第三話「窮地……!」
そんなこんなで立ち尽くす数分間。
あの時の感覚だ……あの時みた夢……!
それを考えられるようになってからオレは洗面所から逃げ出すように自室へ戻った。そしてオレは布団へ潜り込み、寝ようとした。
が、無論、寝れない。あの夢がまざまざと記憶に蘇る。それを思い出せばもはや眠れない。しかも鏡に埋まっていく自分の指……! あれは……一体? 今なら分かる。あの感覚は……『死』の、感覚なのかもしれない。『死』? 『死』だ。
ここでオレは冷静になってみた。
『死』んだら『死』んだことも分からないんじゃないのか──?
そう思った。なぜって? 『死』んだら考える事も出来ないだろう? 『死』ぬ直前に何を考えていたって『死』んだら何も分からない。それに、『自分』という存在すら分からなくなる……。
ええい、止めだ。何考えているんだ、オレは。夢のない事は言うなってんだ。……くそ。
さてその後、オレはほぼ一睡も出来ず、日の光を浴びる事になった。まぁ、今日は何にもねぇから、寝てても大丈夫だと思うが。あ、寝れないんだった。
結局、なんだったんだ。今洗面所に行っても何も起こらなかった。ホント分からん。
あー、くそ。確か本屋、今日は空いてるな。漫画……でも買うか。そのついでにコンビニ行って雑誌でも立ち読み…だな。まぁそれくらいでとりあえずいいか。
そんなこんなで夜になってしまった。幾度となくあの事を思い出してはそれを払いのけながら過ごした今日。
オレは妹に頼まれ夜のコンビニへと出向いていた。こう、夜の街を歩くってのは嫌じゃないな。ここは幹線道路から離れてる静かな住宅地だから、静かだしな。
さてコンビニを出ようとしたところで、一人の男にぶつかった。アレだ。よくある肩同士がドン!つてあたる感じだ。
オレは「スミマセン」と言って去ろうとした。が、ソイツはただ者じゃぁなかった。
「おい」
とオレの肩を掴んで話しかけてきた。瞬間、冷や汗が全身の毛穴から噴き出した。あ、これってやばくね?──と、思った時、オレはグイとその男に引き寄せられ、男側に向かされた。
オレの思考能力は一瞬でパニック状態へと方向転換、突っ走っていったようだ。
「えっ……?」
と漏らした時、オレの視界に入ってきたのはコンビニの電気に光る、銀白色の、ナイフ。
あ、だめだ殺される。
と思ったがやはり死ぬのは嫌である。あんな事を朝っぱら考えていたにも関わらず、人間そういう場面にぶち当たったらだめなんだよ。……と、いうのも後になってから思う事である。
男はナイフを構えながら、オレの肩をムンズと掴みながらコンビニへ入っていった。どうやらコンビニ強盗らしい。それくらいはあの時のオレでも理解は出来た。
「金、出せ。でなきゃコイツを殺すぞ」
…………。今の台詞聞いたかよ。
オレ、マジでガチで本当に殺されるっぽいよこの展開。店員は目を白黒させて「あ…」とか「え?」とかを小声で連発しながオレと男を見ていた。
「おい」
汗が本格的に出てきた。まさか自分が……こんな目に遭うだなんて。くそっ。どうにか逃げられないかとオレは視線でまわりをたどり始めた。
と、それで数分間。男はオレにも目を離さずにいる。もう一度店員を脅す。店員も殺すと言い出した。
「あと十秒数える。その間に出さないとこいつを殺す」
──え? オレは超特急であたりを見回した。首筋にナイフが光る。
「くっ……お…らァ!」
オレは男を力ずくでけり倒し、店を出ようした、その時。
窓が灰色になっていた。映るはずのオレの姿がない。オレはバッと後ろを振り返った。男はものすごい形相でオレを睨んでいた。男がオレに向かって走りだす。それと同時にオレは一瞬の思考を開始した。
昨日、オレの指は鏡に入り込んだ。殺されるよりマシだ。指が埋もれたんだったら、体だって全部入るだろ……。なぜか確信できる。
オレはふっと微笑んだ。全く。笑わせるぜ。オレもここまで無謀人だったとはな……!
男がオレを押し倒そうと飛び掛ってくる寸前、オレは窓に向かって飛び込んだ──。
次回予告:次回、遂に主人公「鏡界」へ──?




