塔にて~手紙~
城下の村々では村人が木々を山から切り出し、暖炉のための薪を集めていた。降りしきる雪で、あたり一面白くなっていた。その様子を、冬の女王は塔から毎日のように眺め、そして嘆息した。
「人というのは、どれほど自然を壊せば気が済むのでしょう」
冬の女王のいる部屋は、塔の最上階。中からは開けられない鍵のかかった部屋であった。この扉が開くのは、食事のときと女王の交代式の時だけだった。
女王の交代式は、年に四回、春分の日、夏至、秋分の日、冬至に行われる。旧季節の女王と、新季節の女王とが交代すための式である。
今は、一月の上旬。次の交代式まで、あと約三ヶ月ある。それまで、冬の女王はこの塔で過ごさなければならない。捕らわれの身として。
「女王、食事を持ってまいりました」
外から声がかかり、扉が開いた。声の主は、白い浄衣を着ていた。食事を中に運びこむとすぐに出ていった。
冬の女王は、その冷えたスープを飲む。喉をつたう液体は、冷たく味気ない。それを腹に流し込むと、再び窓際に近寄る。
遠くから、鷹の甲高い鳴き声が聞こえた。遠くの空からこちらに向かってくる鷹がいた。鷹は、窓の前にある旗を掲げるためのポールに止まった。
冬の女王は、窓をわずかにすかすと、鉄格子の隙間から手を伸ばしその鷹の足についている紙切れを取った。そして、鷹に自らの食事として用意された肉を与えた。
鷹は、それをむさぼるようにして食べた。
冬の女王は、椅子にすわりわずかに明かりの灯るろうそくの下に移動した。紙切れを広げてその内容を読む。
『敬愛なるウィンターへ
お元気ですか?スプリングです。そちらは今頃も猛吹雪と言ったところでしょうか。こちらは春のうららかな日の下、元気に過ごせています。身籠った子供も元気に成長しています。残念ながら出産は、四月末頃だということです。ご迷惑をおかけしますが、例の計画を実行に移してください。
春の深まる頃に、元気な子を産んで参上します。それまで、なんとかして時間を作ってください。これが私たちの使命なのです。どうかよろしくお願いいたします』
紙切れにはそう書かれていた。
女王には、それぞれ名前がある。スプリング、サマー、フォール、ウィンターという名だ。だが、人々は彼女らを春の女王、夏の女王、秋の女王、冬の女王と呼んでいる。
冬の女王は、その紙切れを懐に入れると、部屋にある小さな暖炉から燃えきった木の破片を取り出した。食事の時に用意されたナプキンに、炭となったその木の破片で手紙の返事を書く。
『親愛なるスプリング、サマー、フォールへ。
こちらは相変わらずの天気で、毎日退屈しています。そちらは天気がよさそうで何よりです。元気な赤子を生んでくれることを祈っていますよ。
このごろ、以前にもまして人の森の木々の搾取が激増していて困ってます。どうした良いものかと、私も悩んでいるのですが、皆の知恵を貸してもらいたい。どうも、私の力だけで解決できそうにないので。
老人が若者ために身を捨てることは、必至の事。老兵は去るのみ。その覚悟で今回の計画に臨む所存。心配せずに、自分のできる最善策を尽くしなさい。これが、私からの最後の教えです』
そう書いた手紙を、再び窓の外に止まっている鷹の足に着けた。鷹は、甲高く一声なくと南に向かって飛んで行った。
(今年の冬は、長くなる)
冬の女王は、しわの多い手を暖炉に近づけてそっと温めた。