入学式
4月、高校の入学式、初々しい新入生は輝かしい高校生活を夢見て校門をくぐるだろう。
勉学に励む3年間、部活に励む3年間、はたまたバイトに励む3年間もいいだろうし、遊びに更け込む3年間もまたいいだろう。
与えられた3年間をどう過ごそうかは個人の自由だし、すべては後で自分に返ってくるのだから結局は自己責任だ。
卒業後、おそらくあのときもっと勉強しておけば、もっと努力していれば、
そう考える人間も出てくるであろう。
しかしそれは自己責任なのだ。
お前があの時選択した未来なのだ。これでいいと判断した結果なのだ。
まぁそんなことは卒業してから考えればいいさ、そうさ、今日は入学式なのだから。
記念すべき高校生活初日を謳歌するべきなのだ。
そんなよくわからないことを考えていた僕「脇本準」だったが、
僕もまぁ言ってしまえば、後でどうにかしよう派の人間であるので実際は他人をどうにかいうことはできないのだが…
そんなこんなで入学式が始まった。
体育館に在校生と僕たち新入生が集まる。
(ざっと600人はいるんじゃないか…)
40人クラスが各学年5組ずつ。
まぁ多いほうなのか少ないほうおなのかはよくわからないが、
とにかく体育館に600人となるとまぁかなり狭々しいのは確かである。
僕の名字は五十音の中でもほぼ最後といってもいいだろうという字なので、
案の定席は後ろから2番目だった。
(…あぁ、後ろからの上級生の目線が痛い)
緊張からか狭苦しさからか、または高校生活に対する期待の表れからか、
気が付いたら入学式は終わっていた。
校長先生のありがたつまらない話しや、校歌もよく覚えていない。
なんとなくハッとしたら体育館から教室へ移動していた。
僕のクラスはどうやらB組らしい。
A組、B組、C組、D組、E組、ということだ。
正直Bというアルファベットは2番目感がしてあまり好きではないのだが、
まぁ、1番がよかったわけでもないので、無難でいいか。
教室に到着した。
担任が来るまで待機らしい。ちなみにまだ担任は発表されてないのだが、
熱血でも適当でも、しっかり担任という責務を果たしてきれれば誰でもいいわけだが…まぁ美人の女教師に越したことはないがな。
―思ったよりも待機時間が長いこともあり、周囲にはもうグループらしきものがちらほらと出来上がっている。
「そろそろ僕も誰かに話しかけたほうがいいか」
そう思い席を立とうとした時、
「…なぁ準、俺たちもそろそろどっかのグループに加わらなきゃやばくない?」
いきなり後ろから話しかけられたので、僕は思わずワッと声をあげそうになった。あげてはいないが。
話しかけてきたのは「浅間祐一」だった。
昔からの腐れ縁で、高校も同じ、まさかクラスまで同じとは。
「というか祐一、いたなら話しかけてくれればよかったのに、今更話しかけに来るってことは、あれか、グループの輪にまざれなかったのか」
まぁ話しかけなかったという点では僕も同じなのだが…
いや、僕はそもそもお前がいたことも知らなかった。
幼馴染なのに
「まぁ…それはうん、そうだね…俺はグループとかそういうの好きじゃないし、別に入りたいとも思ってないし…」
歯切れの悪いツンデレだなこいつは
昔からだが、こいつはあまり人の輪に入るのが得意なほうではなく、
僕とばかりつるんでいたので、この会話はもうなんども交わしてきたのであるが。
「お前がそういう性格なのは昔からだろ、それはまぁとにかくとして、それならいつも通り僕に話しかけてくれればよかったじゃいか」
僕も相当のヤキモチ焼きかもしれない
「そうしようとは思ったんだけど…ほら、あるじゃん?高校デビューっていうのかな…とにかく、高校に入ってから少しは周りになじむ努力をしてみようと思った訳さ」
「もう僕にそんな愚痴をこぼすってことはもう結果はでてるがな」
「まぁそういうことだな」
高校生活もまた、今までのようにこいつとただ単に無駄話をしたりしながら3年間を過ごすんだろうな。
そう思ったときだった。
「おーーい!!祐ちゃーーーん!!!」
教室の外から女子の声が聞こえた。
ってか長すぎだろう、待機時間。
「祐ちゃんはB組だったんだ!私はA組だよ!隣だねぇ~」
僕たちの席は窓際の席であり、そこまで聞こえるということは、相当の声量だったらしく、教室の視線がその女子に集まった。
「あいつ…ッ」
あわてたように祐一がそこへ向かう。
よく見ると、彼女は祐一の幼馴染「宮野梨央」だった。
彼女は勉強は今一つ、というところだが、スポーツは万能で、容姿もそこそこいい、このクラスでも2番か3番目くらいだろう。
そのため、男子の目線は確実に彼女に向かっている。
女子の目線も彼女に向いている。おそらくはあのデカい声のせいだろうが。
教室の外で祐一が顔を赤くしながら、おそらくそういうのはやめてくれ、とでも言ってるのだろう。
しかしこちらから言わせてもらうなら、
「そういう行為こそ見せつけないでくれ、」だ。
なんだこれは、夫婦漫才かなにかか
僕と宮野は特に幼馴染というわけでも、特段仲がいいというわけでもない。
ただ関わりがないといえばそういうことでもなくて、祐一と3人で遊んだ記憶なら何回かある、だがまぁその程度だ。
「あーー!準君もいるじゃん!!おーーい!!」
…宮野から言わせれば、その程度ではなかったらしい
僕は顔を赤らめるわけでもなく、ましてや彼女のところへ行くわけでもなく、
自分の席から小さく右手を上げ、返事をした。
その時、
「騒がしいぞー、席につけ、HRを始めるぞー」
担任の先生がやってきたようだ。遅いぞ、まったく…
「おっと、じゃあまたね!!」
宮野は走るようにA組の教室へ戻った。
「まったく、梨央のやつは困ったよホント…」
席に戻ってきた祐一がそうぼやく
いや、困ってるのはお前以外の僕たちなんだが、夫婦漫才まだ続いてたの!?
まったく、どうしてお前は鈍感なんだろうな
察せないもんだろうかふつう…
ってか席後ろだったのかよ
「梨央のやつもあんな大声出さなくてもいいのに…」
「…」
後ろの幼馴染の無意識リア充発言は無視して、僕は担任の話に耳を傾けた。
「これから3年間お前たちの担任を務める坂本健太だ、よろしくなー」
そういうと坦々と今後のスケジュールをい話し始めた。
え?紹介終わりなの?趣味とかなんかないの?
なんともけだるそうな先生がうちの担任になってしまった。
「………と、いうわけで今後のスケジュールについては以上だ、はい、解散」
なんともしまらない終わり方である、授業は明日からなので、今日はもう終わりなのは確かなのであるが、もっとなんかなかったのであろうか。
とりあえず明日から授業が始まるので、いろいろな説明はおいおい行っていく方針だそうだ。
というわけで放課後である。
僕はさっそく帰ろうと祐一に声をかけたのだが…
祐一は、なにをやってるんだ?という顔でこちらを見てきた。
「いやいや、帰るには早いでしょ、なにしに高校入ったの?部活見学行こうよ!部活見学!!」
いや、僕は別に部活見学をするために高校に入ってわけではないのだが…
ということで、気は乗らないが、部活見学に行くことになった僕たちである。
「んで、まぁ部活見学はいいけど、なんの部活を見に行くの?」
「それは実はまだ決まっていないんだ」
なんと無計画な友人をもってしまった僕。