第二十三話「テレポート」
唐突だが思った。ヒロの本名って何なんだろうな。今度知樹に聞いてみるか……。灯なんとかってのは確かだ。灯知樹……が知樹の名前か。
オレはあの後、しばらく艦内を見学してから部屋に戻った。戻ってみると、ヒロは自室に戻ったらしく、訪ねる気もしなかったのでオレは部屋で夕食まで待つ事にした。
ふう。思えばここに来たのは昨日だっけな。ハハハッ、色んな事があったもんだ。あの男に殺されそうになったと思ったらマザーとかいう"声"に導かれ、『案内人』に色々説明され、ヒロに出会い、ガロンと出会い、ここに来て……。知樹にあった。そして今こうだ。だが、あの時オレは窓に飛び込まなかったら……殺されてたんだったな。助かった。オレがある意味無謀で。
オレはベッドに寝転がる。あーいつもなら携帯でもいじってる時間だな。しかし携帯はない。あの時ちょっと出るからと部屋に置きっぱなしだったんだった。合ったとしても繋がらないか。
何考えてんだろ、俺。
さぁ、翌日!
オレとヒロはガロンの部屋に来ていた。もちろん、知樹もだ。今日はヒロに起こされて早いうちに起きている。あー、ちょっと眠い。が、そんなことは言ってられない。知樹はやっぱり帰るきらしい。
「……帰るんだな、ゴウ」
知樹は頷いた。そして、ヒロを振り返った。
「兄上……」
そして、再びガロンに向き直る。
「じゃあ、お前を神山へと送る」
シンザン……。あの山の事か。
「はい」
すると、ガロンは立ち上がり、部屋を出た。オレたちは無言で着いて行く。
オレたちが連れてこられたのは、小さな部屋だった。人間が一人分立てる程度の大きさの台がある。何に使うんだ? アレか、テレポート用とかそういう系か?
「その通りだ、……レン」
当たった。というか考えれば分かる。
「知樹、お前をここから神山の入り口までテレポートさせる」
ヒロは無言のままだった。オレは問う。
「どうして上ではないのですか?」
「その山を登りきるのが最後にやるべき事だ。なァに、自分の力で登れりゃいいんだから、鏡術を使ってもいいからさっさと登れるだろうさ」
キョウジュツ……、この世界での魔法ってところか。どうせそんなんだろうさ。
「はい」
ヒロが深呼吸する音が聞こえた。やっぱ、緊張してるのかな。オレだって……胸は高鳴っている。
思ったんだ。「死ぬ覚悟が出来ている」──矛盾していると思わないか? この世界に来た理由は『死』を恐れていたからだ。なのにアイツはここで「死ぬ覚悟ができている」なんて言った。……『死』を恐れているんじゃなかったのか? まて、こうとも考えられる。この鏡界で知樹は『死』に打ち勝つためにがんばってきた……。つまり、最終的に『死』を恐れないようになったわけだ。きっと、自分に降りかかった『死』をくつがえせる──そう思ってたんだ。ヒロにああ言われたけど最終的に自分を信じたんだな、あいつは。この世界に来た目的を果たしたんだな、結局。
それでいいと思うぜ、知樹。
今、知樹は静かにテレポート装置の上に立っている。目を瞑って。
次回予告:正世へ戻る知樹、そして……!




