図々しいもの
今回の『ガチャハズ』はキャラの台詞だけでも声に出してくれると面白さが1.2倍にUPしますよー。
ぜひ、お試しくださいよー
このさくより
ボーソは自分の世界を護る勇者にふさわしい人物を求めていた。
輪廻の輪に条件に見合う少女が現れた。
輪廻の輪ガチャは成功か失敗か、ご期待ください。
「ありがとうございます。介抱してくださって」
彼女はボーソに頭を下げた。
彼女は、登山中に足を踏み外し、頭を打ったことまでしか覚えておらず、自分が九死に一生を、目の前のイケメンのおかげで得たと誤解していた。
しかし彼女の願いも虚しくもう手遅れだった。
「大変言いづらいんだが君は死んだんだ。今から君に二つの選択肢を与える。どちらを選んでも私は止めない」
彼女は自らの予想が外れて、驚きのあまり言葉を失い口をパクパクさせた。
「一つ目の選択肢はとある世界で怪物から民を護ることだ。二つ目の選択肢は輪廻転生の輪に乗り元の世界で今の君とは違う存在として生まれ変わることだ」
ボーソは出来うる限り、願いを強調せずに言った。
ここで彼女はあきれた反動で回復して、口の回りが普段の二割り増しのスピードになった。
「あなたねぇ、この天才パテシエの卵に向かって死んだとか失礼なことばかり言って、だいたい人に物を頼む時は紅茶の一杯や二杯、出すものよ。」
彼女が一息ため息を付いたことから、説教からボーソが解放されたと思って安堵したとたんに、
「もう、全く、常識でしょ。そうよね」
ボーソは初めて聞く常識に驚いて、またも悪手を打ってしまった。
「は はぁ」
この煮えきらない言葉は、彼女の怒りの炎に油をかけるような結果を生んだ。
「だいたいここ、殺風景すぎやしないかしら。もっと開放的な空間にしないの。たとえばお花畑とか、見渡す限り美しい選り取りみどりの花で埋め尽くされた空間の中央に白い丸テーブルにテーブルクロスをへだててティーポットとティーカップとケーキが置いてあって、虫は……ミツバチとか蝶が踊ってる感じとか、最高じゃない、ねえあんた、あんたもそう思うでしょ、ところであんた誰 私は、菓層 笑美」
ボーソはわりと真面目にこの空間をお花畑に変えようと思えてきた。
「ねえ、黙ってないで答えてよ」
ボーソは途中から全く話を聞いていなかったので、
「サ サイコウデスー」
と言うのが精一杯だった。
「だーかーらー、あんた名前なんて言うの」
若干切れ気味に彼女は言った。
「私、ボーソと申します」
ボーソはうつむき、そう言いながら菓層 笑美と言う女がいわゆる生理現象の日なのではないかと、全く持って的外れなことを考えていた。
「へえ、変わった名前ね、発音しにくい。ボーソ、ボーソ、ボーソ、ほら発音しにくい。それにしてもあんた図々過ぎやしないかしら」
異世界の神の名前が日本語で発音しやすい道理はどこにもない。
だが、文句を言いたいだけの彼女には全く関係のない話だった。
「は はぁ」
ボーソはもはや、は はぁしかしゃべれない状態だった。
彼女は、前回の男と同じく言葉のキャッチボールが成立しない。
だが、彼女は、例えるなら前回の男のがでたらめにボールを投げていたのとは対照的に、まるで鬼難易度のバッティングマシンのようだ。
どれぐらいの難易度かといえば慣れていない人にはボールを返すどころか拾うことさえ困難なほどだ。
「なにが図々しいかって、人に物を頼んでいるというのに相手を敬う気持ちが少しも感じないのよ、あんたには。それどころか自分の方が偉いって見下しているでしょ。少しぐらい先に生まれたからって」
「は はぁ」
菓層 笑美の言葉の意味をボーソは理解できなかった。
ボーソは菓層より少なく見積もっても1200年は先に生まれたし。
人間に物を頼む立場じゃなくてチャンスを与える立場だし。
そもそも神は人より偉いし。
そんな意識が染み着いていたボーソにとって、彼女の言葉は意味が解らなかった。
だが、ボーソは、彼女の機嫌を少しでも直そうと彼女の願いを叶えることにした。
ボーソは指を振った。
すると殺風景な和室が、開放的な青空と見渡す限り一面の花が大地を覆う空間へと変貌した。
「へー 解ってるじゃない。それにしても、私ってこういうセンスもあるのね。すごいじゃない、あなた。もっとすごいじゃない ワ タ シ」
ボーソは不思議だった、彼女がどの口から他人に、図々しいという言葉を吐けたのかが。
「ところで私が他の世界とやらを護るメリットはなんなの。たとえばその世界の菓子作りを学べるとか 最高じゃない。でもこんなに巧い話、裏がありそうね。あとそれを選ばないと生まれ変わるんだっけ。そんなのダメだわ。私はどう生まれ変わっても天才なのは変わるわけがないけど。天才パテシエのままでいられるのかは微妙ね。ダメよそうなったら。洋菓子界における有史以来ない損失よ。ねえ本当に、この二つしかないの?山の上で食べるケーキは格別とか言われて山の上で足を踏み外して『おい、危ない。空から女の子が』とか聞こえた辺りで記憶が途切れているんだけど、私本当に死んだの、あれで、まだ十代よ。十代よ、十代、五千日も生きていないのよ。ティーンエイジャーよ。ねえ、どういうことよ」
ちなみに彼女は生まれて:からちょうど5500日で死んでいる。5000日は嘘だ。
彼女にはケーキ作りと無限の自信と回りすぎる舌以外には人並み以下の才能しかない故の計算ミスだ。
