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ばたばたと廊下を走る足音。呼び止めようとする女官たちの甲高い声。続いて荒々しく広間の扉が開かれた。
「父上!」
「おお、アガルティナ。騒がしいな。何の用じゃ」
アガルティナは肩で息をしながら広間に入ってきた。その瞳は怒りの炎を宿している。
「父上、先ほどグリスタをハルディルンにやると聞きました。本当なのでございますか!」
彼女に続いて、気の弱そうなグリスタが入ってくる。
「うむ、ハルディルンはリーシュラ殿の出身星だ、危険はあるまい」
「そういうことではありません! なぜグリスタをこの星から出すのですか!」
「グリスタは病弱とはいえいずれこの星の政治にかかわる者。世間を知っておかねばなるまい。世間も知らぬようではセイディアを補佐できぬ。グリスタはまだ若い。今のうちに色々と経験しておくのもよいだろう」
「ですが、急に……」
「急ではない。セイディアの婚礼後、落ち着いたらそうするつもりであった」
「ですが、グリスタはまだ若すぎます」
「ファーデスを見よ。彼はグリスタより若いが、立派にオルディアの当主を務めているではないか。よほど世間をよく知っておるわ。グリスタ、そなたもしっかり世間を見てくるのだ。ファーアデスに負けぬくらいな」
「……はい、父上」
弱々しくうなずく。アガルティナは横に立つファーデスをにらみつけた。
「用はそれだけか? アガルティナ。お前もそろそろ輿入れを考える年頃じゃ。少しは大人しくせい。それだからいつまでも嫁ぎ先が決まらぬのだj
「……父上、私は」
「用がなければ下がれ。わしはまだ執務中じゃ」
「……失礼します」
グリスタの車椅子を押しながら扉から出て行く。アガルティナは唇をかみしめた。
「姉上、もういいんです。父上がああおっしゃるならハルディルンに参ります」
「グリスタ! 何を言うのです」
しかし弟は首を振った。
「父上には逆らえません。それに、父上にもお考えがあるのですから」
「本当にいいの?」
「ええ」
「お前がそういうなら……仕方ありません。でも、不安でたまらないのです。グリスタ、何かあったらすぐ便りをよこしなさい。できる限りのことはしますから」
「ええ、でもいい機会だから一人でなんとかします」
弟はにこやかに微笑み、姉を見上げた。
「いつも姉上に頼ってばかりで、自分でも不甲斐ないんです。もしハルディルンへ行ってそれを直せるなら、いい機会だと思いませんか? それに、他の星も見てみたいと思っていたところなんです」
アガルティナは弟を抱きしめた。
「……ごめんなさいね。何もできなくて。でも、何とかしてすぐに戻ってこられるようにするわ」
「ありがとう、姉上」
はかなげながらにっこり笑う。それが彼を見た最後となった。




