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暴露大会~マイス~

「さ、残るはお前だけだぞ、マイス」


「そのようだ」


 マイスはいつもと変わらない、平静な口ぶりだった。


「あれだけ俺に発破かけて急かしたんだからな、お前ももったいぶらずにさっさと話して、さっさと終わらせろよ」


「言われなくてもそのつもりだ。こんなばかげたことを長々と続ける気はない」


「……っても、お前にはそんな深刻な問題とか悩みってなさそうだよな。何やらせても憎らしいくらいそつなくこなすし、挫折らしい挫折とかもなさそうだし」


「ああ、そうだな。だから大した話ではないよ。私もソルエルのことが好きだったというだけで」


「え……?」


「は?」


 危うく聞き逃してしまいそうなくらい、マイスは何気ない会話のようにさらりとそんなことを言ってのけた。

 しかしその言葉には、絶対に聞き流せないものが混じっていた。

 信じられないといった様子でルビが頭を抱える。


「え、ちょ、待てよ。今ここでそんな冗談言っても誰も笑えねーって……」


「わかってる。だから冗談ではないよ。ルビだってソルエルのことが好きだろう? なら、私の気持ちも少しは理解してもらえると思ったんだが。彼女はこんなにも魅力的な女性なのだから」


「す、すごいこと平然と言いやがって……。どこが〝大した話ではない〟だ。ああっ、騙された! なんてやつだ、今までぜんっぜん気づかなかった。マイス、それなのにお前、ずっと俺の応援なんてして……」


「まあ、そういうことになるな。ちなみにもっと言いにくい話なんだが、ルビ、お前のことも私は好きだぞ」


「へ……?」


 マイスに言いたいことがたくさんあったはずのルビが、ここで不意打ちを食らって思わず呆ける。


「え……?」


「本当は一生言うつもりなんてなかった。すまない、こんな話を聞かせてしまって」



 マイスは眉を下げ、それから自嘲気味に微笑んだ。

 彼のそんな表情を見るのはソルエルもルビも初めてのことだった。その心底申し訳なさそうな顔を見れば、もう冗談はやめろなどと口にすることはとてもできなかった。


「……それは、友達、としてではなく、ってことか……?」


「ああ。ソルエルにもルビにも、私が抱いているのは恋愛感情だ」


 マイスの淡々とした口調が、余計に生々しくその事実を伝えてくる。彼はソルエルからもルビからも視線をそらしながら、話を続けた。


「嫌悪されて当然だとはわかっている。二心ある上に、異性同性の見境までもない。私自身ですらずっとこの気持ちを受け入れられずにいたのだから、今初めて知った君たちはなおさらショックだろう。だから私は、今日でこの友人関係を終わらせる覚悟で打ち明けている」


「マイス――」


 ソルエルが何かを言いかけたが、マイスはそれを制して彼女の言葉を拒んだ。半端な気遣いや同情ならばいらないという、彼の頑なな意思の表れだった。

 それでも、「誤解してほしくないのだが……」とマイスはためらいがちに言葉を繋いだ。


「二人を好きだと言っても、私は決して君たちに何かを求めていたわけではないんだ。それだけは、どうかわかってほしい。これ以上の関係より何よりも、私が長年ずっと望んできたことはただ一つ。ずっと君たちの友人でい続けたいということだけだ。それだけが私の願いだ」


 はっきりと言い切ったマイスの手元に、鮮やかな明るい炎がともされていた。これで、すべての真実の炎がそろったことになる。


「ほら、言ったろう。すぐに終わらせるって」


 手元から離れていく炎を見送りながら、マイスはいつもの涼やかな顔に戻っていた。

 三つの炎が重なり、新たに出現した分かれ道を照らす。そこがきっと、この洞窟の真の出口だ。


「さあ、行こうか」


「待てよ、マイス。一人で勝手に終わらせて満足してんなよ。俺は、ここからまだ出る気はないぞ」


「は……?」


 マイスがこれ以上ないほど眉間にしわを寄せ、怪訝な顔つきをした。


「何を馬鹿な。話なら後でいくらでも聞いてやるから、ひとまずは一刻も早くここから出ないと――」


「この洞窟では誰も嘘が吐けないんだろ。ならたぶん、今ここで俺が嘘を言えば、せっかく出たあの炎も消えるよな。そうなったら困るよなぁ?」


「……何が言いたい?」


 マイスが本気で怒りをあらわにしかけたとき、ルビはすぐさま食って掛かるように、己の主張をマイスにかぶせた。


「この際だから、嘘の吐けないこの場所で、お前にはっきり言ってやりたいことがあるっつってんだよ。安心しろ、時間は取らせねえ。俺だってここから早く出たいと思ってんだ。これから話すことは全部俺の本心だからな。いいか、よく聞けよ」


 ルビの剣幕に、マイスは思わずたじろぐ。そのまま主導権はルビに強奪されてしまった。


「あのな、お前がどんだけ悩んできたか知らねーけど、俺は今の話を聞いても、別にお前のこと嫌だとか思わなかったからな。そりゃ、驚きはしたけど……。――ああ、そうだな、むちゃくちゃ驚いた。びっくりしすぎて、今もまだ心臓ばくばくいってるよ。でもそれだけだ。

