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追放された最弱テイマー、実は伝説級のスキル持ちでした  作者: イチジク


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1/1

追放かよ

「お前はもう用済みだ。パーティーから出て行け」

勇者パーティーのリーダー、アレクが冷たい声で言い放った。

俺――リオン・フェルナンドは、言葉を失った。五年間、共に戦ってきた仲間たちが、誰一人として俺を庇おうとしない。

「リオン、あなたのテイマースキルじゃ、これ以上の強敵には対応できないわ」

魔法使いのエリカが申し訳なさそうに、しかしはっきりと告げる。

「そうだぜ。スライムやゴブリンじゃ、魔王軍の幹部には歯が立たねえよ」

戦士のガルドが腕を組んで言う。

俺のスキルは【弱小モンスターテイム】。名前の通り、スライムやゴブリンといった最弱クラスのモンスターしか従えられない。確かに序盤は役立った。雑魚敵の足止めや荷物持ち、索敵など、地味な仕事をこなしてきた。

でも、パーティーのレベルが上がるにつれて、俺の存在価値は薄れていった。

「Aランク冒険者になった今、お前のスキルは足手まといでしかない」

アレクの言葉が胸に刺さる。

「分かった。今までありがとう」

俺は笑顔を作って、ギルドカードをテーブルに置いた。パーティー登録の解除。これで、俺は正式に追放されたことになる。

「リオン...」

エリカが何か言いかけたが、結局何も言わなかった。

誰も止めない。誰も俺を必要としていない。

俺は宿屋を出て、夜の街へと消えた。

追放されて三日。俺は辺境の森で野宿していた。

所持金はわずか。装備もレベルも、パーティーの中では最低だった俺には、一人で冒険者を続ける自信がない。

「はぁ...これからどうしよう」

空腹を抱えながら、焚き火の前で途方に暮れる。

その時、茂みから小さな鳴き声が聞こえた。

「ピィ...ピィ...」

警戒しながら近づいてみると、傷ついた小さなスライムがいた。

だが、見たことのない色だ。普通の青いスライムとは違う、真っ白な体をしている。体の一部が欠けていて、どうやら魔物か何かに襲われたらしい。

「大丈夫か?」

俺は最後の回復ポーションを取り出し、スライムに与えた。もう自分が飲む分はない。でも、放っておけなかった。

白いスライムがポーションを吸収すると、傷が癒えていく。

「ピィ♪」

嬉しそうに跳ねる姿を見て、俺も少し気持ちが軽くなった。

すると――

【特殊個体を発見しました】

【テイム可能です】

いつもとは違うシステムメッセージが表示された。今まで見たことのない、金色の文字だ。

「特殊個体...?」

普通のスライムをテイムする時は、こんなメッセージは出ない。もしかして、このスライムは特別なのか?

「テイムする」

【テイム成功】

【幻獣"始まりのスライム"を従えました】

【隠しスキル"真なるテイマー"が覚醒しました】

【あなたの真のスキルは"原初の従者"です】

「え...なに、これ?」

次々と表示されるメッセージに混乱する。

そして、白いスライム――いや、"始まりのスライム"が突然眩い光に包まれた。

光が収まると、そこには人間の少女のような姿があった。

白銀の長い髪、透き通るような白い肌、そして深い青の瞳。年の頃は十代半ばくらいだろうか。純白のドレスをまとい、神秘的な雰囲気を纏っている。

「マスター、長い時をお待ちしておりました」

少女が優雅に一礼する。

「え、えっ? お前、さっきのスライム?」

「はい。私は始まりのスライム。全ての魔物の祖にして、原初の眷属です」

「げ、眷属...?」

頭が追いつかない。スライムが少女になって、しかも全ての魔物の祖だと言っている。

「ご説明いたします。座ってください、マスター」

少女――仮に「シロ」と名付けた――の説明は、俺の常識を覆すものだった。

「この世界のモンスターは、みな元々は神に仕える眷属でした」

「眷属...神に仕える存在?」

「はい。遥か昔、神々がこの世界を創った時、私たちは神の力を宿した存在として生まれました。しかし千年前の大戦で、神々は去り、私たち眷属は力を失いました」

シロは悲しげに語る。

「力を失った眷属は、今の"モンスター"と呼ばれる姿に堕ちてしまったのです。スライム、ゴブリン、スケルトン...全ては、かつて神に仕えた者たちの成れの果てです」

「じゃあ、俺がテイムしてきたスライムやゴブリンは...」

「本来はもっと強大な存在だった、ということです」

信じられない話だ。でも、目の前でスライムが少女になった事実がある。

「そして、マスター。あなたのスキルは"弱小モンスターテイム"ではありません」

「え?」

「真の名は"原初の従者"――神の力を宿した眷属たちを、本来の姿に戻し、従える力です」

シロが俺の手を取る。

「あなたは選ばれし者。神が去った後も、眷属を導ける唯一の存在です」

「そんな...俺はただの最弱テイマーで...」

「違います」

シロは強く首を振った。

「あなたのスキルを"弱小モンスターテイム"と判定したのは、この世界のシステムです。システムは劣化した眷属を"弱小モンスター"と認識し、あなたのスキルもそう表記しました。でも真実は違う。あなたは、失われた力を取り戻せる唯一の存在なのです」

