第十六部
それからのことはよく覚えていない。というか覚えようがないほどいろいろなことが起こったんだと思う。
「架くん!ほら走って」
加奈が僕の手を引きながら走っている。ユメに家を連れ出されてからやっていることと言えば走っていることだけではないだろうか。
「加奈!さっきの先輩は?」
「え?あの男の人?えぇと」
「架くん?」
ユメが突然口をはさむ。
「あなた目の前で見てたでしょう。何を聞いてるの?」
「そうだよ、架くん」
ああ、そうだ。よく考えれば覚えている。
ユメいわく加奈は時間を操る魔女らしい。さっきの先輩が原子の振動を操って熱を起こせるように、加奈は色々な物体の時間を操作することができる。そしてその時間とはこの世をつかさどるもの。控えめにいって加奈の能力はチートである。
「今頃土の下に埋まってますよね」
加奈はその能力をつかって地形を変動させ先輩をいとも簡単に土の下へ。どういう応用かと聞けば。
「あれはねえ、一部の地形を何百年か前に戻してその土の移動で埋めたんだよ」
と言う。ちょっと何言ってるか分からない。
「あの!」
架は二人に声をかける。
「もう追手はいないんじゃないんですか?何でまだ走るんですか?」
「追手がいないなんてことはないし、なにより早くあの計画を始めなくちゃいけないからね」
「あの計画?」
「それはいずれ話すよ。架くんは大事なキーパーソンだし。加奈ちゃんもね」
「えへへぇ」
加奈は架の隣で笑う。笑っている。
「やっと着いたぁ」
ユメがひときわ大きい声をあげる。
「ここが目的地ですか?」
着いたのはビル街に紛れた一軒の廃ビル・
「そうだよ、架くん。よく走ったね」
「ほんと走りましたね」
「小鳥がいればもっと早く着いたんだけど」
ユメが小鳥の話をし始める。あまりいい空気ににはならないのは当たり前だ。恐らくもう小鳥は死んでいる。
「さあ、早く入ろう。少しでも外にいる時間は短くしたい」
そう言うユメに連れられ加奈と共に廃ビルの中へ入る。入るとそこには地下へとつながる一つの階段。
「降りるよ。暗いから気を付けてね」
「うわぁ、暗いの苦手だよ架くん」
加奈が架の方へ体を寄せる。
「ちょっと加奈。危ないからあんまりつかまないでよ」
「ええぇ、いいじゃん久しぶりに会ったんだし、もっと優しくしてくれても」
「はいはい、リア充はそこらへんで爆発しといて」
階段を下りきったところに一つのドアがあった。
「ちょっと不用心じゃありません?」
「開けてみればわかるよ」
架は現れたドアのドアノブに手をかけドアを開ける。
「は?」
ドアを開けると架の目には光が飛び込んでくるわけでもなく、そこにあったのは今までとさほど変わらない暗い物置だった。
「ユメさん、これは」
「じゃじゃーん、正解はこっちでした」
気付けば架が開けたドアとは反対側に扉が現れていた。
「ユメさん」
「ごめんごめん、こっちはフェイクだよ。私たちが持ってるこのカードキーがないとこの扉は現れないようになってる。」
「すごーい、なんかラノベみたい」
君が言うセリフではないと思うのは架だけではないだろう。
「じゃあ今度こそようこそ魔法学研究所へ!」
ユメがその声に合わせ扉を開ける。
「とりあえずここに座ってもらえるかな」
扉を開けた先に広がっていたのはあの小さい扉からは想像もできないくらい大きい研究室のようなところだった。そして今架達の前に座っているのが魔法学研究所の所長という肩書をもつ、クロック博士という人だ。
「いや本当に、迎えが遅くなってしまい申し訳ない。もっと早くに行かせるつもりだったんだが色々と問題があってな」
「あ、いえいえ」
やけに腰の低いこの所長も能力者らしい。
戦闘向きではないらしいが。
「ユメ、早速説明をしてくれ」
「了解です、所長」
さっきまで横に立っていたメアが再び架達の前に立つ。
「今現在、世界中に点在する違法ギルドとの戦いに魔法学研究所は身を投じています」
「ふむふむ。」
「ですが最近一人のある指導者の手によって数多くに分かれていた違法ギルドが結集し強大な組織となってしまいました」
「ある指導者?」
「名前も顔も明かされてはいないけれど、今やすべての違法ギルドの指揮を執ってる人物なの。
その結集した力の前には魔法学研究所の力では太刀打ちできず、組織の力は急激に弱まっています」
「日本支部以外にも本部があるのだが、なにせ能力者が殺されてしまって、一番生き残りの多かった日本支部が本部になってしまったほどなんじゃよ」
「そこでお二人には!」
ドンッとユメが机に手を振り下ろす。
「この超危機的な状況を一撃で打破することのできる作戦を実行してもらいたいのです」
「つまりそういうことじゃな」
「いやいやどういうことですか」
一人納得している所長をしり目に架は問いかける。
「あはは、そうだね。じゃあここからは具体的に作戦の内容を言っていきたいと思いまーす」
「何するの?何するの?」
加奈が隣で目を輝かせる。
「ズバリ!」
ユメが目を見開き叫ぶ。
「過去に行ってきて欲しいのです!」




