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第十三部

「つ、つまり魔法を使える人の中には特異な能力を使える人がごく稀に要るってことですか?」

「まあ、そういうことだね。」

「そして小鳥さんは風を操れると。」

「そうなのです。だから今こうして空を飛んでいられるんですから。」

そう、今架は空を飛んでいる。いや正確に言えば飛んでいる人の体にしがみついている。ついさっき自分を殺しかけた人のお腹にしがみつくというのはなんだか気持ち悪い。(それよりも、女の子の腹柔らけぇ!)

「それよりも。また変なとこ触ったら落としますからね、架さん。」

「は、はい!」

「あははは、こんな高いところから落ちたら死ぬだろうなぁ。」

「他人事に見たいに言わないでください、ユメさん。」

事実、本当に落とされたらほぼ確実に即死する高さだろう。架達はそれだけの高さのところを音速とまではいかないが、かなりの速さで飛んでいる。まずユメさんが小鳥さんと合流した理由が何となくわかる。

「それで?今度はどこに行くんですか?」

「今度はお待ちかねの総本部的なところだよ。」

「別に待ってませんけど。」

「何言ってんの。架くんは100年以上待ちわびた希望の星なんだからね。」

「うそですよね?」

「そうだよ。あ、でも希望の星は本当。」

何ともひどい先輩だ、そう思いつつ架は前を向く。自分たちのいるこの空間の空気だけが前に進んでいる。

「これならその総本部みたいなところにもすぐに着くんじゃないんですか?」

なにせこの速さだ飛行機よりは多分早く着くだろう。

「そうだね、案外早く着くかもね。 

 どう小鳥?なんか感じる?」

「今のところ何も。不自然なくらいに。」

何かが起こるはずだったような口ぶりで小鳥は風の動きを感じているらしい。

「このまま何事もなく着けばいいんだけど。」

「いやいや、それはフラグで―」

「!

