B班の言い分
狭いテントの中にこもっていた全員が夜の野外に出ると、テントの外では、残りのB班メンバーであるエリックとリュートも待ち構えていた。オズマの言う通り、彼ら二人の顔や首元など、目に見える部位だけでもうっすらと火傷の跡が見て取れた。治癒魔法を毎日施せば、いずれ火傷跡はどうにか消せるだろうが、問題はそこではなかった。
マイスは無口なリュートを一瞥すると、次に、一番効率的な会話ができそうな委員長であるエリックの前に進み出た。
「いると思ったよ。……ということは、この奇襲はオズマとミナトの身勝手な暴走行為というわけではなく、B班の総意で決行されたとみていいんだな?」
「ああ、そうだ」
エリックもマイスと同じく冷静な声のトーンを保っていた。
「どうして僕たちB班が、こんな馬鹿なことをしたのか、と理解できない様子だな。まあ、気持ちはとてもよくわかるよ。昨日の僕たちが、まさにそうだったから」
エリックの口からも昨日という単語が出て、ソルエルはどぎまぎすることしかできなかった。昨日、彼らに何があったというのだろう。自分と何の関係があるのだろう。
「何も知らないようなので、一から説明させてもらおうか。私たちB班は、昨夜ソルエルに襲われた」
「はあっ?」
ルビが素っ頓狂な声をあげる。
「んな馬鹿な話、信じると思うか」
「僕らもできればそれを否定したかった。だからこそ、こうして直接自分たちの目で確かめにきたんだ。昨夜、B班全員がソルエルの姿を視認しているけど、それは幻視かまやかしの類の可能性もある。
だからこそ、僕は襲ってきたソルエルの背に、目印となるよう水呪をかけた。そして、それが残念なことに決定的な証拠となりえてしまった。君たち二人は、もう彼女の背を見たかい?」
マイスもルビも一瞬押し黙ってしまった。しかし、それでもなお、ルビは信じたくない一心で反論する。
「そ、その呪詛を昨日かけたなんて、どうやって証明すんだよ。もしかしたら、お前らが俺たちに言いがかりを付けるために、今わざとソルエルに施したものかもしれねーだろ。お前らが適当に口裏合わせてる可能性だって、十分あるだろうが」
「……それもそうだな。なら、当の本人に直接確認してみるのはどうだ? ソルエル、その呪詛はいつ受けたものだい?」
エリックが思わぬ方向に会話を投げかけ、ルビとマイスは同時にソルエルを見た。すると、彼女はぽつりぽつりと、震える唇でなんとか言葉をひり出していた。
「背中のこれは……たしかに今付けられたものじゃない。知らない間にこうなってて、指摘されて初めて気づいた。……でも、私があなたたちを襲ったなんて、まったく知らないことなの。信じて……私自身、何がなんだかまるでわからない」
ソルエルは必死に言い募りながら、心の奥底では、結局完全に疑惑を拭い去ることはできないのだろうと、B班四人の目を見て思った。
そして、ルビやマイスが向けてくる驚きに満ちた眼差しを見ても、きっと同様のことが言えるのだろうと思ってしまった。
ソルエルはそれでもさらに言葉を続けた。完全に疑惑が晴れることはなくても、ここで黙ってしまえば、それこそ終わりだ。
「たしかに、最近やっと魔法が使えるようになったのは事実だよ。でも、あなたたち四人を相手に善戦できるレベルでは決してないし、もちろん、諜報員だなんてこともあるわけがない。今まで魔法を使えなかったのが全部演技だとしたら、私はそちらの自分のほうがよほど羨ましい。
――そもそも、私にはあなたたちを襲う動機もないし、ましてそんな大それたことをする度胸もない。そんなことは、みんな長年の付き合いでわかってるでしょう?」
「たしかにその通りだ。だが、それなら君の背に刻まれた水呪のことはどう説明するつもりだ? ……まあ、一つ考えられる可能性としては、ソルエルが誰かに操られていたかもしれないということだが。ルビもマイスも、彼女の容疑を否定しつつも、一晩中テントの中で見張っていたわけではないだろう?」
「そりゃあ……当たり前だろ。でも、ソルエルを操ってB班を襲わせるなんてことに、いったい誰に何のメリットがあるんだ? てか、仮にそうだったとしても、人を操るような高等魔法なんて、完全に四季外魔法の域だろ。そんなことできるやつなんてこのクラスには……」
ルビが言葉を詰まらせると、エリックはこうも言った。
