第六話「相棒」
オレは扉をくぐりぬけた。『相棒』、そう『案内人』は言ってたな。ぐるりと周りを見渡す。ふうむ。誰もいないようだ。周りは高くそびえる岩。……山か? 谷のようなところにオレはいる。後ろを振り返ると今の協会があった。オレは再び前に視線を戻す。明らかに人の手によって創られたかと思われる石の階段、そして両側には岩。まるで、くりぬいた山道のような構造になっている。
……どうすりゃいいってんだ。『案内人』は何も教えてくれなかったな。そして正体不明の『相棒』……。オレは瞬きをする。とりあえず、ここを下ってみるか。
「スミマセン、ちょっと待ってくれませんか?」
背後から突然声が聞こえてきた。空耳か? オレは後ろを振り返ってみる。そこに立っていたのは一人の男。さわやかな風体。表情、何か考え深げな表情。第一印象、かっこいい。そうオレの頭にインプットされた。
と、同時に『案内人』の言葉がオレの脳裏に煌く。
──真っ先にあなたに話しかけてくる者……いいや、真っ先にあなたが目にする者が『相棒』です。
コイツが『案内人』、アンタが言う、『相棒』だってのか?
オレがそんな事を考えていると、『相棒』らしきその男が話しかけてきた。
「もしや、あなたがボクの『相棒』ですか?」
男は目を細めながら聞いてきた。今まさにオレも、それを言おうとしたところだ。
「オレもその言葉、そっくりそのまま返させてもらうぜ?」
オレがそういうと、男はフッと笑った。
「ということは、どうやらあなたみたいですね……ボクの『相棒』は」
「『案内人』がそう言ってたのか? 真っ先にお前に話しかけてくる人が『相棒』だ、って……」
「正確には真っ先に目にする人、でしたがね」
ふん、そんな事どっちでもいい。でだ。
「お前の名前は?」
彼はしばらく沈黙した後、名前を口にした。
「──ヒロ、でいいでしょう」
「でいいでしょう?」
「ええ。その理由はすぐに分かりますよ。あなたの名前は?」
…………。……なるほどな。そういうことか。はぁ。どういうことだよ。
「分からん。思い出せネェ。だからか」
ヒロ、と言ったそいつは微笑んで頷いた。
「じゃあ──レン、でいい」
「分かりました」
ふん、自分で自分の名前を考えるのも面白いな。全く。すごい事になってるぜ。灰色の窓に飛び込んだらマザーっていう正体不明の声にあれやこれやと説明され、それが終わったと思えば『案内人』とやらにあーたらこーたら説明され、んで次は自分の名前が分からなくなっていて、自分で名前を考える……。あぁ、もうこうなったらどうにでもなれ。オレが空を見上げながら考えていると、ヒロが話しかけてきた。
「では、レン、行きましょうか」
「行くって……どうすりゃいいんだ?」
そう、それだよ。はぁ、また、説明を聞かされなきゃならんのか?
「そうですね。『案内人』からボクからあなたに説明するように言われました」
はぁ、ただでさえ暗記が苦手なオレだ。今日一日で、こんだけ説明されるとは、災難だぜ。
次回予告:ヒロと名乗る『相棒』、彼の口からでるものとは?




