7. 馬車強盗?
「恐竜が出てくる、いわゆる『神ゲー』って言葉があるよね」
だが、初心者の立場からすれば、ただただ戸惑うばかりだった。
「あれは何だ?」
「巨大モンスター…?」
「いや、王国の狩猟部隊は何をしているんだ?」
NPCの乗客たちが、それぞれ口々に騒ぎ始めた。
彼らの顔には、それほど深刻な様子は見られなかった。
『よくあることなのか?』
むやみに驚いた様子を見せたら注目されるのではないかと怖くなった初心者プレイヤーは、かろうじて本心を押し殺した。
『ただの道端のノロジカみたいなものか。てっきり…』
ノロジカにしてはかなり危険そうな見た目だったが、まあゲームの世界だしな。
どうせ、海で釣り人がクジラを見つけたようなハプニングに違いない。
そうして、気持ちを落ち着かせようとしたその時。
「クラーラララララ!」
ドカン! ガーン!
あの爬虫類の奴が、自分を無視したことに腹を立てたのか、馬車に体当たりしてきた。
「 う、うわっ、何だこれは!」
「きゃあああ!野生のモンスターが暴れている!」
まるで動物園の見世物のように眺めていた乗客たちが、突然トラの檻に放り込まれた動物のように悲鳴を上げた。
たちまちこの階全体がパニックに包まれた。
すると、簡易テーブルに取り付けられた水晶球から声が流れてきた。
<ああ、馬車騎士のトロップです。現在の馬車には野生モンスターに備えて魔法の防御膜が張られていますので、乗客の皆様は慌てず、シートベルトを締めて……>
馬車騎士はなんとか乗客たちを落ち着かせようと努めた。
「クワーアアアア!」
ドカン! ガシャン!ガシャガシャガシャッ!
魔法の防御壁について言及した途端、ガラスの割れる音が馬車全体に響き渡った。
<え?あれはなぜ?割れるはずがないのに……>
馬車の御者さえも呆気にとられたように呟いた。
どれほど慌てていたのか、今自分の言葉が乗客たちに聞こえていることさえ気づいていなかったようだ。
当然、乗客たちはさっき以上に大騒ぎし始めた。
ドカン!
それも、あの恐竜が細長い口で馬車の壁を突き破った後までだった。
瞬く間に馬車は停止し、反動で乗客の大半が投げ出された。
数人の乗客が我に返って立ち上がったが、彼らの目に映ったのは、壁を突き破って侵入してきたその恐竜の巨大な口だけだった。
乗客たちは最初、恐竜の口を見て愕然としたが。
ガクッ!
その恐竜が口を大きく開けると、皆の目が丸くなった。
誰かがその口の中から歩いて出てきたのだ。
その存在を見て、皆は凍りついた。
カチカチ、カチカチ。
靴から頭の先まで、全身が黒鉄に覆われた騎士だった。
もともと全身が黒一色で恐ろしい黒騎士のような雰囲気を漂わせている上に、鎧の至る所に鋭い棘が突き刺さっており、兜からは赤い眼光が輝いていた。
その赤い眼光が左右に動き回ると。
ニュービーの前で止まった。
彼は今にも後ろへ飛び退けるよう身構えていた。
そんなニュービーの前で、その騎士が虚空に向かって指を動かした。
すぐにニュービーの目の前にメッセージウィンドウが表示された。
<フレンド「アリエン」さんが嬉しそうに挨拶しています!>
そのメッセージウィンドウを見て、ニュービーはまだ呆然としていた。
その時、彼女は自分の剣を抜き放ち、剣気を放った。
その剣気がそのまま馬車の壁を粉砕してしまった。
誰も殺さない脅しだったが、それだけでも十分だった。
「逃、逃げろ!」
「うわあああ!」
乗客たちは一斉に逃げ出した。
やがて、そこに残ったのは彼女とニュービーだけだった。
彼女はニュービーを見つめ、一言言った。
「装備解除。」
その言葉と共に、あのゴツゴツした黒い兜が消え、燃えるような髪が滝のように流れ落ちた。
彼女が初めて見た時、あの清らかな微笑みで挨拶した。
「再会できて嬉しいわね?」
*
「ううう……許してやらないわよ。」
妖精は相変わらず復讐を誓っていた。
正直、窓が一つでもあれば退屈しないかもしれないが、荷物室の荷物にはどんな照明権もなかった。
ましてや明かりさえも薄暗く、目の前さえまともに見えないほどだった。
「私はこういう場所が大嫌いなのよ。」
なんだか寂しさも感じた。
仕方ないことは分かっているが、それでも少しそうだった。
「出たら、あいつから何か取り返してやる!」
そうぶつぶつ言っていたその時。
「ううう……」
「くすん……」
呻き声と泣き声が妖精の耳元に響いてきた。