「それからソルエルについて、実はもう一つ気がかりなことがある。むしろ、こっちのほうが重く受け止めるべきことなのかもしれない。これは、本人に言うべきか否か迷ったんだが……」
そう言って、エリックはわずかに言い淀んだが、それでも意を決した様子で神妙に告げた。
「僕の水占いで、ソルエルが近いうちに、このクラスの誰かを殺すと出た」
「え……?」
「な――」
さすがに、ルビはもう我慢の限界だった。
「おい、いい加減にしろよ、マジで。お前ら頭いかれてんじゃねーのか。ソルエルが……こいつがそんなことするわけねーだろっ」
ルビがわめくのを、エリックは少々眉間にしわを寄せながら眺め、それでも予測の範疇だとでも言うように、あくまで彼は冷静に言葉を繋いだ。
「もちろん占いは絶対じゃない。悪い結果が出ても、その通りにならないように意識して動けば、回避することは十分ありうる。だがそれは裏を返せば、このまま何もわからず何もできないままでいると、限りなくその結果通りの未来に近づいていくということだ」
「知ってると思うけど、エリックの水占いは頻繁にできない分、的中率はものすごく高いよ。たぶん今までに九割以上当ててきてる」
オズマが横から口を挟んできたので、ルビがあてつけるように足を踏み鳴らした。
「知ってるっての。だから余計にむかついてんだ。そんなこと、あってたまるかよ。俺は絶対信じないぞ。絶対……」
「まあ、そう言うだろうなと思っていたよ。僕たちも最初はひどく動揺したし、同じ班員ならなおさらショックだろう」
「その占いは、結果しかわからないのか? 例えばどうしてそうなるかの過程は――」
マイスが問うと、エリックは気の毒そうにかぶりを振った。
「残念だけど、そこまではわからない。昨夜ソルエルに奇襲をかけられた後、彼女のことを調べるために占った。そしたらこんな結果が出てしまったんだよ。もちろん、誰が殺されるのかもその理由もわかっていない。
こんな不確かな情報のみを与えて、かえって混乱させてしまっただろうけど、それでも、知らせなければならないと思って伝えた」
すっかり放心状態のA班三人に、同情を禁じ得ないながらも、エリックは話を続けた。
「とにかく、今回の僕たちのやり方が多少手荒すぎたことは認める。そこは謝罪したい。ひとまず、昨夜と今夜の一連の出来事に関して、先生方には嘘偽りなく報告させてもらうつもりでいる。もちろん僕たちの非も含めて。
――それから……そうだな。もし仮に、僕たちB班に二度目の奇襲がかけられたとしたら、そのときは今度こそ本気で容赦はしないと宣言しておこう。僕たちも自分の命は大事だからね。それでいいかな」
「……ああ、構わない」
マイスが口元を引き結ぶ。その返答を聞いてエリックは安堵していた。
「ありがとう、こちらの言い分を最後まで聞いてくれて。とりあえず、僕たちB班から伝えなければならないことは以上だけど。それとは別に、こちらから質問したいことがいくつか――というか、少し互いの班で情報交換をさせてもらいたいのだけど、どうだろう?
こんな殺伐とした話の後で交わす気分にはならないかもしれないけど、この広いテラ・フィールドの中でクラスの仲間と出会える機会は貴重だ。もし君たちA班が本当に僕たちの敵じゃないというのなら、少しだけでもその意を示してくれないか」
「まあ……そんな大業でなくても、情報交換くらいなら別にいいけどよ。それに、いろいろ聞きたいのはこっちも同じだしな。――あ、その前に、ソルエルにかけた呪いを、まずは責任もってちゃんと解けよ」
「ああ、それなら心配には及ばない。その水呪は、被呪者に気づかれてしまえば、そのうちほどなくして自然に消える弱いものだよ。初めから解呪するつもりだったから、彼女にはあえて教えた。本気で苦しめたり殺したりする手段なら、他にもっといくらでも有用な方法があるからね」
「……委員長が言うとマジでシャレになんねーな。安心しろよ、お前らがそんなことしなくても済む未来にしてやるから」
ルビがげんなりした口調でつぶやく。
エリックの話を聞く分には、彼らもソルエルを真っ向から疑ってかかっているわけではないということが伝わってきたので、それに関しては、A班三人は多少なりとも胸を撫で下ろしていた。伊達に長年同じ学び舎で過ごしてきたわけではないということだ。