「えっと、生まれてから5113日以上生きていない人はここに絶対来れないはずなんだけど」
ボーソは菓層の間違いを正そうとした。
14歳未満の人間は範囲外なので(365×14)+(14÷4)=5113.5 から彼女の出張を崩そうとした。
むろん悪手だ。
「はぁ、私は十五年と一ヶ月しか生きていないのよ。つまり、えーと百八十一ヶ月ね。さらに三十かけて、えーと、つまり、そう、約五千四百三十日ね。うるう年とか計算めんどうくさいからだいたいの数、そう約数だけどね。
あっ五千日生きているじゃない。でも、だからなによ私が言いたいのはそう言う意味じゃなくて余りに死ぬのが早すぎやしないかってことよ。まあ、世界には子供の内から銃を持たせて争いの道具にされている子供もいるわ、でも私には関係ない。まあ、国にはネグレクトやらで言葉も話せない内から死んでしまう命もあるわ、でも私がこんなに速く死んで良い理由にはならないわ。たぶん私はあと十年どころか五十年、下手したら百年後に死んでも何でこんな早くにって言っている自信があるけど。そういうことじゃない私はまだやりたいことが山のようにあったの。だから記憶をなくして生まれ変わりたくはないわ」
そう言うと彼女は落ち着いたようで、ティーカップを口に近づけた。
「でっ怪物ってどういうのなの。あなたは私にどうしてほしいの。あと紅茶おいしかったわ」
ボーソの精神は疲弊していた。
彼はマシンガントークに耐性がなかったのだ。
「怪物は、紫の肌で角を生やしていて、罪無き人を襲っている」
「へー で、なんで私が護らなきゃいけないの?もっと向いている人がいるんじゃないかな」
ボーソは感動した、菓層と言葉のキャッチボールが成立していることに。
「彼らが現れたときに次元の歪みが確認されていることから、怪物の正体は異世界人で間違いないだろう。異世界人には異世界人をぶつけるのが合理的だろう」
「このケーキもう少し砂糖減らした方がおいしいはずよ。異世界に行くけど世界は護らないって言うのはダメなの?」
この彼女のアイデアは実を言うとボーソに実害はなかった。
「いいの。それで 本当に いいの」
だが、ボーソは予想外の答えを突きつけられて混乱した。
救わないという選択肢を思いつく彼女のずうずうしさに半ばやけくそになり、何でもいい気がしてきたボーソだった。
「ケーキが甘くなくて良いのかって、なにごともほどほどがNo1よ」
けれども彼女はボーソの思惑を斜め上に越え続ける。
ボーソにとって人とここまで会話が噛み合わないのは初めての経験だった。
「そういう意味じゃない。目の前で苦しんでいる人を君はスルー出来るのかって聞いているんだ」
ボーソは忘れようとしていた。彼女が自己中の極み乙女な性格をしていることを。
「出来る出来ないじゃない。目の前の人を自分は安全なまま護る術が有れば考えなくもないけれど、敵のいる場所までわざわざ行くほど人間が出来ちゃいないわよ」
彼女は一拍置いてまた口を開いた。
「そもそもこんなか弱い乙女に世界を託すなんてまともな人間の考えつくことじゃないわよ」
「つまり向かわないということかい」
「なに言っているの。行くに決まっているじゃない」
「えっでも」
「だーかーらー、私はその世界のケーキ技術を学ぶために行く、世界はたぶん護らない。これでいいんでしょ」
「あーもうそれで良いよ」
「そっかー、ありがと。あっでも待って待って、日本語って通じるの?私英語の成績OUTよ」
「君たち日本人に分かりやすく説明すると、翻訳●んにゅく配るから、安心して」
「はー、だったらこの小説のタグに、翻訳●んにゅく支給って入れときなさいよ、というか入れちゃうからね」
唐突なメタ発言である。
「えっと何の話をしているんだい」
「で、帰還の方法はあるの?」
「敵は異次元からやってきた可能性が濃厚だ。つまり敵は世界を自由に越える力を持っている可能性が高い」
「つまりあんたはなにも出来ないと。よーし、渡るにあたって一つだけ条件を付けるわ。今から言う台詞をボーソ 復唱しなさい。そしたら行ってあげても良いわ」
「は はぁ」
「私ボーソは何の力もない無能の極みでございます。私の世界が危ないのに、か弱き少女に頼むことしかできません。ははっどうかこの片道切符で危ない戦いを始めてください」
もはやボーソは彼女に逆らうのは時間の無駄に他ならないと諦めていた。
彼女の言った屈辱的なセリフをなにも考えずにボーソは吐き出した。
「私ボーソは何の力もない無能の極みでございます。私の世界が危ないのに、か弱き少女に頼むことしかできません。ははっどうかこの片道切符で危ない戦いを始めてください」
「ふーん、ありがと。じゃあ向かうわ」
彼女は満足そうに言うとこの空間から消え失せた。
ここから彼女の冒険が始まったのだった。
彼女はボーソがくれた能力【ケーキ作成】を駆使して世界を護ることは可能なのか、こうご期待。
総評
疲れた。ものすごく。次は、まともに会話ができる人間がきますように。
今回の『ガチャハズ』を黙読した方は、最初から声に出して読み直すことを推奨しますよー。
このさくの裏話
ちなみにこのキャラは没作品の流用ですよー。主人公ではないですが作品を作るうえで二番目に決めたキャラです。まあ、いわゆるメーンヒロインってやつですよー。。
ほんやく●んにゃく支給タグ付け忘れたよー。orz
付けたよー。
外したですよー