空〜dream〜
僕は夢を見た。
青色のゲレンデ。その中に僕はいた。
前を見ればどこまでも続く青い空のロード。
下を見ると建物や山、今まで大きいと思ってきた景色が今は小さく見える。
辺りに途切れ途切れに存在する白い雲。
固体だと思っていた物が透明で透き通っているということに驚いた。
朝、目を覆っているまぶたをそ〜っと開いてみた。
「まだ・・・・生きてるよな・・・」
天窓から射し込んでくる光が眩しい。眩しいと実感することで自分がまだ生きているということを悟った。
そしてゆっくりとベッドから起き上がると近くの棚に置いてあった薬を手に取り、部屋の隅にある洗面台へと向かった。
洗面台にある銀色の水道の蛇口を捻り、出てくる透明な水を両手ですくって口に含んだ。
そして錠剤型の薬を一気に3つ飲み干した。
「・・・・ふぅ」
自然とため息が漏れる。
ここ2年間、僕は一度も外に出ていない。というより出れなかった。
2年前、元々患っていた心臓の病気が悪化したため、歩くこともままならないし走るなんてことは全然駄目だった。
「また今日も暇をすることになるんだなよな・・・」
外に出れないし、家に居てもやることがないので毎日暇を持て余していた。
そのままずっと洗面台に居るわけにもいかないので白いベッドへと移動し、寝転がった。
「ああ・・今日もいい天気なんだね・・・・」
寝転がりながらでも見える天井にある天窓に青く透き通るような空が思いっきり広がっていてとても綺麗だった。
そこから太陽の光が射し込んでいて僕の周りを包み込む。
その光が本当に眩しかった。眩しくて目を開けていることが困難だった。
コンコン。
薄い檜で出来た扉をノックする音が聞こえた。
目を閉じているうちに寝てしまったのだろう。既に太陽は東に傾いていた。
「どうぞ」
ガチャリという音がして扉がゆっくりと開いた。
「よっ!また来たぜ」
そう言ってひょっこりと顔を出したのは僕の親友で何度も見舞いに来てくれている亮だった。彼と僕は幼稚園の頃からの付き合いで何度彼に助けられてきたことか・・・。
「ああ・・、亮。いらっしゃい。部活帰りかい?来てくれて嬉しいよ」
「そうだぜ。それより大丈夫か?なんだか一昨日より顔色が悪いぞ?」
亮は心配そうに僕の顔を覗き込んできた。
「大丈夫だよ」
「ホントか?無理はするなよ?」
「本当に大丈夫だって。亮ってば心配性なんだから」
実際はそこまで大丈夫ではなかった。僕の病気は生まれてきた時からずっと心臓の一部に穴が空いており、そこから血が漏れ出すという病気だった。何千人かに一人の発症率だそうだ。今までは心臓にある穴が小さかったために日常生活に支障はなかったし、実際中学まではずっと野球をしていた。今は成長により心臓も大きくなったために穴も広がり、出血量も酷くなった。2年前に下された診断結果は余命2年。既に2年と少しが経過した今、いつ命が無くなってもおかしくはなかった。僕の命がもうすぐ尽きるということを亮は知らない。そのことは両親以外誰にも教えていないから・・・。
「はは、御免な」
「ううん。謝るのは僕の方だよ。小さい時からずっと迷惑かけて御免ね」
「いや、俺もコウに迷惑かけてきたからさ。俺の方こそ御免」
「何で謝るの?亮に迷惑をかけられたことなんか一度もないよ?」
「本当か?でも俺が何かで失敗した時や気にいらないことがあった時、お前に愚痴聞いてもらってただろ?あれ、迷惑じゃなかったか?」
「ううん、全然!逆にいろいろな話が聞けて楽しかったよ」
「そうか?ならお互いのためによかったんだな」
亮とこうして話していると自然と顔がほころんだ。
亮の顔も自然と笑顔になっていた。
「おっと、何辛気臭いことを話してんだろうな。もっと話して盛り上がろうぜ!」
「うん!」
「おっと、もうこんな時間か・・・。そろそろ帰らないと」
亮がそう呟いたので真っ白な壁にかかっている昔ながらの鳩時計に目を移動させた。
針は6時を廻っていた。
「そうみたいだね。残念。・・・また・・会えるよね?」
「当たり前だろ?何言ってるんだ、俺とお前の仲だろ?」
その問い掛けに亮は満面の笑みをもって答えてくれた。
「うん、そうだね!」
僕も満面の笑みで返した。
「じゃあ帰る前にコウ、いいおまじないを教えてやるよ」
「おまじない?」
「ああ、お前が憧れている空へ近づけるおまじないだ」
「え!?ホント?」
「俺が嘘を言ったことがあったか?・・・あったな・・。いや、とにかくこれを枕の下に敷いて寝てみな。きっといいことがあると思うぜ」
亮がズボンのポケットから取り出したのは青く透き通った色をしたガラス玉だった。
それを僕に手渡すとじゃあなという言葉だけを残して僕の部屋を出て行った。
その夜僕は夢を見た。
青色のゲレンデ。その中に僕はいた。
前を見ればどこまでも続く青い空のロード。
下を見ると建物や山、今まで大きいと思ってきた景色が今は小さく見える。
辺りに途切れ途切れに存在する白い雲。
固体だと思っていた物が透明で透き通っているということに驚いた。
僕は夢の中でこれは夢だと理解した。
大空は途中で途切れ、その先には真っ白な空間が生まれていた。
それはおそらく夢の終わり、そして人生の終わりさすものだと本能的に悟った。
その中に吸い込まれる前にこの素敵な夢の中でお礼を言おう・・・。
今まで僕を支え、励ましてくれた両親へ。
今までお世話になったお医者さん、学校の先生、友達へ。
そしてずっと僕を見守り続け、最後にこんな素敵なプレゼントをしてくれた亮には最大限の感謝を・・・・。
僕は・・・・果報者でした・・・・。
部活の合宿中にふと思いついた小説です。
少しでも心にグッとくるような小説を目指してます。
この小説を気にいっていただければ幸いです。