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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

罅割れ

作者: 龍守炎魔

夏のホラー2013用に書いてみました。

友人Lさんにとても協力して頂いて、大変助かりました。

少しでも怖く感じて頂けたら嬉しいです。

それでは、どうぞ。

 はじめまして。

 突然すみません。少しお時間を頂けないでしょうか?

 もしお暇でしたら、少々お話を聞いてもらいたいのです。

 ……ああ、構いませんか?

 ありがとうございます。恩に着ます。

 それでは、……少し奇妙な話なのですが……。

 ある子供がいました。彼はカズ君と呼ばれていました。どこにでもいる普通の子供です。多少やんちゃなところはありますが、笑うと女の子のように可愛く、友達も沢山いました。

 彼には怖いものがありました。けれど、大きくなってからはそれが怖いとは思わなくなったそうです。

 あなたにもありませんでしたか? 小さな頃には苦手だったものが、今はそうでもなくなったとか、怖かったものが怖くなくなったとか。そうですね……例えば、雷が昔は怖くありませんでしたか? 僕も、「臍を取られる!」、なんてことを思って、布団に隠れて震えたりしていました。今はすっかり平気ですけれどもね。

 その怖いものが、カズ君にとってはアスファルトだったのです。ええ、道路の舗装や防水材などに使われている資材で、何処にでも見かけるものです。何故そんなものが怖かったのか、今となってはわかりません。彼の小さい頃の事ですから。ただ、心あたり……というより、きっかけはあったそうです。

 カズ君が幼かった当時、彼にはとても仲の良い友達が居ました。トモ君 と呼んでいたそうです。トモ君はとても強い子で、また賢く、カリスマと言うほどでないにしろ、一番に話しかけたくなるような雰囲気を持っていたそうです。カズ君はそんな彼に、困ったことや些細なことでも頼り、相談したそうです。彼もまた、カズ君の事をいい友人だと思っていたようでした。トモ君と仲が良いことは、カズ君にとって自慢の種だったそうです。

 カズ君とトモ君は、一緒に色んな遊びをしていたそうです。家の中では、トランプやボードゲーム、TVゲーム。家の外では、鬼ごっこや、ボール遊び、竹で弓作りなどをして遊んでいました。カズ君とトモ君は、そんな風に全力で遊んだ後、汚れや埃を気にせず地面に座ったり横たわったりしていました。多くの小さい子供がそうであるように、地べたに座るのが当たり前だったそうです。

 彼らがよく遊んでいた場所は、アスファルトで舗装されていたところでした。遊び疲れた彼らは、地面に座り込み、体を支えるために地に手をついて休んでいたそうです。そうすると自重がかかって掌に地面の痕がつくのです。彼らが遊んでいたアスファルトの地面は、小さな石が沢山集まって出来たような質感で、ぶつぶつとした表面と、またそれが罅割れたような様相を見せていました。なので、掌にはでこぼことした感触と、罅割れているようなあとがうつしとられてしまいます。カズ君とトモ君はお互いの手のあとを見て、「手がすごいことになってる」と、笑いあったそうです。

 けれどカズ君は、本心では笑えていませんでした。何故なら、トモ君の掌に出来た罅割れに何か怖いものを見たからだそうです。その時の事を、カズ君ははっきり思い出せないようでした。ただ、それからアスファルトが怖くなってしまったそうです。

 手の罅割れから何か“怖いもの”出てきたのだと、カズ君は感じたのかもしれません。幼い彼の怯えは、そんなところから生じたのではないか、と思います。子供は感受性が強いと言いますからね。大きくなった今では、何を感じて怯えたのか分からなくなったそうですが、あの時見た“怖いもの”は本物だったかもしれないと、彼は言っていました。その予感は、不思議な夢と、そのあとに起きた事件に起因します。カズ君がトモ君の掌に罅割れのあとを見てからしばらくして、とある理由で、二人はもう会えなくなってしまいました。最後に会った日、彼はこんな事を言っていたそうです。