俺の心臓が高鳴る。

もしそれが本当なら――俺は最弱なんかじゃない。

「試してみましょう、マスター。そこにゴブリンがいます」

シロが指差す方向を見ると、確かに野良のゴブリンが徘徊していた。

「あのゴブリンをテイムしてみてください」

言われた通り、スキルを発動する。

【テイム成功】

【堕天騎士"ガルガン"を従えました】

ゴブリンが光に包まれる。その光は、シロの時よりもさらに強く――

光が消えると、そこには2メートルを超える騎士が立っていた。漆黒の鎧、赤い目、そして背中には巨大な剣。

「我が主よ...」

低く重い声が響く。

「長き眠りから目覚めさせていただき、感謝の言葉もございません。堕天騎士ガルガン、今再びあなたに剣を捧げます」

片膝をついて頭を垂れる姿は、まさに騎士だ。

「マジか...」

「これがあなたの本当の力です、マスター」

シロが微笑む。

俺は...最弱なんかじゃなかった。

「信じられない...」

目の前の光景が現実だと、まだ完全には受け入れられない。

「マスター、この近くに洞窟があります。そこには古い眷属が眠っています」

「古い眷属?」

「はい。おそらく、システムでは"ドラゴンモドキ"と表記されているはずです」

シロとガルガンに導かれて、森の奥深くにある洞窟へ向かう。

洞窟の入り口は蔦に覆われていて、長い間誰も入っていないようだ。中に入ると、確かに小さなドラゴンのような生物がいた。いや、ドラゴンというよりはトカゲに近い。体長は1メートルほど。

「あれが...眷属?」

「はい。かつては星を統べる竜でした」

俺はスキルを発動する。

【テイム成功】

【星竜帝"ヴォルドラギア"を従えました】

轟音と共に、洞窟が振動する。

小さなトカゲの体が膨れ上がり、銀色の鱗が生え、巨大な翼が展開される。洞窟が狭すぎて、竜の体が収まりきらない。

「外へ!」

シロの声に従って洞窟から飛び出すと、後ろから巨大な竜が現れた。

全長は優に20メートルを超える。銀色の鱗が月光を反射し、まるで星のように輝いている。

「我が主...」

竜が首を垂れる。その威圧感に、俺は思わず息を呑んだ。

「星竜帝ヴォルドラギア、ここに復活せり。主よ、この身、再び貴方に捧げましょう」

「すごい...」

言葉が出ない。

ドラゴンモドキだと思っていたトカゲが、こんな姿になるなんて。

「これで理解していただけましたか、マスター」

シロが俺の隣に立つ。

「あなたの力は、世界を変えられるほどのものです」

俺の力――"原初の従者"。

弱小モンスターを本来の姿に戻す、唯一無二のスキル。

「でも...なんで今まで気づかなかったんだ?」

「おそらく、条件があったのでしょう。私のような特殊個体と出会わなければ、真の力は目覚めなかった」

なるほど。だから今まで、普通のスライムやゴブリンは弱いままだったのか。

「じゃあ、今までテイムしたモンスターも...」

「はい。マスターが再びテイムし直せば、本来の姿を取り戻せます」

可能性が広がる。

俺は最弱のテイマーじゃない。

失われた神の眷属を復活させる、唯一の存在――

「マスター、これからどうなさいますか?」

シロが問いかける。

「俺は...」

アレクたちの顔が浮かぶ。俺を追放した、元仲間たち。

「まだ決めてない。でも、とりあえず力をつけないと」

「賢明です。では、この辺境で修行しましょう。弱小モンスターは沢山いますから」

そうだ。ここには俺にとっての"宝の山"がある。

スライム、ゴブリン、スケルトン、マンドラゴラ...

全てが、かつての眷属。全てが、俺の力になる。

「よし、やろう」

俺は拳を握りしめた。

追放されてよかった。

この辺境に来なければ、シロと出会えなかった。真の力にも気づけなかった。

「マスター、私たちは永遠に貴方と共にあります」

シロが微笑む。

「この命、主のために」

ガルガンが剣を捧げる。

「我が翼、主に捧げん」

ヴォルドラギアが咆哮する。

俺には、新しい仲間がいる。

そして、無限の可能性がある。

「行こう。俺たちの、新しい冒険を始めよう」

月明かりの下、俺と三体の眷属は、新たな一歩を踏み出した。

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