異性とか同性とか細かいことは知らねえ。それって、単に一方通行の恋愛だったってだけで片付けられないもんなのか? それなら俺だって同じことだし。それにお前は、誰も不快にさせないようにって、ずっとその気持ちをひた隠しにしてたんだろ。俺たちマジで気づいてなかったからな。

その点俺なんかは、自分優先でばんばんソルエルに気持ちぶつけちまってたから、お前が嫌悪されるなら、俺なんてなおさら立場なくなるぞ。だから……ってのも変だけど、えっと……つまりその、もう気にすんな。

お前の本心が聞けて、俺は良かったと思ってるぞ。マイスってこんなやつだったんだって、初めて本当のお前を知れたような気がするしさ。悩みなんてなさそうだなんて言って、マジで悪かった。お前が俺たち〝二人〟を好きだって言ってくれたこと、俺は素直に嬉しかったぞ」


「わ、私もだよ、マイス。私も嬉しかった。マイスはどうしていつも落ち着いてて、それでいて優しくいられるんだろうって、ずっと思ってた。私たちのことを、それだけ大事に思ってくれていたからなんだね。……自分の気持ちよりも。それを知って嬉しくないわけないよ。

だから、お願いだから友達をやめるなんて言わないで。私、そんな理由でマイスと一緒にいられなくなるなんて、絶対嫌だから」


 出口を照らしている三つの炎は、依然としてこうこうと燃え続けたままだ。それを見て、マイスは言葉にできない気持ちを、ため息に変えて漏らしていた。


「……そうか。君たちがそんなふうだったから、私は君たちを好きになったのかもしれない。初めて、君たちのことを好きになって良かったと思えたよ。ありがとう」


 マイスは控えめな笑顔で二人を見た。

 そして、ソルエルにこんな助言をしていた。


「ソルエル、偉そうなことは言えないが、自分の気持ちを隠しながら生きてきた者としての私の意見を聞いてほしい。後ろめたい気持ちを持っていながらでも、魔法はちゃんと使える。むしろ、それがない人間などいないんだ。強い想いは、かえって魔力として大いに武器となる。大丈夫、今の君なら、きっと火だまりを克服できるはずだ」


「マイス、今のお前が言うと、なんかすげえ説得力あるな」


「だろう?」


 マイスが笑った。


 三人はそれからすぐに、真実の炎が示す方向――洞窟の出口へと迷うことなく突き進んでいった。

 道中で三人は、普段通りに他愛ないやりとりを交わしていたが、ソルエルには今こうしていられることが奇跡のように思えて、そしてそれが心から嬉しくもあった。


(みんな抱えてる。それぞれの苦悩と、手放せない大切なものを。じたばたしていたのは、私だけじゃなかったんだ……)


 そう思うと、今までとは違った世界が見えてくるような気がした。

 真実の炎に導かれるまま洞窟内を進んできたにもかかわらず、突き当たりは行き止まりになっており、三人は首を傾げた。


 ひんやりとした冷気を感じる。突き当たりになっている部分は、よく見ると岩石や土壁ではなく、全体が厚い白雪に覆われていた。

 ――とすると、もしかしたらここがケイブイーターの出口で、外の世界と繋がっている場所なのかもしれない。


 つまり、外はすでに冬ステージになっている可能性が高いことが考えられた。長居しすぎた。一刻も早く、この洞窟から出なければならない。


「雪か。マイス、頼む」


「ああ」


 マイスが炎を出そうとするが、彼はふと何かを思いついたように、構えた腕を一度下ろしていた。


「ソルエル、ここは君に頼みたい。やれるか?」


「え――わ、私……?」


 ソルエルは声がかかると思っていなかったようで、小さな驚きを見せていた。それにマイスが深く頷く。


「今の君にならきっとできる。やってくれ」


 ソルエルの心臓がどくんと跳ねた。

 自分にできるだろうか。魔法発動が行えるようになったとはいえ、まだ制御もままならず、しかも偶然のような頻度でしか、魔法を繰り出すことができないでいるというのに。

 しかし、ソルエルは迷いを打ち消すように己を奮い立たせた。


(弱気でいてはいけない。自分の力を、自分の心を信じよう。強い想いはそのまま魔力になる。魔法は自分の心と同じ。自分のものにできるかどうかは、全部私次第だったんだ)


 ソルエルが深く息を吸った。


「〝きよむる炎よ、くだたまえ。穢れを焼く火よ、たまえ。猛き血潮のもとに集いて、焼き尽くせ〟――〈ヘルフレーマ〉」


 仄暗く冷ややかだった洞窟内が、急にものすごい勢いの業火に包まれ、一気にその場を明るく照らすとともに、暑さを感じるほどの暖気を生み出していた。


 炎の勢いは非常に強いものだったが、味方に害をなすことはなく、行き先を閉ざした雪の重壁のみを一気に解かし続けた。

 最後まで、わずかな水滴すらも残すことなく燃焼し尽くすと、あれだけ派手に燃えていた炎は跡形もなく消えてなくなった。


 緊張の糸がとけたソルエルは、その場で膝をつく。

 洞窟の向こうには、辺り一面の雪景色が広がっていた。


「すげーじゃん、ソルエル!」


「見事な炎だった」


「……みんなの、おかげだよ」


 ソルエルは、はにかむような笑顔で二人に応えていた。


 彼女が長年に渡って悩まされてきた火だまりの症状は、その日をもってすっかり消失し、もう二度と現れることはなかった。

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