことある!


Ai Se Eu Te Pego!!

あのクリスティアーノ・ロナウドが流行らせたと言っても過言ではない世界的大ヒット曲。


そうか!さっきの曲もポルトガル語か!

イザベルが言ったブラボー!的な賞賛もポルトガル語だろう。


この曲を歌っているミシェル・テロはイザベルと同じブラジル人。

ブラジルは公用語がポルトガル語だったはず。


さっきまでの感動的な雰囲気から一転。

そこまで激しいという訳ではないが、ポップなメロディのこの曲に、みんな頬を緩ませ、体を揺らし始めている。


僕達も座っていた場所から離れ、みんなの中に入り込み、ロナウドも真似したダンスをイザベルやアナさんを見ながら踊りだした。


イザベルだけではなく、あのアナさんさえも笑顔で歌って踊っている。

みんなが楽しい雰囲気。

エリームや他のアナナキも各々肩を揺らし音楽にのっている。


僕の隣で見様見真似に踊る知里ちゃんも、僕と目が合い満面の笑み。


最前列でぎこちなく踊る熊本くんの背中がやけに滑稽で面白い。


ダンディーズの二人のダンスもシュールだ。

カメンガくんも朱さんもジョージさんもディミトリーもみんなとても楽しそうにしている。




この曲の歌詞は、休日を前に浮かれた男がめっちゃ可愛い女の子に声をかけようとするというもの。




今のバータルにぴったりである。


そんなバータルも、眉間に皺を寄せながら、でも口元は笑っているデイジーの前で、みんなと同じダンスを踊ってみせている。

デイジーもそれを見てしょうがないなと言わんばかりに、徐々に体を揺らし始めた。


僕はその微笑ましい二人を見た後、横腹をツンツンされたので、ツンツンしたマイハニーを見やる。


「ちっ。英雄軍のベストカップルの座は渡さないZE!」


アンタにゃ勝てんよ。


「あたり前田のクラッカー」


ここで歯の浮くようなセリフは死ぬほど恥ずかしい。

ので、知里ちゃんの手を掴むだけにしておいた。




みんなが踊り始めた。

すると一番可愛い子が僕の目の前に。

僕はその手を掴んだら。

もう、もう。

きっと参っちまう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー



それから僕達英雄軍は、夜通し酒を酌み交わし、明日の家族との会話に胸を躍らせているイヴァンの惚気話や、朱さんの意外な特技のトランプマジックを見たり、ステージがそのままカラオケ会場と化していた為、知里ちゃんが十八番の松山千春の大空と大地の中でをモノマネチックに歌ったりと、誰一人部屋に帰すこと無く、てんやわんやで大騒ぎし尽くした。



ジョージさんが歌った、エアロスミスのI Don't Want To Miss A Thingだけは誰からの拍手も得られなかった。



だってアルマゲドン級に音痴なんだもの。

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