第二十一話「四つ目の家訓」
「なっ……」
オレは目を見開いた。そして体が動く。
「お前……ッ!」
ドカッ。
「うぐ……ッ」
オレは自分の握り締めていた拳を見た。そしてヒロへと視線を移す。ヒロは頬を押さえながら呻いている。
「ヒロ……お前」
拳を強く握り締めた。そして叫んだ。
「どういう事だ!!」
そう叫んでいるところに知樹が口を挟んだ。
「いいんです! どうせ僕は死ぬ……! 兄上の言うとおりだ!」
「なっ……! お前ら……一体……!?」
荒い息遣いが耳に届く。……オレの息遣いか。畜生が。百年後の奴らはみんなこうなのかよ!!
「気にしないでください。ちょっと言い過ぎました」
ヒロが体勢を整えながら言った。オレは悪態をついて座った。何だよ。くそが……。
「それで、四つ目の家訓──それは、『死を求めし者は死に誘え』」
「『死を求めし者は死に誘え』──?」
知樹は目を丸くして聞いた。オレは少々イラつきながらヒロの話を聞いていた。
「はい、つまり、『死にたい奴は殺せ』って事です」
オレは煙たい表情から一気に驚愕の表情に変わっていった。知樹も同じだ。驚きを隠せないようでいる。
「家訓の一つ目を破ったらそれ相応の罰を受けよ、という事だと思います。それと、死にたいならば殺してあげる──宗主はそう考えたのでしょう」
「なるほど……。そういう事ですか。なら、殺してください。今ここで僕を」
オレは知樹を見た。知樹は目を瞑って正座をし、手をひざに置いていた。
「おい……何やってる」
コイツ……ヒロもヒロだぜ。まさかここで知樹を殺す気か? ヒロは首を左右に振った。
「いいえ、殺しません。いや──殺せません」
「……え?」
知樹はふっと目を開けた。
「実の弟をこの手で殺す? あり得ませんよ……」
そりゃそうだろうさ。無理に決まってる。
「だから……お前にはここに残ってもらいたいんです。僕が……お前を殺したくなんかないから……」
「…………」
知樹はうつむいた。オレはじっと知樹を見る。
「いや、」
知樹がうつむいたまま呟いた。ヒロに戸惑いの表情が浮かぶ。
「やっぱり僕は正世へ戻ります。それこそが家訓に従っていると思うんです」
次回予告:遂に届くか、ヒロの想い!! 知樹の決断とは……?




