僕の失敗と成功
ぐるぐるに縛り上げた海賊達を海賊船に放り込んだ。操縦室から気の弱そうなのが1人顔を出してきたけど、すぐに引っ込んでしまったから放っておくことにする。
船長が海賊船から繋げられていたロープを乱暴に叩き切った。
「カシアス、錨をあげろ。出航するぞ」
「はいっ! 」
ホワイトシャークは帆を張ったまま滑るように走り出した。太陽はもう傾きかけている。
船長がメインモニターと海図を交互に見ながら唸った。
「だいぶ東に逸れたな。すぐそこにマッサ島っていう小さい島がある。そこで船を修理しよう」
「船長、病院にも行ってくださいね」
僕は船長の肩を指差した。もう乾いているけど血がついている。
「ずいぶん生意気な言い方だな」
心配しているのに、鼻で笑われてしまった。
僕は真剣に言っているのに。船長のケガは僕がちゃんと指示に従わず自分勝手に動いたからだ。船長に従っていればこんな事にはならなかったのに……。
船長がそんな僕の気持ちを察してか、肩を竦めた。
「そんなことはいいんだ、気にするな」
そう言って頭をぽんぽんと叩いてくれる。
「すみません……、ありがとうございます」
顔を上げると目があった船長がにやりと笑った。
「それよりお前、あの小瓶の中身が何だったのか知りたくないか? 」
「し、知りたいです! 」
僕はうんうんと頷く。
「あれはマモノネムリグサってやつだ」
「マモノネムリグサ? 」
「ああ、そうだ。お前マモノネムリグサって聞いてどんなものを想像する? 」
どんなもの?そうだな…
「すごく綺麗な花が咲いてその花の香りを嗅ぐとどんな魔物でもたちまち眠ってしまう、みたいな感じですかね」
「お、だいたいあってるぞ」
船長がひょいと眉毛を上げた。
「だが実際はそんなかわいいもんじゃないんだ。マモノネムリグサの香りには毒性があって人が死んだ例もある」
「死ぬんですか⁈ 」
思わず声を上げてしまった。そんな恐ろしいものを知らずに持っていたとは。
「普通は花を干して粉にして薬として使うんだが、あの小瓶に入っていたのはちょっと特別なんだ」
「特別? 」
「ああ、あれは花の香りを凝縮して閉じ込めてあったんだ。ちょっとやそっとじゃ手に入らない代物だ」
ひぇぇ、何てことだ!そんな大切ものを僕は……。
「何でもっと早くに教えてくれなかったんですか! 」
「教えるも何もお前が勝手に持ってたんだろうが」
「ゔっ……」
船長に睨まれて僕は首をすぼめた。
「まぁいい、丁度処分に困っていたんだ。お前が持って行ってくれるならラッキーだと思っていた」
それって、僕はあんまり嬉しくないんですけど。
「なんで僕が持ってるって知ってたんですか? 」
「ん?まぁ船のどこ探しても見つからなかったからな。半分はカンだ」
カンですか。じゃあ僕が小瓶を拾ってなかったら今頃……。
想像して、思わずぶるりと身震いする。
気が付くと夕日が水平線の向こうに沈もうとしていた。
「おい、島が見えてきたぞ。港に連絡入れてくれ」
船長の声に僕は無線に飛びついた。