船と船長
空は雲ひとつない快晴。マストに張ったロープでは干し魚がひらひら揺れている。
あーあ。
僕はため息をついた。
つまんないの。
船長は舵をとっているんだけど、たまに何かつぶやく。それもいつもは見せないような爽やかな顔で。
はじめは独り言かと思ったけど、どうも違うみたい。船に話しかけているみたいだ。
ベテランの船乗りになると船は自分の1部だとか恋人だとかいう人もいるけど、そういう感じかな。なんにせよ僕は蚊帳の外だ。
あーあ、つまんないの。
僕と話す時もあんな風ならもっと仲良くなれるのに…。
ふと、姉ちゃんの言っていたことを思い出した。「愛想さえあればパーフェクトなのに」って。
あの時はグレン船長のことなんて噂で聞いたぐらいしか知らなかったけど、今なら言える。ほんとにその通りだよ。
「……おい、おいこらカシアス!聞いてんのか! 」
「はいぃぃ! 」
弾かれたように船長の前にビシッと立った。今度のは僕に話しかけてたみたい。
「ボサっとしてんなら海に放り出すぞ。まぁいい、この辺から岩場が多くなる。アマリリスではここら辺を通ったことはないはずだ、よく見ておけ」
「はい!」
僕は船べりから身を乗り出した。
なるほど、ゴツゴツした大きな岩があちこちにある。ともすれば船体と接触しそうな隙間を、ホワイトシャークはするりと抜けた。
そのままギリギリの隙間を縫って進んで行く。
すごい、さすがグレン船長…。
アマリリスのような大型船ではこの辺の岩場は通れない。
僕らの住んでいるモティック島はロゼッタ諸島の1部。ロゼッタ諸島はとにかく岩が多くて、大型船は島の裏側の岩の少ないところからしか出航できない。
それに大型船って人もいっぱいいるし、やらなくちゃいけないこともいっぱいあってこんなに間近に海を感じることはできなかった。
潮の匂いがいつもより濃い。水しぶきもいいね、航海してるって感じ。
それにすごくドキドキする。
グレン船長は怖いけどこの船に乗れたことはラッキーだったのかもしれない。ふと見ると、舵を握る船長と目が合った。