「俺、もしかしたら遠い所に行くかもしれない。けど、きっと帰ってくるから、その時はまた遊ぼうな!」

 そして奇妙なことに、その日の夜、カズ君はこんな夢を見たそうです。

 夢の中で、カズ君は授業を受けていました。ふと掌に痛みを覚えて見てみると、そこには、あの日トモ君見せたのと同じような罅割れがあったんです。まるでステーキのような、格子型の歪な傷痕が出来ていて、下手に触ると手の肉片がぽろりと落ちそうでした。そして、そこには例の“怖いもの”が見えていたそうです。

 それは、罅割れている掌の奥に鎮座していました。色は黒く、目も口もあるようには思えません。なのに、自分を見ている。そんな気配がしていたそうです。そいつを……深淵とでも名付けましょうか。しばらくカズ君は深淵と見詰め合うようにしていました。その間ずっと彼は恐怖を感じ、気持ち悪くて仕方がなかったそうです。かといって目をそらすこともできず、どうしようもないまま、カズ君はひたすらにその気持ち悪さに耐えたそうでした。

 それからいくらか時間が経過し、ふっと、深淵がカズ君から視線を外し、余所を向きました。彼は一瞬、恐怖と怖気から解放されました。が、深淵が何を見ているのか気になってしまい、つられるように窓の方を向いてしまいました。すると、空から化け物が何体も、こちらを目指して飛んできていたのです。化け物たちは深淵と同じ黒色で、蝙蝠のような翼を羽ばたかせ、不気味な事に顔がありませんでした。カズ君は、瞬く間に化け物たちと深淵は同じ“怖いもの”なのだとさとりました。ここへ向かっているのは、深淵がおびき寄せているせいなのだと確信したそうです。

 カズ君は怖くて怖くて、泣き叫びながら自分の教室から逃げ出しました。向かった先は、トモ君のいる教室でした。カズ君にとっては彼が一番頼りになる人だったからです。癖だったのでしょう。いつものように、当たり前のように、彼ならなんとかしてくれる、自分を助けてくれるのだと、そう思っていたのでしょう。

 直後に、それは勝手な誤解だったと気づかされます。

 教室に飛び込むと、トモ君はそこにいました。カズ君はトモ君に縋り付き「化け物が来る!」と、窓を指差しました。同時に視線もそちらにやると、窓の外にはもう、化け物たちはいませんでした。指先、触れるか触れないかのすぐそこにいたのです。いつの間に教室に現れたのかわかりません。窓は開けられておらず、また壊れてもいません。ここに入って来た時奴はいなかった筈なのに、化け物が一体僕とトモ君の前に忽然と立っていたのです。カズ君はわけも分からず、身が凍りついたように固まってしまいました。

 恐怖は、それだけで終わりませんでした。固まったカズ君をそのままに、突然、彼の罅割れていた手がぽろぽろと崩れ落ちたのです。既に手とも言えなくなったそこから、深淵がどろどろと粘液のように這い出てきます。ああ、こんな姿をしていたのか……と、カズ君はおののくばかりで、身動き一つ取れなかったそうです。深淵はカズ君を放って、トモ君に覆いかぶさろうと、液状の体を広げました。当然、トモ君は抵抗しようと体をねじりましたが、深淵にはそんなもの、何の妨害にはならなかったようです。気色の悪い黒色の粘液が、トモ君の腕に絡みつき、じゅるじゅると体を這いずり、纏わりつき、すっかり覆ってしまいました。もはやそれは、人の形をした真っ黒なモノ……だったそうです。浸食が終わると、その様子を見守っていた化け物が、変わり果ててしまったトモ君を腕に抱き、連れ去って行きました。

 カズ君は硬直したまま、トモ君だったモノが遠ざかって行くのを、眺めているしかありませんでした。意識がぼやけていくなかで、ヒトの形をした深淵が、遠くから嗤いかけているのを感じたそうです。黒くなった顔のない顔で。 勿論これは夢の話です。けれど、それからトモ君はいなくなってしまったそうです。

