BOY
【早鐘】
「まあた、あいつ寝てるぜ…」
前の男子が私に振り向いて、小声で話しかけてきた。
「まあた、君は私に話しかけてくる。」
前の男子、哲也は、毎日授業中にも関わらず、私に話しかけてくる。そして、私の言葉は無視される。
「んで、あいつはテストとか満点なんだろ?絶対にカンニングしてんじゃないのか?」
「んなわけない」
私の学校は、そこそこ頭のいい高校で、教師は全員が厳しい。服装を始め、持ち物、テストのカンニング。校則に違反したものは大概が停学になる。
そう考えると、カンニングなんてしたら、あの寝ている男子生徒は今頃こんな風に寝てはいないはずだ。
「んだよ。…もしかしてお前…あいつのこと好き…とか?」
突然ニヤニヤ顔になる哲也。
「そんなことない!」
反射的に大声を出してしまう。
「おらお前らうるさいぞ!仲良しか!」
先生の一言で笑いが包まれる。
…なんでだろう…。運動もしてないし、緊張するところじゃないのに…。心臓が暴れる…。
「恋…でしょ」
「恋…かなあ」
昼休み。弁当を食べながら、明音に授業中に感じた引っかかりを話すと、予想通りの言葉が返ってきた。
「でもさ…。誰に恋してるのかわからないんだよね…」
「え!?何言ってんの!?叶恵はてっちゃんのことが好きなんじゃないの!?」
てっちゃんとは、私に話しかけてくる哲也のことだ。明音と哲也は幼馴染で、いつもあだ名で呼び合っている。
「冗談じゃないよ。毎日毎日話しかけられてうんざりしてるんだから。」
「でも、その毎日毎日が仲良さそうじゃない」
そんな勝ち誇った笑みを向けられても…。
「まあ、てっちゃんは優しいからねえ。ああ見えて。」
その後は、明音から哲也の過去の、捨て猫捨て犬を助けたときの話や、いじめられっ子を助けた話をとうとうと述べてくれた。
「あ、それでさあ。あいつ。実は危なっかしい組織に入ってるんだって。」
そのあいつとは、またもや授業中にお眠りをしていた男子のことだ。名前はちゃんとあるのに…。
青木雪。
なぜかこのクラスでは青木君のことは「あいつ」としか呼ばない。
まあ、私も話しかけたことはないから「あいつ」さえ呼んだことないけど。
「組織って…?」
「さあ?噂よ、噂!」
なんて根拠のない噂…
でも、こんな噂が流れてるということは、何らかのことをしたわけで…
そこで、私達は何も示し合わせたわけでもなく同時に発した。
「暴力団…?」
【少年】
青木君は、暴力沙汰が多かった。
ただし、暴力を振るってきたのは青木君ではなく、周りの男子生徒だ。
授業中は寝てるというのに、テストは満点。カンニングしてるんじゃないかと思っても、それで停学になることもない。そこで男子生徒は自分と比べたんだろう。授業中は教師の話を聞き、ノートにペンを走らせ、死に物狂いで頭に公式や単語を叩き込む。それでもテストになると、青木君には一歩も届くことがない。あの、授業中に授業をしてない人にだ。
自分は努力をしてるというのに、相手は無努力で頂上を取れてる。
それで思ったのだろう。
あいつを消せば…と。
その男子生徒は、その日にカッターを持ち出した。この厳しい高校では、刃物なんて持ってはいけないが、美術の授業があれば、持って行ける。
その日の、昼休み。カッターをポケットから素早く出し、青木君に向けた。
だが、一瞬の出来事だった。
周りの者が刃物に気付くこともなく、その一部始終は終わっていた。
その時の青木君の言葉が
「俺を殺せると思ってるのか?」
いつの間にか、男子生徒の手元にはカッターはなく、むしろ、青木君が持っていた。
しばらくして、青木君が教師に説明をし、その男子は退学させられたが…
私と明音は見たのだ。何を?銃を。
青木君は後ろ手に銃を隠し持っていた。
【青木】
「いやあ。でも、この学校に刃物がだめなら、銃もだめでしょ」
「いやあ。普通ダメでしょ」
ならあれはレプリカか?そうとしか考えられない…。
「模型銃だよ。そうだよ。」
二人でそう納得し、無理矢理話を終わらせた。
