第十九話「説得」
「核爆弾……? ロシアが……アメリカに?」
ヒロはすました顔で頷いた。
「全て現実で起こった事です。いや……あなたにとっては起こることですよ」
知樹は黙って二人の対話を聞いていた。ただ、その目はどこかを見ているかのようだった。
これから、戦争だって? バカな。待て、日本は……参加するのか?
「日本ですか? その後に台湾と韓国と共に中国と併合されました」
「でも……お前はさっき日本は大丈夫だって……」
「はい大丈夫です。一連の戦争が終結した後、中国から外れ日本としてあります」
「……そうか、よかった……戦争はいつ終わるって言った?」
「2020年です」
オレはため息をつく。オレは元の世界に帰って生き延びたとしたら、戦争と直面する羽目になるのか? そんな……どっちにしろだめじゃないか。畜生。運命ってのはひどいもんだ。
「そうかも知れませんね」
ヒロはそう言って知樹を見た。知樹はうつむいている。
「戦争の事はもういい、これ以上聞いても驚くだけだ。悲しくなってくる。」
「そういうと思いましたよ」
ヒロはそう言って俺を見た。ん? 知樹の事だな。
「お前から言ってやれよ。お前の弟だろ?」
「そうですね」
ヒロは再び知樹に向き直った。
「本当に正世へ帰るのですか?」
「はい、兄上」
「正世へ帰れば死ぬ事になるのですよ?」
「いいんです、任務が成功したのならば本望です」
「いつ帰ってもいっしょじゃないですか!」
「だからもう帰るんです。ここで無駄に時間を過ごすなら……」
「無駄ではないでしょう!?」
「何でですか? 僕が死ぬ事は決定してるのに? 何をどうやっても死ぬのに?」
「……っ!」
ヒロは面食らいつつも「そうでしたね……」とつぶやき、再び口を開いた。
「灯家の宗主……灯火明利はかつての太平洋戦争で大きな過ちをおかし、深手を負いつつも日本に逃げ帰ってきました」
何だなんだ? 今度は灯家についてのお話か? やめてくれ、これ以上覚えられそうにない。
と、俺は嘆いたものの、ヒロはかまわず話続けた。
「しかし、彼はその失敗のせいで日本軍の者たちに追われていました。そこで、彼は名前を変える事を思いつきました。──ええ、偽名ですね。彼は灯三咲としました」
「女か?」
「男です。女装までしたんですね。」
「女装って……そこまでして?」
マジかよ。一体その人は何やらかした?
「もっと彼は自分を隠そうとしました。なぜか……。そして彼が受け持った任務……それはアメリカの軍艦から秘密兵器の計画を盗む事でした」
次回予告:灯家、その任務の真意!?




