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第十八部

その男は凍り付くような瞳でこちらを見つめている。いや、加奈を見ている。

「おい、時繰の魔女。聞こえてるのか?ああ、気を失ってるのか。ちょっとやり過ぎたかな」

「なんだ、お前」

倒れている加奈をかばうようにその男の前に架は立ちふさがる。

「知りたいのか?知ってもさほど意味はないと思うが」

「どうしてだ」

「今から殺すからだよ」

男が向けた視線に背中が震えをおぼえる。明らかな殺意。それが今、架に向けられている。

「まあ、別にいいさ。答えてやる。簡単に言えばお前らが言ってる違法ギルドのリーダーってやつだ」

「な!」

「なんだその顔は?中途半端だな。どっちつかずの目を向けるな、気持ち悪い」

「なんでここが分かったんだ?」

「あぁ?絞り出した結果がそれか?おまえ頭悪いだろ?」

頭が悪いのはお前の方だ。そういいたい気持ちを抑え、架はその男の目をじっと見つめる。男の後ろではすでに目覚めたユメが詠唱を始めている。

「質問に答えろよ」

「はぁ。特異点だからちょっとは期待したがこのザマか。いいか?いいことを教えてやる。男っていうのはやましいことをするとき決まって相手の目をじっと見つめるんだよぉ!」

その言葉を言い終わらないうちに男は後ろを振り向く。

「なっ!」

驚いたユメが少したじろぐが詠唱に問題はない。

「魔術行使!バレッド―」

「遅いよ」

「なっ!」

―ボォォオオオォン―

「きゃぁっ!」

「ユメ!」

大きな爆音とともに起こった爆発によりユメの姿は部屋の隅まで消える。

「なんで、いたっ!私より早いの」

「お前らがちゃんちゃらおかしく伝統だ、文化だのなんだのって言ってそのバカ丁寧な詠唱の仕方を続けてるからだ」

「まさか、無詠唱でやったっていうの?」

「だからそうだって言ってるだろ」

恐らくこの場の誰もが思っていることだろう。この男は何かを超越していた。架から見ても、その何かは胸をえぐるように伝わってくる。

「架くん!加奈さんを連れて逃げて!こいつは私が何とかする」

「やめてくれユメ!それ自分が死ぬって言ってるから」

「大丈夫。加奈さんさえいればすべてやり直せる。そのための私なんだから」

「何を、言って」

「お取込み中悪いんだが。おれはヒーローアニメのようにセリフが言い終わるのを待ってやるほど気は利かない」

男は倒れているユメに背を向け、架の方に向きなおす。

「逃げられると思ってんのか?お前ら俺だけで来てると思ってんのか?周りを囲んで逃げ場をなくすくらい誰でもやることだろ」

「そ、そんな」

最初から分かっていたことだ。こいつの目は本気だった。恐らくすべて読み通り、なのだろう。

「安心しろ。お前たちを根絶やしにした後は、平和な世界を作ってやる」

「そんなの、信用するわけないでしょ!」

「まあ、そりゃそうか。悪と正義は決して交わらない。どちらが正義か、どちらが悪かなどということは関係ない。重要なのは、どちらが強いかそれだけだ。強い方が正義ってわけじゃない。強い方がすべてなんだよ」

さて、と男は架のほうに向かってくる。いや、時繰の魔女、加奈のほうへと。

「やっと殺せるんだ。こいつを殺せば終わるんだ。すべて終わるんだ。カレンも、戻ってくるんだ」

「やめろ!それ以上近づくな」

「どけ!やらなきゃいけないんだ。誰かがやらなきゃいけないんだ。その生ける災厄を終わらせる」

「なんなんだよ。加奈がなんだって言うんだよ!」

男は架には目もくれずに手をかざす。

「現象せよ。我、クルトの名において命ず。魔術行使、ヘルエクスプロージョン!」

「やめろおぉおおおぉお!」

その白い世界の中。架は何かを握る。そして放す。それが何だったのかは分からない。でも確かに握っていた。そして放したとき、聞こえた。

「さよなら」

遠のく意識の中でその言葉だけが架の頭の中でかすかに、こだましていた。

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