 カズ君は最初、もしかして引越しをしてしまったのかと悲しく思ったそうです。

 だけど、トモ君は引越しをしたわけではありませんでした。本当に行方不明になってしまって、当時は大騒ぎになったそうです。家出か、誘拐か、神隠しか、と騒がれ、警察も捜査を進めましたが、結局トモ君は見つからないままだそうです。

 やがて、カズ君は“怖かったもの”を忘れて、大きくなっていきました。

 ……なんで僕がこんな話をしたか疑問に思ったでしょう? これは僕がカズ君に直接聞いた話で、また相談されたことでもあったのです。

 話してくれた時、カズ君は少年というぐらいに大きくなっていました。実は、彼と僕は同級生だったのです。そして相談の内容は、「トモ君が帰ってくるかもしれない」と言うものでした。神隠しとまで騒がれた幼少時代の友達が帰ってくる。とても不思議な話です。しかも、前置きとして不気味な夢の話までされましたから、どういう事かと思い、真意を尋ねました。

 すると彼は僕に手を差し出してきたのです。見て欲しい、と、掌を広げて。彼の掌は、罅割れていました。まるで、彼が見た夢の話のように。怪我なのかとも思いましたが、怪我をしたとしてもこんな風にはならないだろうと、不可思議で、また不気味に見えました。触りたくなりましたが、とてもそんな事は出来ませんでした。恐ろしかったのです。

 そして彼は、この罅割れが小さい頃トモ君と遊んでいた時に見せてきたのと、また夢で見たものと、そっくりそのままだと言うのです。勿論、怪我をした覚えもなければ、僕をかつぐために作ったわけでもないと訴えてきました。彼はこれを見るたびに、罅割れの奥にトモ君が見える気がすると言うのです。けれど、それが本当にトモ君なのかわからず、もしかしたら夢の中で彼を呑込んだ深淵なのではないかと、怖がっていました。

 もしかしたら、トモ君とはまた会えるのかもしれない。言っていた通りに、帰ってくるのかもしれない。しかし、「また遊ぼう」と言っていた彼が、自分とどんな遊びをするつもりなのか、それはひょっとして深淵たちの良くない遊びじゃないのかと、不安で堪らない。そんな風にカズ君は、恐怖に震えながら、僕に話しました。

 結局僕は、ありきたりな慰めの言葉ぐらいしか言えず、適当に励ましてその日は別れました。そして、それ以来、カズ君とは会えていません。ええ、カズ君も行方不明になったってしまったのです。トモ君の時と同じように騒がれました。結局見つからず、今に到ります。

 ……はい。実は、僕も、カズ君と最後に会った日の夜に、夢を見ました。カズ君が語ってくれた夢と、ほとんど同じような夢です。細部は違うと思います、が大筋は同じでしょう。最後に彼が深淵に呑込まれ僕に嗤いかけました。

 それから僕は、トモ君が神隠しにあった昔の事件や、カズ君から聞いた話を色々と調べました。実際にカズ君が行方不明になったので、気になったのです。。他人や警察に相談しても、相手にされるとは思えませんでしたし、一人で調査を進めました。しかし、分かった事はありませんでした。トモ君もカズ君も忽然と消えてしまい、それはもはや神隠しとしか言いようがなく、また今日に到るまで発見されていません。アスファルトの罅割れにまつわる奇妙な話や、夢の話も掴みようがほとんどなく、どんなに調べても、見つかるのはファンタジーな信憑性のない事だけです。……寧ろ、信じようのない、そういった話が正解なのかもしれませんけどね。

 本題に入りましょうか。

 僕の掌を見て頂けますか?

 ほら、ここ。

 罅割れがあるでしょう?

 ええ、今度は僕の番のようです。

 ……それから、次はきっと、これを見てしまった貴方。

 貴方の夢に登場するのは、いったいどんな罅割れなのでしょうね?

あらすじ、もとい予告文章とは何度も直してるうちに乖離してしまい申し訳ありません。

そして、読んで頂いてありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 読みました。面白く、且つ怖かったです。 ここまで怖い「また遊ぼう」というものをはじめて見ました。 幼い頃の友達、しかも神隠しとまで言われるほど突然姿を消した友だちに夢の中で会う。というその…
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