経験の差
「約束が違うじゃないですか!」
半泣きで訴えるが押しのけられてしまう。
「危険な目には遭わせないって言ったのに!」
「そんなこと言ってる場合か!」
船長が怒鳴った。
「自分の身ぐらい自分で守れ」
「そんなぁ!」
カーンと高い音がなって銃弾が船べりに当たる。
海賊船はもうすぐそこまで来ていた。
「カシアス!」
船長が叫んだ。
「やっぱりお前邪魔だからキャビンにでも入っておけ」
は?
「え…でも」
「いいから早く!」
船長?
どうしたんだろ、さっきと様子が違う。
「やっぱりいいです!」
僕はとっさにそう返した。
「大丈夫です!それにこれ1人で操縦するのは大変ですよね?僕ジブセールぐらいなら操れますから!」
本で読んだ程度の知識ですけど。
でも、危険な海賊相手に船長を1人にするなんてできない。
役に立たないのは十分にわかってるけどさ。
「違う、そうじゃない」
船長がイライラしている。
「この船は俺1人でも事足りるように出来てる、大丈夫だ。だから…」
言いかけて、舵が手から離れた。
その手は僕の方に…。
「うわっ!」
パンッ。
抱きかかえられるようにしてその場に倒れた。
何が起きたのかわからない。
見ると船長の肩から血が流れていた。
しまった。なんてことだ。
さっと血の気が引いていく。
僕のせいで船長が……!
「船長、大丈夫ですか⁈」
「こんくらい、痛くも痒くもねぇよ」
船長が俺を見てため息をついた。
「無事でよかった」
「動くな」
いきなり鋭い声が聞こえて、背筋が凍りついた。
海賊船はもう船のすぐとなりまで来ている。
1人が銃を構えてこちらを見ていた。
「船長!」
僕は悲鳴を上げた。
「大丈夫だ、心配するな」
落ち着いた声に少し安心する。
船長はゆっくり体を起こすと、ひょいとこちらを見て言った。
「お前ナイフとか持ってないか?」
僕は海賊にバレないようにそっと服の上をなぞった。
「果物ナイフなら」
「果物ナイフか。役に立つかわからんが一応持っておけ、奴らはお前を狙っている」
え?
「なななんでですか?」
「それは………」
船長が何か言いかけた時ガツンと音がして荒々しく船体がぶつけられた。
小さく息を吐く音が聞こえる。
船長は僕を一瞥すると、
「そんな顔するな、大丈夫だ。俺に調子を合わせろ」
と静かに言った。