目の前さえよく見えなくて気づかなかったが、意外にも自分と同じように閉じ込められているペットたちが多く見えた。
「なんかおかしいな……」
そうは言っても、その泣き声や呻き声がどうも気に入らなかった。
何というか……
「ペットや動物じゃない気がする。」
もともとやることがなかったこともあり、好奇心に駆られた妖精はすぐに探索を始めた。
通りかかった時、鉄格子の中にいたある虎のペットが妖精に飛びかかってきた。
「この野郎!ツッ!ツッ!」
「クッ!クッ!」
もともとイライラしていた妖精は、その奴の鼻に怒りのパンチを叩き込んだ。
すると、その虎のペットはさらに怒りを露わにした
「ヒィッ!お前、後で覚えてろ!」
そうして虎のペットの檻を急いで通り過ぎ、ようやくそれまで見落としていた者たちが見えるようになった。
他のペットたちのように檻に閉じ込められていたわけではないが、誰よりも哀れな存在たちを。
「え? あなた…」
落ちていたランタンを持って、かろうじて顔を見た妖精は、はっと驚いた。
*
「その服装は何ですか?」
「あ、これですか?」
彼女はニヤリと笑いながらポーズをとった。
「私がよく着ている装備なんです。素敵でしょう?昔、これを鎧として一つずつ仕立てるのに半年も苦労したんですよ。」
「アリエン様は馬車強盗なんですか?」
ニュービーが本題を切り出した。
その言葉に、彼女は肩をすくめた。
「いえ?私の仕事は奪うことじゃなくて、取り戻すことなんです。」
「どういうことですか?」
プレイヤーたちが何か盗まれたのか?
ニュービーの疑問に、彼女は堂々とした態度で自己紹介した。
「正式にご紹介します。ギルドの『100万救出隊』所属の精鋭隊員、アリエンです。よろしくお願いします。”
「ちょっと待って。それって、ここに人質でも捕らえられているってこと?」
「あ、やっぱり、外の世界のことなんて何も知らないんですね。」
おかしい?
この馬車、確かに大きかったけど、捕虜を乗せているとかいう説明はなかったはずなのに?
彼女はニュービーの困惑した様子を見て、うなずいた。
「ええ。外の世界、特に王国に来ると、理解できないことばかりですよね。でも、今それを説明している暇はないんです。」
「あの、それならもう一つだけ聞かせてください。」
「もちろん、何ですか?」
「じゃあ、私を助けてくれた理由は何ですか?」
その言葉に、彼女は本当に不思議そうな口調で聞き返した。
「救助隊員が救助をしなければ、何をするというんですか?」
「じゃあ、今回私がこの馬車に乗せたのも……」
「おまけにニュービーさんも救出しようと思ってね、へへ。」
あれが、100年も生き残り、救出まで成し遂げたベテランプレイヤーの威厳か。
ニュービーの目には、彼女の頭の後ろに後光が差しているように見えた。
ただ、ニュービーはそんなヒーローの背後にいる市民のように、ただ見ているつもりはなかった。
「では、どうなさるおつもりですか。」
「まずは乗客たちを降ろさなきゃね。上の連中は、ここの1階の人たちみたいに素直に降りてはくれないでしょうから。」
ああ、ここに乗客がいたんだ。
ニュービーが周りを見回した時には、すでに1階全体には誰もいなかった。
彼女は自分の武器である円盤盾と剣を手に取った。
「じゃあ、ちょっと待ってて。」
「いえ、私も手伝います。」
「え? 危ないでしょう……」
「いいえ、戦えなくても他の方法で手助けすればいいんです。」
ニュービーが言葉を続けた。
「きっと、騒ぎになれば捕虜たちを連れ出すはずですから。私が捕虜たちを救出しておきます。」
「捕虜がどこにいるかご存知ですか?」
「きっと捕虜なら荷物室に閉じ込められている確率が高いでしょう。」
もちろん、アリエンもそれくらいは知っていた。
問題は別にある。
「荷物室の扉の開け方は知ってるの?」
「そこに私の友達がいるんですから。」
「友達?あ、そういえば……ふふ、ペット扱いされてたみたいね?かなり怒ってるんじゃない?」
「ギルドで美味しいものを買ってあげるわよ、何でもいいから。ギルドには美味しい店がたくさんあるでしょ?」
「ふふ、いいわ。じゃあ、一度信じてみるわ。でも、危険になったら振り返らずに私のところへ走ってくるのよ?約束?」
「約束するわ。」
ニュービーから約束を取り付けた後、彼女は軽やかな足取りで姿を消した。
シュッ! シュアアアアッ!
