第一部
「ピピピピピピピピピ」
いつもの煩わしい音に目を覚ました架はおもむろにその手を時計に伸ばし叩きつけた。時計の針は7時を指していた。その重い体を起こし部屋のドアを開けるとそこにいたのは―
「架様。おはようございます。」
「ひゃっ。」
その声を発した体は少し後ずさる。
「どうされました。私が何か。」
「いや、お前は何でもない。着替えよろしく。」
かしこまりました。そう言ってある部屋へ向かう。
「博士ー、いたらちょっと来て。」
その声に応じる声はなかった。代わりに飛んできたのは一機のドローン。
「博士は不在でございます。ピーっと音が鳴りましたら、メッセージをお伝えください。ピー」
「博士?これで・・何回目かわからないけど、ドアの目の前にロイド置くのはやめて。マジで。あれ結構怖いから。」
「メッセージを承りました。お伝えします。」
一仕事終えたドローンは元の場所へ戻ろうとする。そのドローンに付いていくように階段を下り、リビングのソファに座る。
「テレビの電源をONにしますか?」
つけて。その一言だけでテレビには電源が入った。
「着替えをお持ちしました。」
気付けばさっきのロイドが着替えを用意していた。無機質な手の上に高校の制服が置かれていた。それを手に取り着替え始めた横ではテレビの中のアナウンサーが話し始めていた。
「西暦2032年7月8日、今日のニュースをお伝えします。昨日夕方ごろ、クシマ州の州立喜久磨高等学校で火災が発生し南棟が全焼しました。南棟は旧校舎で人が少なかったため、幸い被害者は0ということですが、原因は不明であり、警察は放火の線も視野に捜査を進めています。」
昨日のあの事件の事だ。僕がいた図書室は南棟からは離れていて簡単に逃げられた。
「次のニュースです。」
ただおかしい。
「カンナ州の鳥羽川の河川敷で―」
消防車だってかなり早く到着していたはずなのに。
「謎の焼死体が発見されました。」
あの鉄筋コンクリートの大きな旧校舎が
「指紋が消えるほど焼けていたということです。」
全焼などするのだろうか。
「架様、そろそろ出発のお時間です。」
そんなことを考えているうちにいつの間にか時計は7時半を指していた。
「架様、朝食がまだなのですが。」
今日はいい。それだけ言い放ち玄関に向かった。
「それでは、行ってらっしゃいませ。」
その言葉を背中で受け流し、玄関を開けた。突如として差し込む夏の日差しにあてられそうになる。今日も玄関で僕を見送るのは一体のアンドロイド、ただそれだけだった。