第十六話「弱者」
しばらくすると、すすり泣きのような声が耳に届いた。
……泣いてるのか? そりゃそうだろうな。生きられると思ってここでやってきたのに、突然「お前は死ぬ」なんていわれたら……。しかもそれが実の兄に、だ。……もしオレがあの時殺される運命にあるのだとしたら──ええい、そんなこと考えたくもねぇ。
「おい、知樹とか言ったか?」
知樹はしゃくり上げながら頷いた。
「何だ、その……未来は変えられるって言うだろ? だったら──」
俺が言葉を止めたのも知樹が何か呟いているからだった。
「……えられない……<b>過去は変えられないんだ!!</b>」
そう聞いた時、オレは言葉に詰まった。……そうか。そうだったな。畜生が。
「でだ……どうする気だ? 正世へ帰るのか?」
オレ達は再びガロンの部屋に戻ってきた。知樹が「正世へ帰る」と言いだし、ガロンが部屋で話をしようと言い、ヒロがついていき、相棒であるオレがここにいるというわけだ。
「はい……」
無言のひと時が過ぎる。沈黙を破ったのはオレだ。
「……正世に帰るって事は、死にいくって事じゃないのか?」
「そうですよ? ……知樹、もう少しここにいて……」
「ここにいたって死ににいったって一緒です……だったら兄上……僕はさっさと死にたい!!」
待てよ、死にたいって……。
「死にたい……? お前何考えて──」
「ふざけるな!!!」
ヒロ……?
「お前はそれでも……それでも──」
「灯家の一員だと?」
灯家……? 知樹は今そう言ったな。どこかの一族かい?
「そうです。僕の一族ですよ。死にたい……灯家では禁句とされているはずでしょう!?」
ふん、最もなしきたりだな。
「もう死ぬんだからいいでしょう!?」
その知樹の言葉にヒロはキレたようだ。表情が変わった。
「……なら、死になさい。お前みたいな弱者は死ね! 灯家にそのような人物はいりません!」
「おい、いくらなんでも言い過ぎじゃ──」
「戦争とはそうなんです!! 覚えておきなさい、レン! 人類は2015年から20年に、そして2099年からずっと、2114年まで! ずっと戦争をするのです!!」
オレは硬直した。まさか……嘘だろ?
次回予告:レンに明かされた戦争の真実! それは……?




