9 黒魔と騎士
<前回のあらすじ>
地下がダンジョンであることを思い出す。
腰に布を巻いた緑色の生物は……ゴブリンだ!
目の前のゴブリンを切り捨てた後、遠くで叫び声が……。「わおーん!」
最初に目に飛び込んできたのは、とても大きな黒だった。
「あれは……蜘蛛か?」
「すごく、おおきい」
「ぴぎー」
巨大な黒蜘蛛が犬たちを襲っていたのだ。足は長く、胴体は私五人分の大きさだろうか。
黒蜘蛛は逃げ惑う犬たちを嬲るように攻撃している。一息に殺さず、血を流させようとしているのが見え見えの動きだ。……あいつ、楽しんでやがる。
「わふ……」
「コボルン、大丈夫か?」
「だいじょぶか?」
コボルンはあの黒蜘蛛に恐怖を感じているようだ。足元でぶるぶると震えている。それを見たピッギーがコボルンに寄り添った。
「ぴぎー」
「わふ…」
「このままでは彼等が黒蜘蛛にやられてしまう。ツルギ、奴を止めるぞ」
「りょーかい」
ツルギが走って黒蜘蛛に向かっていく。そして、犬たちに夢中な奴の足に、剣の一撃をおみまいした。
だが、奴の足はそれを弾いた。
「なにっ!?」
私は思わず声を上げた。ツルギの一撃は鉄をも切り裂くはずなのに。あの黒蜘蛛の皮膚は相当堅いようだ。
自分の剣が通じなかったツルギは、黒蜘蛛から一度大きく距離を取った。
「かたい……」
「今度は私がやってみよう」
ツルギの一撃で、黒蜘蛛は注意をこちらに向けている。
私はコボルンに攻撃が向かわないよう、わざと黒蜘蛛の前へと飛び出した。
目の前に出てきた新しい獲物に、黒蜘蛛は興味津々のようだ。ギチギチと声を上げながら、赤い瞳でこちらを見ている。
「どうやら、初手は譲ってくれるらしいな」
ならば存分にやらせてもらおう。
「くらえ! 【魔刃】!」
私は魔力で作った三日月状の黒い刃を、黒蜘蛛の頭めがけて射出した。
私の黒と奴の黒がぶつかり合い、激しい火花が散る。
ギャリギャリと音が鳴り、そして、私の刃が黒蜘蛛の頭部を切り裂いていった。
黒蜘蛛は悍ましい声を上げ、暴れ出した。
「良し、効いたようだな」
何気に戦闘で使うのは初めての魔法だったが、これなら何でも切り裂けそうだ。
などと魔法の評価をしていたら、黒蜘蛛がこちらに向かって突っ込んできた。
速度はあったが、真っ直ぐな突進だったので避けることは難しくなかった。
黒蜘蛛はそうしてしばらく暴れていたが、やがて痛みに慣れたのか、止まった。しかし、死んではいないようだ。私に対する強い敵意がそれを教えてくれている。
私が黒蜘蛛の敵意を正面から受け止めていると、ツルギが近くにやって来た。
「あるじ、けんに、あるじのまりょく、ほしい」
「剣に私の魔力を?」
「そう。まとう、かんじ」
言って、ツルギは私に剣を掲げた。その姿はまるで、騎士が王に忠誠を誓うようなものだった。
よく分からないが、私の魔力をツルギの剣に纏わせればいいんだな?
私は手を剣にかざし、魔力を与えた。手から流れ出た私の魔力は、螺旋を描きながらツルギの剣に宿った。
「これでどうだ?」
「いい、さいこう」
どうやらお気に召したようだ。
「じゃあ、いってくる」
そしてツルギは、黒蜘蛛に特攻をしかけた。止める暇もなく走っていったツルギは、黒蜘蛛の足による一撃を受けそうになる。だが、ツルギはそれを見事にかわし、そのまま二撃目を浴びせようとする黒蜘蛛を、一太刀で切り捨てた。黒蜘蛛は崩れ落ち、奴の体液が辺りを汚した。
「しょうり」
勝鬨をあげるツルギの声だけが、その場に響いた。




