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ebullient shot  作者: 西住峰人
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プロローグ

はじめまして。初投稿です。

硬式テニス指導歴21年。紆余曲折して今は独立して個人でスクール経営しています。

硬式テニス経験者は勿論、今現在プレーされている方、テニスに興味を持たれている方…

テニスに関心のある方々が楽しんでくれたら…と思っています。

また物語には、具体的な練習方法や上達のコツも紹介するつもりです。

皆さんも登場人物たちと一緒に上達してくれたら嬉しいです。

宜しくお願い致します。

ここ入間中学は、正門前を抜けると左側に大きな桜の木がある。

今年の桜は、もっぱら温暖化が進んでいると噂の世相を揶揄するかのように、珍しく遅く咲いた。

そのお蔭で入学式が終ったこの頃、まだしっかりと花びら残しつつ、これから葉桜へ変わろうとしていた。

そんな世相を揶揄したような桜に共感じみたものを覚えながら、正門を抜ける。

男は教師専用の昇降口へ向かっていた。

階段に足を掛けたその瞬間、男の背中からビル風を連想させるかのような一陣の風が吹き抜けた。

足元から、落ちた桜の花びらを舞い上がらせる。

男は風と、舞い上がる花びらを待っていたかのようにその場に立ち止まると、

その【花びら達】に向かって素早く腕を突き出し、拳を握る。

花びらをつかんだ何とも言えないしっとりとした柔らかさが確認できた。

掌には花びらが5枚。

男は悔しそうに口元を緩ませる。


その花ビラ達を前方に放つ。

それは残っていた風につられて乗って舞い上がっていった。



 昇降口へ向かう階段を上がり終え、ガラス戸の黒いドアノブに手をかけたとき

男の耳に、聞き慣れた――

もう生涯忘れることの出来ないであろう音が聞こえてきた。

ドアノブからは手が離れ、反射的に背後から聞こえたその音の方向へ体を翻す。

だがその音は単発にしか聞こえない。

一方通行の音。

その音に導かれるまま、上がってきた階段を下り、歩き始める。


気が付くと男は、テニスコートの入り口に立っていた。

コートには男の子が一人。

必死にサーブ練習をしている。

まだ経験が浅いのか、不安定なフォーム。

トスアップするボールは覚束ない。

時折ラケットのフレームに引っかかり、耳障りな音を立てる。

「トスアップの時に手首を使い過ぎだ。

手首は固定して、腕全体を一本の棒のようにイメージして上げるんだ」

その声に驚き、男の子はハッとなって男のほうへ目をやる。

いきなりのアドバイスで驚いたのだろう。

同時に突然偉そうなアドバイスをする男を不審に思っただろうか。

「あ、ありがとうございます」

低く、滑舌が良いとは言えない声で反応する。


 男のアドバイスから何分経っただろうか。

男の子のサーブは、見始めた数分前とは別人になっていた。

そのサーブは、明らかにエリアに収まる確立が上がっている。

先程まで覚束なかったトスアップは、徐々に一定の位置に上がり始めている。

外へ曲がるスライスサーブを練習していたのだろう。

回転の掛かり具合も良くなって、バウンド後はしっかり曲がっている。

トスアップのアドバイスしかしてないのに、トスが良くなることによって相乗効果が生まれ

スイングの軌道も安定し始めたのだ。

「じゃーな、少年。いつから練習しているか知らんが、そんなにサーブだけ練習したんだから、家に帰ったらアイシングしろよ」

そう告げると、男は踵を返す。

「あ、ありがとうございました」

最初よりは大きい…それでも滑舌が良くない控えめな声でお礼が返ってきた。


――コートの隅に、先ほどの花ビラ達が舞い込んでいたことに誰が気付いただろう。


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