9. 献身者と救出者
「お前、正気か?」
「大変ですか?」
「できるかどうかなんて問題じゃない。これを持っているだけで、強制着用ってことなんだ。」
「でも、譲渡不可という項目はなかったですが?」
「いや、今、俺の言ってること理解できてないのか?それとも状況判断ができないのか?」
彼はニュービーの意図を理解できなかった。
もちろん、自分を犠牲にする者たちは意外と多いものだ。
ましてや彼が救助隊なら、なおさらそうだろう(彼だけの思い込みだが)。
しかし、犠牲というのもそれなりに戦略というものがあるものだ。
今、ニュービーが自分の代わりにこの首輪を装着したところで、奴隷が1人増えるだけという状況だった。
「おや、それじゃあ、私が何も考えずにこんなことしてると思ってるんですか?」
「え、うーん。そうじゃないけど。」
「一度任せてみてください。さあ、どうぞ。」
ニュービーの軽々しい態度に少し不安を感じつつも、彼はゆっくりと首輪に手を伸ばした。
「うまくいくかは分からないな。」
「試してみる価値はあるでしょう。」
「わかった……アイテム贈呈。」
彼はコマンドと共に、空中に手招きした。
首にあった、あのジリジリと音を立てる不快な首飾りが外れ、ゆっくりとニュービーの手へと移っていった。
「あ、できた。」
[他のプレイヤーからプレゼントを受け取りました]
[@#@!#装飾品を装備!#@を獲得しました!]
[装備効果が発動します!]
メッセージウィンドウと共に、その首飾りが寄生虫のようにニュービーの首にまとわりついた。
「うっ!」
「そ、それを見て!俺が何て言ったか……」
彼は慌てて手をばたつかせ、当惑した。
やがて、彼の手が止まり、瞳孔が揺れた。
「……言ったか?」
そのネックレスを中心に広がっていた黒いコードと、ジジジと鳴っていたノイズが収まり始めた。
チン!
[エラーが検出されました]
[自動デバッグモードが作動します]
[エラーが解決されました!今後、他の問題が発生した場合はシーカーワールド運営チームまでご連絡ください]
しばらく目を閉じていたニュービーが目を覚ますと、目の前に通知ウィンドウが現れた。
[頻繁なデバッグにより、プレイヤーの皆様にご不便をおかけし申し訳ございません。円滑なゲームプレイのため、「#!#@ニュービー」様に一時的な運営権限を付与いたします。]
[10等級の運営権限が付与されました。]
[「実験体162号のネックレス」を獲得しました。]
「運営権限?つまり、俺が運営者みたいな存在になったってことか?」
運営者、文字通りゲームを運営するスーパーアカウント。
もちろん実際には単なるゲーム会社の社員に過ぎないが、それだけゲーム内での力が最も強い者たちでもあった。
良心のない運営者の中には、自分のアカウントを使ってこっそり悪さをした者もいるのだから。
もちろん「10級」という条件は付いているが。
「とりあえずこれは後回しにしよう。」
ニュービーはゆっくりと他の人々に近づいた。
その奇跡を目撃した人々の瞳に、徐々に光が戻り始めた。
「私、私もできますか?」
「私も……お願いです。」
「もちろんです。ゆっくり一人ずつ来てください。」
一度目は難しかったが、二度目、三度目は簡単だった。
[「実験体372号の首飾り」を獲得しました。]
[「実験体412号の首飾り」を獲得しました。]
[「実験体932号の首飾り」を獲得しました。]
...