彼女が残した場所には、一筋の風だけが残っていた。
*
王国駅舎の馬車騎手であるトロップは、人生最大の危機に直面していた。
「くそっ、出発した時は確かに、一生に一度のチャンスだったのに!」
馬車は単なる移動手段を担うだけではない。
実のところ、トロップのような馬車騎手にとって最大の稼ぎは、乗客ではなく貨物の配達だった。
特に今回の貨物は、ただの普段の貨物とは次元が違った。
「くそっ。他の場所でもなく、王室からの発注だ……もし失敗したら……」
単に高価な品を失うだけでも大きな問題だが、顧客の方がさらに問題だった。
王国のあらゆる権力の中心にある王室を怒らせる?
もうこの王国で生きていくことはできない。
「くそっ! 援軍はまだか!」
トロップの怒号に、補助員たちは汗だくになっていた。
彼らは水晶球をあちこち回しながら、連絡できる限りの場所へ連絡を取っていた。
あちこちに懇願し、助けを求めたが。
水晶球から返ってくる答えは拒否ばかりだった。
「距離が微妙なため、現在パトロール隊が近くにいないそうです。」
「今そんなことを言ってる場合か!今回運ぶ荷物が盗まれたら、俺、いや、俺たち全員終わりだぞ!」
彼の脅しに職員たちは怯えたが、職員が怯えたからといって、突然要請を受ける者が現れるわけではなかった。
「あ、ちょっと待って!ちょっと待って!こちら54号馬車!54号馬車!野生のモンスターと、外部の人間と思われるテロリストが発見された。支援要請!」
「こちら献身者。我々は任務遂行中だ。支援要請は許可しない。」
職員の切迫した要請とは裏腹に、返答は限りなく冷たかった。
その瞬間、聞いていた職員の背筋が凍りついた。
献身者たちだなんて……テロリストと同じくらい、彼らにとっては恐ろしい存在だった。
それでも、彼は背後で騒ぎ立てているトロップの代わりに、重ねて頼んだ。
「あの、大変です。このままここが襲われれば、乗客はもちろん、王国の重要物資が……」
<現在、我々は我々の目標を追跡中だ。>
「ここにいるテロリストも外部人だと言っているのです!外部人の狩りが献身者たちの仕事ではないのですか!」
<一般の外部人より、バグを所持した外部人が優先順位だ。>
限りなく機械的で事務的な口調。
一介の馬車補助職員としては、これ以上どう返答することもできなかった。
すると、突然横からトロップが口を開いた。
「こちらは54号馬車の騎手、トロップです。バグを探しているとおっしゃいましたか?」
<そうだ。>
「ここ、ここにバグがいます!バグを所持した外部者です!」
瞬間、全員がトロップの言葉に愕然とした。
ただ献身者の口調だけが冷静だった。
<本当か?>
「は、はい! 間違えばバグが拡散する恐れもあります! ですから!」
「わかった。そこを経由する。」
パッ。
そのまま水晶球の連絡が途絶えた。
「騎、騎士様!献身者相手に今、嘘を……」
「うるさい!どうにか解決さえすれば全てうまくいくから、俺の言う通りにしろ!いいか!今すぐ警備兵を降ろせ!どうしてもダメなら!乗客たちを盾に使えと伝えろ!」
普通の馬車騎士なら絶対に口にしない言葉だったが、トロップにとって今、乗客の安否など重要ではなかった。
『そんな乗客ごときもの。今回の件さえ成功させれば、俺はこいつらクソみたいな馬車御者の仕事も辞めてやれるんだ!このクソみたいな町』
彼は、どうか警備隊だけであの忌々しい外部からのテロリストを阻止できることを願った。
もし無理なら、時間通りに献身者たちが到着するよう、PDに祈った。




