海賊と鬼ごっこ
「見えるか?」
「はい、見えます」
はぁ、と船長がため息をついた。
僕は双眼鏡を除くのをやめた。
「どうしますか?」
「どうもこうもないだろ、とりあえずついてきてるのか確かめる」
そう言うと、自動操縦を切ってフルスピードで走り始める。
「しっかり捕まっておけよ」
言うのが遅いよ船長。
僕はすっ飛んで頭を打った。
「ついてきてるか?」
聞かれて慌てて双眼鏡に飛びつく。
黒い船がはっきりと見えた。
海賊船だ。
ホワイトシャークの走った後をなぞるようについてくる。
「ついてきてます」
チッ。
船長の舌打ちが聞こえた。
「カシアス、お前セールは上げられるか?」
まさか。
今どき帆がついてる船なんて珍しいのに。
「無理です」
「じゃあ操縦変われ、俺がやる」
うそだろっ!
僕は恐る恐る舵を握った。
何の指示もなく船長が離れていく。
フルスピードエンジン全開のホワイトシャーク。
僕に操縦出来るわけがない。
船乗りの学校にいた時、少しだけ小型船の操縦も練習した。
でもそれっきりだ。
メインモニターに僕の走った後がジグザグと刻まれて行く。
僕はぐっと息を飲んだ。
ここがロゼッタ諸島じゃなくてよかった。
あの岩場だったら間違いなく大事故だ。
「船長、もう無理です!」
いつの間にか海賊船は肉眼でも見えるくらい近くに来ていた。
だめだ、追いつかれる。
「よし、もういいぞ」
船長がすっと僕から舵を取り返した。
「風は南西からのやや追い風。ついてるな」
そう言ってにやりと笑う。
やっぱりすごいよ船長、この状況で笑えるなんて。
僕が感動していると、パンッという乾いた音がしてデッキを何かがかすめた。
銃!
続けざまに銃声が響く。
僕は驚いて足がすくんだ。こんな経験初めてだ。
「危ないっ!」
船長の声とともに身体が後ろへ引っ張られる。
僕の耳元で風切り音が聞こえた。
「ボケっとしてんな、死ぬぞ」
「せ、船長!」
僕は船長にしがみついた。