5 肉無きその身は友を得る
長め。
「みっともないところを見せてしまってすまなかったな」
「ぴぎー!」
私が泣き止んだ後で、私達は対話をした。対話といっても、「ぴぎー」と鳴く相手に私が話しかける形だったが。
「お前、名前は何て言うんだ?」
「ぴぎー?」
どうやら名前を持たないらしい。
【青い何か】と呼ぶのはアレだし…そうだな、【ピッギー】と呼ぼう。
「私はお前のことを【ピッギー】と呼びたいんだが…良いだろうか?」
「ぴぎゅー!」
これは良いということだろうか。名前を呼んで反応を確かめてみよう。
「ピッギー?」
「ぴぎゅー!」
どうやら認められたようだ。
「よろしくな、ピッギー」
「ぴぎゅー!」
◇◆◇
私は、新たにできた友と楽しい時間を過ごした。
「どうだピッギー、気持ちいいか?」
「ぴっぎー!」
「そうかそうか、気持ちいいか!」
特に、ピッギーを撫でるのは至高の時間だった。
弾力のある滑らかなピッギーの身体は、私をあっという間に撫でリストへと変えた。
あぁ、ふれあえるとは何と素晴らしいことか。
独りで過ごした時間が長すぎたせいか、余計にそう感じた。
他にも、私の手のリズムで踊りを披露してくれたり、逆に私を撫でてくれたりと、ピッギーはとても優しかった(ピッギーは自分の身体を器用に変形させることができるのだった)。
◇◆◇
しかし、その楽しい時間にも終わりがやって来た。
「ぴぎー」
「どうした?」
「ぴぎゅー」
ピッギーはどうやら、この場所を離れる必要があるらしかった。
そうだよな、ピッギーにはピッギーの生き方があるもんな。椅子から離れられない骸骨と一緒にいるより、大事なことがあるもんな。
「ぴぎゅー…?」
「あぁ、大丈夫だ。だから早く行きな」
「ぴぎー」
心配そうに度々振り向きながら、ピッギーの姿は扉の外へと消えていった。
ズズン、という音が響いた後、扉はわずかに開いていたその口を閉じた。
私はしばらく眠ることにした。最近は浅い眠りばかりだったが、今日は安らかに眠ることができるだろう。
「おやすみ、ピッギー」
友に挨拶をしてから、私は眠りについた。
◇◆◇
「…! …!」
「…んぁ、何だ…」
寝ていた私は、何かの音で目が覚めた。
目元をごしごし拭うと、ようやくその音の正体が分かった。
「ピッギーじゃないか! どうしたんだ、戻ってきたのか?」
「ぴぎー!」
元気に応えるピッギーは身体の一部を変形させ、手を挙げるような仕草をした。
うむ、とても可愛らしい。
じゃなくて、
「どうしたんだ? 忘れ物か?」
「ぴぎゅー」
ピッギーは一声鳴いた後、私の右斜め前に移動した。
そこには何かの肉のようなものがあった。
「もしかして、それはピッギーの食べ物なのか?」
「ぴっぎー!」
正解とばかりに鳴くピッギー。
そうか、お前は食べ物を獲りに行くために、この場所を離れる必要があったのか。
自分が骨であり、必要がなかったから、食事のことをすっかり失念していた。
「ということは、ピッギーはこれからも、この場所にいてくれるのか?」
「ぴっぎー」
「私と共にいてくれるのか?」
「ぴっぎー!」
(あぁ、私の友はなんて優しいんだ…)
私は何かの肉にかじりついているピッギーを見ながら、そう思った。
ぴぎー!