二人はそれ意外にも考えていた。
もしそれが本物だとしたら。もしこのことを話したら…。
「今日帰りに、あいつの後を尾けてみない?」
「は!?」
何を言い出すんだこいつは…。
「探偵よ探偵!あいつの素性をこの目で確かめるの!」
「確かめてどうするの?」
「うぐ…」
明音は目先のものを後先考えず突っ走って行く人だ。今回も全然考えてないらしい。
「ただ…興味心というか…楽しいかなって…」
楽しさ第一に考える明音だ。その先がなんだろうと、今が楽しければいい。
まあ、私だって用事があるわけでもないし。楽しそうだし…。
「んじゃ、私も行く。楽しそうだしね!」
「やった!危険を察知したら逃げようね!」
どんなやりとりだ。と私たちは笑う。
「何も起こりませんぜ。隊長。」
「もう少しだ。辛抱よく待て。」
「はっ」
現在、楽しみながら同級生を尾行中。
隊長役の私と、その部下役の明音と一緒に暗い夜道を同級生の後を尾ける。
「私、こういうのしたかったんだよねー」と明音。
「じゃあ、警察になれば?それか、探偵。」
「いいかも!応答せよ、応答せよ。」
ずっと尾けていくと、暗い森の中に入って行った。
「ええ?こんなところに住んでるの?あいつ…」
「…ねえ。いい加減帰ろう…。なんか…」
「怖いの?大丈夫だよ!」
「そうじゃなくて!」
だが、全身が震える。寒くもないのに足が、腕が、指が、唇が。
「何してんの?」
息が詰まった。この声は青木君だ。後ろを振り返ると、冷たい目で私たちを見つめている。
「…て聞いたけど、実は知ってる。」
「…え?」
「尾けてきたんだろ?興味丸出しで。」
「…え?」
「聞こえてた。お前たちの話。」
やばい。やばいやばいやばい!
「ちなみにこの銃…本物だから。」
そう言い、懐から黒い塊を取り出す。
それは頑丈そうな銃で、その銃口を私の額に向ける。
動けない。手を上げることさえできない。
シュパッ!
怖くて閉じていた目を開けると。目の前にバラが咲いていた。
「…へ?」
拍子抜けの声を出し、目の前の青木君を見ると、にっこり笑って、「冗談。」と言った。
「はあ、君にするつもりじゃなかったんだけどな…」
「…え?」
「おまえ、『え』とか『へ』とかしか言えねえのか。」
「え。いや…。だって…」
気付くと、また足に震えが始まる。
そして力なくその場にうずくまる。
「怖かった…。」
「お、おい!大袈裟だろ!大体、高校生が銃なんて持ってるわけねえだろ!」
「そ、そう…だよね…。でも、怖かった…」
そこで青木君はため息をつき、私に手を差し出した。
「送って行くよ。」
「いや、いいよ!?」
青木君の手には素直に助けられながらも、送られることに抵抗した。
まず、そんなに仲良くないし。
「それよりさ。お前の連れは?ここに来る前はいただろ?帰ったのか?」
「あ。」
言われてみれば…。
明音の姿がどこにもない。一人で何処かへ逃げたのだろうか。逃げ足だけは早いもんな…。
するとそこで、女性の悲鳴と破裂音が聞こえた。
「え?…この声!」
明音だ!
「ちっ…」
青木君は、舌打ちをしたかと思うとすぐに森の奥へと走って行く。私も遅れて青木君の後を尾ける。
私は信じられないものを見た。
青木君が屈強な男たちをなぎ倒していくのだ。素人目からでも分かる、無駄のない動きで次々と蹴りを入れていく。
すると、そこから少し離れていた明音が泣きながら駆け寄ってくる。
「どうしたの!?」
明音は体を震わせ、しゃっくり混じりで声も出せない状態だ。
明音を抱き寄せ、事の次第を手持ち無沙汰に眺めているしかなかった。
屈強な男は2人だ。大の大人2人を相手に、高校生が素手で戦っている。奇妙な光景だった。だが、次の瞬間。
大きな花火の音、または雷鳴が鳴ったかと思ったが、すぐに火薬の臭いが鼻についた。花火かと思い、前を見ると、青木君の手には銃があった。
「ナタ…。あの女子は敵なのでは?」
あの一発の銃声で怯んだのか、屈強な男たちは動きを止め、青木君に話しかけている。
というより、『ナタ』?
