26 尊き断片を胸に抱く夜
<前回のあらすじ>
乾杯の後、ポプラお手製の料理を楽しむ。
少し離れた場所でポプラたちを見守っていると、その彼女がやってきて言った。
「あなたは、最下層に向かうべきよ。忘れた記憶を取り戻したいのなら」
「あたしがこのダンジョンに来たのはね、お母さんに言われたからなの」
「ポプラの?」
「そうよ。お母さんはすでに死んでしまったのだけど、死ぬ前に言っていたの。『呪いに縛られたあの人を、助けてちょうだい』って」
母親のことを思い出しているのか、ポプラの顔に悲しみが見えた。
母を想う子の姿を見て、私は自分の母親はどうだったかと考えてみる。が、思い出せない。私に記憶はこのダンジョンから始まっている。そのことが、すこし、悲しい。
一呼吸置いた後、ポプラは話を続ける。
「ここのダンジョンに、呪いに縛られたその人がいるらしいの。『終わってしまった場所だから』って。私は何度もこのダンジョンを訪れて、その人の痕跡を探したわ。だけど、何も見つからなかった。でも今回は、骸骨さんたちに出会えた」
微笑むポプラ。
「お母さんは、その人は魔法に長けた人だって言っていたわ。何の確証もないけれど、あたしはお母さんの言っていた人が、骸骨さんだと思うのよ」
「だが私は、妖精に会ったのはポプラが初めてだ」
いや、もしかすると、この前見た夢の一人は……。
「忘れているだけかもしれないでしょ? それを確かめるために、ダンジョンの最下層に向かうべきだと言ったの」
私はこの楽園のことを考えた。ここは住み心地が良いし、危険なこともない。ずっと住んでいられる場所だ。
けれど、自分の失っている記憶のことを考えると、「このままで良いのか」という迷いが生まれた。
「このダンジョンの最下層には何があるんだ?」
以前ツルギにこのダンジョンの下には何があるのかと聞いた時は、「らくえん」と答えた。今思うとあれは、今いるこの場所を指していたのかもしれない。なら、このダンジョンの最下層には何があるというんだ?
「あたしも実際に最下層へ行ったわけじゃないから分からないのだけど、大抵のダンジョンの最下層には、そのダンジョンを制御するダンジョンの核が存在するらしいわ。ダンジョンの魔物を生み出すのはそのダンジョンの核の役割だから、その核について調べれば、あなたの記憶についても何か分かるはずよ」
私は、この楽園での幸せな生活と、記憶を取り戻すためにダンジョンの最下層に行くことを天秤にかけ、後者を選んだ。
やはり、忘れている記憶が気にかかる。
思い出すのは幾度も見た夢。あのどこか懐かしい夢の中で、私は穏やかに過ごしていた。
あの夢の人たちについて、知りたい。
ポプラを見つめ、言葉を紡ぐ。
「私は、最下層に向かおうと思う」
ダンジョンの空に、星が瞬いた。
二章は終わりです。
続きはまだ書いていないので、気長にお待ちください。