一つ、二つと首飾りを外し、正気に戻った者たちは、ゆっくりと理性が戻ってきたのか、自分の体をほぐし始めた。
その中で、最初のおじさんが立ち上がると……
「まだ信じられないな。本当に自由になったのか?」
彼の眼差しそのものが変わった。
ぼんやりとしていた灰色の瞳が、猛獣のように鋭く変わった。
彼はゆっくりと荷物を調べ始めた。
「あったな。」
乗客たちが護身用に持ち歩いている武器の一つだった。
その中で、彼は軽やかな片手剣を取り出した。
空中で何度か試しに剣を振り回した。
「クッ! グゥゥゥゥゥゥゥ!」
その時、虎が再び起き上がり、檻の中から威嚇するような声を上げながら、檻を引っ掻き始めた。
「な、何だ、急に?」
虎はさっき気絶したことが悔しいのか、狂ったように鉄格子の扉を引っ掻き続けた。
すると、鉄格子の錠が遂に壊れた。
奴はそのまま鉄格子の外に出てくると、突然彼らに襲いかかろうとした。
「うるさい。」
彼は駆け寄ってくる虎に向かって、縦に剣を振り下ろした。
ピィーン!
目に見えるほど白い剣気が一筋の光を生み出した。
その軌跡に捉えられた虎は真っ二つに断ち切られた。
「ふぅ、思ったより感覚は衰えていなかったな。」
『あんなふうに人は変われるものなのか?』
歳月は確かに恐ろしいものだ。
ニュービーは、突然覚醒してしまったあの男を見て、目を大きく見開いた。
しかし、それは始まりに過ぎなかった。
後ろにいた他の生体インベントリーたち。
その全員が。
ゆっくりと眼差しを変えながら動き始めた。
*
窓辺にいたアリエンと、その青い髪の献身者。
二人の眼差しが交わった。
冷たく虚ろなその眼差しは、相変わらずだった。
キャプテンは淡々とした無駄のない動作で、背中に背負っていたクロスボウを取り出した。
いや、正直なところ、あれはクロスボウというには大きすぎた。
誰が見ても攻城兵器と勘違いするレベルだった。
チャッ! シュルルッ! チチッ!
装填、照準、発射。
これらすべてが、わずか1秒の間に起こった。
パアン! シュルルルッ!
ガシャガシャッ!
アリエンは慌てて後ずさった。
彼女がいた窓の辺りが丸ごと砕け散った。
そこには石弓の矢が突き刺さっていた。
その矢には鎖が繋がれていた。
「行け。」
「了解、キャプテン!行くぞ!」
オレンジ色の髪の別の献身者が、その鎖を伝って駆け出した。
彼女はすぐに馬車の二階に足を踏み入れた。
「やあ?」
オレンジ色の髪の献身者は、のんきに手を振りながら微笑んだ。
そんな純粋な微笑みの裏から、彼女の蹴りが飛んできた。
「うっ!」
ドカン!
アリエンは急いで盾で防いだが、腕に痺れが走った。
[貫通ダメージを受けました]
[体力の5%を失いました]
確かに、さっきの警備兵たちとは次元が違った。
このゲームの世界では、今や誰でもレベルマックスだから、戦闘力はみんな大差ないと錯覚しがちだ。
しかし、戦闘について少しでも詳しい者なら知っていた。
レベルが戦闘力の全てではないということを。
どのような装備構成にするか、どのようなスキルを習得したか。
それ以外にもステータスの配分、職業、個人の知識と経験、さらには現実世界でどのような武術や運動を学んだかまで……
シーカーワールドでは、そのすべてが戦闘と結びついていた。
「あー、それなりに必殺の一撃だったのに。やっぱり通じないな~。」
その時、鎖がガチャガチャと音を立て、鎖を伝ってあの青い髪の献身者が登ってきた。
彼は青い瞳を輝かせながら、仲間に警告した。
「油断するな。危険度3級の奴だぞ。」
「えーっ?!そんな大物がなんで馬車を襲ってるの?3級以上が現れたら王国が揺らぐとか騒いでたのに!」
笑えるほど大げさな身振りで、女性の献身者が驚いた。
まるでふざけているような態度だが、確かに愕然としていた。
「一つは分かっているようだな。一体バグで何をしようとしているんだ?」
「バグ?」
「騙そうなんて考えるな。中に入ってみれば確かに感じる。バグ保持者の奴が間違いなくここにいる。」
「それって……どういうこと? そんな危険なものを私が何のために?」
「やっぱり話が通じないな。仕方ない。」
そもそも彼は期待などしていなかった。
部外者と対話するくらいなら、いっそ狂ったゴブリンと討論するほうがまだ簡単だからだ。
カチッ!ガチャン!
