ユラの海ゆらゆら
どこかわからない暗い海、濃い霧がかかっていて少しだけ寒い。気がつくと僕は小型船に乗って舵を握っていた。船は怖がるみたいにゆっくり進む。
「大丈夫だって、心配するなよ」
僕はいつも船長がしてるみたいに船に話しかけた。
そういえば船長はどこにいるんだろう。
「船長ー! グレン船長ー! 」
呼んでも返事がない。僕は急に不安になってきた。
「船長、返事して下さいよ! からかってるんですかー」
あたりをキョロキョロしていると不意に前方に大きな岩が現れた。しまった、霧が深くて気づかなかった!
思い切り舵を切る。ところが船は僕の指示なんか全く無視で、どんどんスピードを上げて岩に近づいていく。
「言う事聞けったら、もう! 」
そう叫んだ次の瞬間、
「うわっ! 」
メキメキっという嫌な音と共に船は岩に突っ込んだ。僕は海に放り出される。木っ端微塵になった船、その瓦礫と共に僕はひんやりとした海の底へ底へと引っ張り込まれて行った。体が鉛のように重い。
寒い……苦しい………。
助けて……誰か………船長……。
「船長‼︎ 」
「うわっ! 」
自分の声で目が覚めた。隣で船長が驚いた顔をしている。
そうだ、僕たちはマッサ島にいたんだった。せっかくだから宿をとろうって言ったのに、船長が月を見たいとか言うからこうして寝袋に包まってデッキにいるのだ。
「品のない奴だな、こんなに綺麗な月が出ているってのに」
船長がゆっくりとそう言った。すみませんね、品がなくて。僕はほっぺたをぽりぽりかいた。それにしても不吉な夢だ、とっさに船長を呼んでしまった。僕はもう船長に迷惑をかけないって決めたのに、なんて情けない奴なんだ。だから船長にケガを負わせてしまうんだ。今回はたいしたことなかったから良かったけど……。
顔を上げると大きな満月が見える。すっごく綺麗な月だ。僕ははぁっとため息をついた。
「悪かったな」
ぽつりと船長が言った。
「休みなしで出航した上に海賊にもあって疲れているだろうに、宿にも泊まらせないで。この月を見せたかったんだ」
船長の横顏はいつも見る顔と何か違って、少しさみしそうだ。
「お前に聞いて欲しいことがある」
大きな雲がゆっくりと月を覆いはじめた。