第二話「再び」
オレは立ちすくむ限りだ。
あり得ねーって。なんでここに鏡があんだよ。
くそっ。誰か落としていったのかも知れないが、今のオレにはそんなこと考える余地もない。
オレは脱兎のごとく駆け出した。地上に這い出て、家に向かって走り出す。
家に飛び込むと朝同様妹が変な目で見てきた。
「お兄ちゃん、朝から変だよ?」
「ハハハ…そうかもな」
笑っては見たが顔が引きつっている。
オレは昼飯と夕飯以外、部屋から出ずにゲームやら漫画やら小説やらを読んだりして過ごした。引きこもり寸前である。妹が何度扉を叩いたがオレは無視。無視。虫のごとく無視。もう部屋の中も蒸し蒸ししている。今クーラーぶっ壊れてるんだよ、まったく。
不思議なことに鏡のことは何も考えずに過ごせた。ふうむ。やはりあれは錯覚か? 錯覚どころでは済まされず、もはや「幻覚」をも通り越しているだろうと思われる今日の出来事。はて、謎である。
ちなみに、昼飯とか夕飯の前に手を洗いに洗面所に行ったが鏡は普通の鏡だった、はずだ。あぁ、そうだった。そうそう。普通の鏡だ。普通の。……多分。
んでもってその翌日!
トゥデイはなぜか知らんが塾。っち。補習なんざこんなお盆の最中に呼ぶなっての。…まぁオレは暇だったんだが。
鏡も至って普通。平静を保っている。
でもなぁ、そんな頃に限って何か起こるんだよ。
で、そうなった。
予想どうりの結果といやぁそうだが。恐いのなんの。
時はその日の夜。所はまたもや洗面所。
あの時と同じ、一面灰色光沢ナシ。
何度目を擦ってみても同じ。なんら変わらない。
もう一度擦ろうと鏡に触ろうとした時、起こる事は起こった。後から思えばコレも運命だったのか──?
オレは手で鏡を触ろうとした。
「──」
言葉は出なかった。出せなかった。出したくても、出ない。
手が鏡に埋もれている。
このときのオレはこんな事を考えてはいられなかったが──たとえるなら、泥に手を突っ込んだみたいな感触だ。
ハッと気づくと周囲は灰色の世界。オレはぐるりと周りを見回した。
──ここはどこだ?
それに何だこの寒気……え? 違う。な……何だ?
周囲は全て灰色…この世じゃねぇ……こんなの…。
っ! この感じは……。心が裂けていくようなこの感覚……違う、感覚じゃ──。
「どうしたのお兄ちゃん。ホントに…大丈夫? 今日はもう寝たら?」
妹の声でオレは現実に引き戻された。妹はまじまじとオレを見つめている。オレは恐々と妹から目を離し鏡、そして我が指を視線で何度もたどった。しばらくした後、妹が去っていく音が聞こえた。オレは生気のない目で鏡をじっと見ていた。そう、漫画で言うなら「目が死んでる」っていう状態だ。……もちろん、そんな事考えられなかったが。
そしてオレはその場に立ち尽くした。
これは…何かの伏線──? まさか……な…。
次回予告:主人公、人生最大の決断……!?