青い髪の献身者の巨大なクロスボウが不吉な音を立てて形を変えた。
「ガンモード発動。魔法制圧弾を装填。」
「どこへ!」
アリエンが放ったチェーンソーの円盤盾が彼に向かって飛んだ。
しかし、オレンジ色の髪の献身者は素手でその円盤盾を掴み取った。
「アイアン・スケール!」
彼女の手が鋼鉄のように変貌した。
掌の中で円盤盾が回転したが、すぐに動きを止められた。
チャカン!チャルルル!
「え?えっ?」
すぐにアリエンが鎖を引いて回収すると、彼女は呆けた顔で空中に手を振った。
背後からクロスボウが火を噴いた。
「ちっ。」
アリエンは唇を噛みしめた。
彼女は最初の一発を体を捻って避け、横へ走りながら飛んでくる弾丸をかわした。
同時に、彼女は壁を伝って円盤盾を投げた。
「どこへ行く!アイアン・スケール!」
オレンジ髪の献身者が再び円盤を奪おうとしたが。
シュッ!
「えっ?」
アリエンがもう一度手を振り、鎖の方向を変えた。
円盤盾は鎖に従って軌道を変え、壁にぶつかったかと思うと、再び跳ね返った。
盾はやがて轟音を立てて、青い髪の献身者へと飛んでいった。
「クッ!」
カチッ! プシュッ!
すぐに彼のクロスボウから、ショットガンのように無数の破片弾が降り注いだ。
数回の接戦の末、双方の戦いにはそれぞれの勝利目的が生まれた。
献身者側は、アリエンに接近して制圧すること。
アリエン側は、オレンジ髪の献身者のブロックを避け、遠距離担当である青い髪の献身者を制圧すること。
続く追いかけっこのような戦いが続いた。
戦いが長引くと、アリエンはオレンジ髪の献身者を先に仕留めようとしたが。
バン! タダダダダ!
「うっ!」
「へへっ~。うちのキャプテンが、あんたの浅はかな手口を見抜けないとでも?」
「ちっ!」
青い髪の献身者、つまりキャプテンを攻撃すると、オレンジ髪の献身者が割り込んできた。
オレンジ髪の献身者を狙うと、キャプテンが割って入り、アリエンを迎撃した。
まだ互角だったが、不利なのは結局アリエン側だった。
息の合った二人は、アリエンの攻撃を次々と防ぎ続けた。
「えいっ!アイアン・フィスト!」
「うっ…!」
オレンジ髪の献身者の鉄拳攻撃により、円盤盾に徐々にダメージが蓄積し始めた。
[装備の耐久度が危険値に達しました]
[耐久度が一定以下になると、装備が強制的に解除されます]
それだけではない。
青い髪の献身者の射撃は、時が経つにつれて巧妙になっていった。
「ミラ。」
「オーケー、オー、マイ・キャプテン!」
彼女が体をひねった瞬間、彼女がいた場所へ弾丸が飛んできた。
いくらアリエンでも、妙技に近いその射撃術にダメージが蓄積し始めた。
[ダメージ 1,421]
[ダメージ 492]
[ダメージ 1,823]
...
[体力の2%を失いました]
小雨に服が濡れるように、体力はどんどん削られていった。
これだけでも悪くないのだが、彼女には悪い知らせばかりが舞い込んできた。
「イヨブ! 手刀!」
チャンカン!
[装備の一部が破損しました!]