 飛ばすよ!捕まって!」

「へ?うぁ、うわぁあ、ぎゃああぁあ。」

小鳥の発した言葉の意味を架の脳が理解するまでの時間で小鳥は音速近くまで加速していた。もう周りの景色がすべて線に見える。

「へ?へ?なんですか?なにが?」

「小鳥!どうしたの?」

「地上に上昇気流が発生してるの。たぶんあいつの仕業。たぶんそろそろ来る。」

「へ?なにが?」

―ビュン―

架の飛んでいるすぐ横を赤い物体が通り抜けていく。

「あ、あのぉ。あれは」

「ほらね。」

「いや、だから何なんですか!」

「見てわからないの?火の玉でしょどう見ても。」

「はあぁ?」

「架くん、捕まって!」

小鳥はその火の玉?をよけながらさらに加速する。

「たぶんあいつが燃やした何かを上昇気流で飛ばしてきてるんだ。」

「そんな。こんな使い方があるなんて。厄介な能力だとは思っていたけど、ここまでとは。」

「さっきから何の話をしてるんですか。」

「いいから今は逃げるよ。」

なおも無数の火の玉が架の横をすり抜けていく。寸前で避けていられるのはきっと小鳥のおかげなのだろう。

「もう!このままじゃきりがない。」

「どうする小鳥?」

「追撃する。」

「何言ってんの。あいつとあなたじゃ不利でしょ。勝てないよ。」

「ユメがいるでしょ!二人なら何とかなる。あと一人変態もいるし。」

「変態って、僕の事ですかぁ?」

「そうだよ。」

二人そろって口に出されるとなかなか堪える。というか、こんな状況でこの人たちはなんて冷静なのだろう。それよりも、その神経を少しは戦闘に使ってほしい。

「分かった、小鳥。応戦しよう。」

「了解!一気に降下するからね。」

ぐぅんと、小鳥の体が一気に向きを変え地上へと降下する、自由落下している。

「ぎゃああぁぁあぁあ。」

なんだろう。さっきからセリフの中の絶叫の割合がとても多い気がする。

「一撃で決めるからね。」

見れば先ほどまで飛んできていた火の玉は止み、小鳥はその犯人らしき男を捉えていた。

「いい?二人とも。私が風を起こす前に私から手を放して、あなたたちも巻き込まれるから。」

「分かった小鳥。架くんもいい?」

「いや、手を放しても大丈夫な高さなんですよね。」

「そりゃあそうでしょ。離さなかったら四肢切断とかそんなレベルじゃないからね。」

「あ、はい。」

あの男はもう目前まで迫っている。

「くそ!」

男はこちらに背を向けて走っている。目立った反撃もしてこない。

「いい?じゃあ行くよ。」

ごくり、と唾を飲み込む。

「はい、せーの。」

ばっ、と二人ほぼ同時に小鳥から手を放す。今までの飛行が嘘のように、二人は地上に投げ出された。

「きゃっ!」

「グヘェ!」

そしてその少し先では風をまとった少女が叫ぶ。

「吹き飛べ!」




結果としてどうなったか。答えは簡単である。一人の人間がバラバラになった。やはり四肢切断どころの話ではない。だが、バラバラになったのは男ではない。無論、その風を起こした小鳥でもない。バラバラになったのは突如としてあの男のまえにあらわれた謎の女だった。

「ちょっと、なん、なのこれ?」

小鳥が声をあげる。明らかに戸惑っている。

「これは、一般人なのかしら?」

ユメがバラバラになった遺体に近付く。だが周りはところどころに木が生えている林のような場所。一般人がこんな夜遅くに出歩いているところとは考えにくい。

「そういえばさっきの男は?」

「いなくなったの。まるで消えたみたいにね。」

「消えたって。だってさっきまでここに。」

「もう、そんなこと分かってるよ。」

なにかいいように誘導されているとしか考えられない。架はそう思う。というかこの人たちは一体なんなんだろう。

「敵がいなくなったのなら早く移動しましょう。ここに居るのも多分危険だし。何よりももうすぐ夜が明けちゃうから。」

なぜ目の前で人が死んでいるのに。

「あ、あのこの女の人、死んでるんですよ。なんとも思わないんですか?」

「え?」

は?この反応はなんだろう。まるで架が間違っているかのような反応だ。

「ご、ごめんね架くん。私たちこういうの慣れててさ。やっぱりおかしいよね。」

「はい、おかしいです。せめてこの人に対する何かはないんですか。」

「そんなこと言ってたらこんな仕事やってられないんだよ。」

「ちょっと小鳥。」

小鳥は今までにない表情で架の前に立つ。

「人の死なんて私たちの中じゃ日常茶飯事なの、明日自分が死ぬかもしれないの。自分の大切な人のために生き残ろうとするのに、名前も知らない人の死なんて気にしてられないんだよ。」

でもごめん。小鳥は最後にそういった。

「すいません、なんか。」

「いいよ架くん。架くんが間違ってるわけじゃないからね。せめて手でも合わせて行こうか。ね?小鳥。」

「分かってるよ。」

そういって3人で死体の前で手を合わせる。架は正しいことをしたと思っていた。だが、今この現実を見れば小鳥のほうが正しかったと言わざるを得ない。いつ自分が死ぬかもわからないのだから。


「死人を殺した気分はどんな感じ?旋風の魔女さん。」

「え?」

そう、一瞬の気のゆるみ、油断。それが命取りになることを架は理解していなかった。

「なんなのあなた?」

何処からともなく現れた少女を小鳥は視界に収める。

「なんなのって言われても、架先輩なら知ってると思いますよ。」

「え?そうなの架くん?」ユメが尋ねる。

そしてその油断とは日常というものからやってくるのだと、架は気付く。

「く、胡桃ちゃん?」

「そうですよ、架先輩。いつまで引きこもってるのか心配でした。でもよかったです。また元気な姿を見れて。」

そう目の前に現れたのは瀬川胡桃。架がよく行っていたカフェ「コロッセオ」でバイトをしている架の中学の後輩だった。

「胡桃ちゃん、何でここに?」

「ちょっと架くん、知り合いなの?」

「あ、はい。中学の後輩です。」

「ちょっとそこの女。」

胡桃はあからさまに小鳥をにらむ。

「今は私が架先輩と話してるの、ちょっと黙っててくれる?」

「はぁ?さっきから何なのあなた。こんな夜中に丁度ここを通りかかったなんて言わせないからね。」

「もちろん、そんなこと言うつもりはありませんよ。というかもう要件は実行しているようなものですし。」

「え?」

「さあ、架先輩。」

胡桃が架の方へとゆっくり歩み寄る。

「私のために死んでくれませんか?」

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