「どう見ても違うだろ!大体、誰があの子たちを敵と言った!?」
青木君はいつになく怒った口調で私たちを指差す。
屈強な男たちは、私と、まだ泣きじゃくっている明音を見て口を噤んだ。
「謝れ。謝って済む問題じゃないけどな。」
屈強な男たちは私たちに近づき、頭を下げる。明音はさらに私の後ろに隠れたが…。
「怖がらせるようなことをして申し訳ない…。」
「あ、いえ…。謝るならこの子に…」
明音の方を向き、言う。
また屈強な男たちは頭を下げ、同じ謝罪をする。
だが、明音はまだしゃっくりが収まってない声ではっきりとおっしゃった。
「あ、謝って済むと思うなー!…じじい!頭でっかち!あんぽんたん!一度この恐怖を味わえよ!饅頭頭!」
その後に返事をした屈強男の言葉も新鮮だった。
「そのような恐怖はとうの昔に味わいましたので…」
と、困った顔で言った。
「じゃあ、もっと甚振られろ!」
「それもとうの昔に…」
その繰り返されるやりとりと、屈強男たちの困った顔に笑がこみ上げる。
実際笑った。
「んで、どうする?もう、すっかり夜だよ?家の人心配してない?」
「う、うん。そうだね。いろいろとごめんね。」
色々と聞きたいことがあるけど…。
「いや…こっちこそ。えっと、山根さんに迷惑かけちゃったし…」
「そうだそうだ!私、何もしてないのに銃撃ってくるし!殺す気かって!」
そして何を思ったか、
「お詫びに泊まらせろ!」
「ちょ、ちょっと明音!いきなりなに言い出すの!?そんなの…」
「それもそうですな!ナタ。泊らせてあげるのはいかがでしょう?」
そして、屈強さーん?何をおっしゃってるんですかな〜?
『ナタ』と呼ばれた青木君も首肯する。
「山根さんが言うなら、そうするしかないね。」
そう言い、森の奥へと進む。
「ついてきて。家はこの近くだから。」
親に友達の家に泊まるという旨を伝えて、追いて行くと、開けた場所についたと思ったら、豪邸の前に立っていた。
「は?」
「へ?」
「ん?」
私の時間は止まった。
明音…。やっぱりダメなんじゃないの?こんなところに泊まらせてもらうなんてできないよ…。
だが、何というかやはり明音。顔面を青白くさせる私とは正反対に、目を輝かせ、さらにはその目から光が出てくる気さえもするような明るさを見せ、早く泊まらせてもらいましょうよ、とでも言い出しそうな気配さえ伺えた。
実際言った。
「は、早く泊まりましょうか!」
「焦らずに。山根殿。」
「あ、焦ってないわよ!饅頭!」
屈強男が門の鍵を外し、中へ案内してくれる。
無口な屈強男は、私たちに深くお辞儀をし、
「それでは、夕食の準備をいたします故…」
と言って離れて行った。
そもそも、なんで青木君を尾けてたんだっけ。なんて考えながら、屈強男、明音曰く饅頭の案内に従う。
ここは宿屋かというくらい広い。トイレの数もしばし。部屋の数もしばし。
青木君の家族は5人家族で、姉は亡くなっているらしく、4人住まいらしいのだが、それにしては広すぎる。
そもそも、明音と私で、個別に部屋が分け与えられたのだから、異常としか言いようがない。
その部屋でさえも広いのだ。
「信じられない…」
もちろん、金持ちなんて五万といるのは頭ではわかってる。だが、こんな身近にいても実感が湧かない。
夕食もご馳走してもらった。やはりというかなんというか、豪華な食事で、青木君のご両親とも一緒になった。
無断で入ってきたも同然なんだし、怒っても追い出してもいい状況だというのに、そんなことはせずに和やかに私たちを歓迎してくれた。
だがこのあと、青木君の暗くて冷たい、血に塗れる過去を知ることになる。
初めて小説を書かせてもらいました。
まず、この小説はフィクションであり、ノンフィクションでもありますw
私の思考で、伊坂さんのような面白味のある描写も加えました。
あと、描写を書くのが苦手なので、そのような表現はありません。これからも。
これは連載小説で、あと3部作は出ると思います。
短大生になると思うので、ゆっくりとですが…
ここまで見てくださった方、ありがとうございます!