「イェス!」
集中力が切れたせいで、アリエンは一瞬、盾の回収が一拍遅れた。
すると、オレンジ髪の献身者、つまりミラが、手刀で鎖を切り落とした。
そろそろ限界だった。
「プレイ汚いね、マジで。」
アリエンの非難に、二人はかえってニヤリと笑った。
「 へへ、キャプテン! 僕らのコントロール、超ヤバいって?」
「褒めてくれてありがとう。」
もはや消耗戦も不可能だった。
アリエンは最後の切り札を繰り出した。
彼女の片手剣が赤く燃え上がった。
「フレイム・エンチャント。そして……」
彼女はありとあらゆるバフアイテムを取り出した。
使った薬瓶や薬草が床に散らばった。
「グゥゥゥッ…!」
パッ!
瞬間、アリエンのかたちが消えた。
「ミラ!」
「うっ!鉄の塊!」
本能的にミラは両手を交差させ、防御スキルを発動させた。
シュッ!
「うっ!」
全身が石の塊のように変貌したにもかかわらず、彼女の両腕には深い傷が刻まれた。
彼女はそのまま横へ吹き飛ばされ、燃える剣を構えた彼女が目前まで迫ってきた。
しかし、キャプテンも彼女と同じだった。
数十年にわたりプレイヤーを狩り、バグを解決してきたベテランだった。
彼はアリアンではなく、床に向けてクロスボウを構えた。
「爆裂砲!」
その言葉と共に、光が走った。
すぐに床が砕け、彼は穴を通って落下した。
「くっ! ダメだ!」
アリエンが急いで身を投げ出した。
彼女が得たバフは長くは続かなかった。
その中には、バフが切れるとデバフが発生するものもあったため、素早く終わらせなければならなかった。
しかし、彼女は分かっていた。
自分が焦りすぎたということを
「くそっ……」
彼女が落ちることを察したのか、下に落ちていた彼が空に向かって照準を合わせていた。
「魔法光烈砲!」
レーザーを思わせる魔法砲が、馬車の天井まで貫通した。
当然、その攻撃を直撃されたアリエンが無事であるはずがなかった。
*
「くっ……」
[体力の82%を失いました]
[装備の耐久度が限界に達しました]
[装備が解除されました]
かろうじてレーザーをかわした時、どうにか後ろに下がれてよかった。そうでなければ即死だった。
もちろん、二人の目の前では、彼女は死体と何ら変わらなかった。
「いっそそのまま死んだ方がましだったのに、不思議だな。」
「そうだな? 不思議だ。」
献身者の立場からすれば、プレイヤーを殺すのではなく捕まえる方がはるかに得だった。
ユーザーであるアリエンにとっても、捕虜になるよりは、すっきりと死んでギルドに戻る方が良かった。
しかし、アリエンとしては退くわけにはいかなかった。
『間違いなく、あいつらならニュービーさんを探し出すに違いない!』
彼女は決して退くことはできなかった。
自分が救い出すと決めてここまで連れてきたのだから、このまま逃げれば罪のないプレイヤーを地獄に突き落とすことになる。
しかし、このままでは一緒に捕まるだけだった。
「どうしよう…?」
長年活躍してきたベテラン救助隊員であっても、到底答えは出なかった。
到底答えが出るはずもない状況において。
どうあれ戦わなければならなかった。
アリエンが何とか立ち上がろうとしたが……
[デバフ「混乱」にかかりました]
そろそろアイテムの逆効果まで現れ始めた。
彼女が立ち上がろうとして、また倒れそうになったその時。
「あ、大丈夫ですか?」
誰かが彼女を支えた。
「ニュービーさん? いや、どうして?」
「助けに来ました。」
「いや、ニュービーさんは逃げ……」
その時、背後から気配が感じられた。
それも、非常に多くの。
「あなたたちはどうした?」
「体はまだかなりこわばっているが、それでも一人分の役目は果たせるさ。」
重々しい声の、筋肉質な中年男性。
以前、インベントリ奴隷だった時は、体を屈めていたせいで気づかなかったが、思ったより背が高かった。
そのほかにも、かつてインベントリ奴隷だった者たちが、それぞれ武器を手に現れた。




