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第1章:鍛錬の始まり

「……話を戻そう。お前の当面の課題は、身体の基礎能力を底上げすることだ。もっとも……」


「もっとも、なんだ?」


「肉体強化は一朝一夕で成せるものではない。最も手っ取り早い方法は、魔力で己の肉体を増幅することだ」


「でも、俺は魔法なんて使えないぞ」勇者はしょんぼりと肩を落とす。


「魔法使いだけが魔力を扱えるわけではない。それに……お前にはすでに強大な魔力が宿っている」


「俺に強大な魔力……? この前、魔導師に調べてもらった時は“才能なし”って言われたんだが」


「その力はすでにお前の手中にある」


「ほんとか?」勇者は眉をひそめ、半信半疑の表情を浮かべる。


「無論だ。しかも、その力をお前はすでに一度使っている」


勇者の顔にぱっと喜色が広がる。「……勇者の刻印か!」


ルシウスはすぐさま刻印の力を呼び起こす。紋章が浮かび上がり、ほのかな光を放った。しかし次の瞬間、彼はまたしょんぼりとうなだれた。


「けど、この勇者の力って……治癒とか光を放つくらいしかできないんだ。実際に試したし」


「必要なのは余計な機能じゃない。ただ、純粋な魔力としてその光を肉体に流し込めばいい」


「やってみる……」


ルシウスは拳を眉間の前にかざし、目を閉じて意識を集中させた。瞬間、刻印が眩い光を放ち、その光は炎のように刻印から外へ広がり、やがて拳と前腕全体を包み込む。


「おおおっ!」思わず声を上げた。


「いいぞ、そのまま続けろ。全身に魔力を行き渡らせるんだ」いつの間にか、魔王は頭上の枝に腰を下ろしていた。


ルシウスは再び目を閉じ、さらに集中する。炎のような魔力が腕全体へと広がっていく。

「続けろ。片腕だけじゃ足りん」


「あああああ……っ!」ルシウスは拳を握りしめ、全身を震わせる。「これが……限界だ……」息を荒くしながら吐き出す。


「そうか。まあ、初めてにしては悪くない出来だ」


「じゃあ……お前は? 初めての時はどんな感じだったんだ」


「さあな、そんな昔のこと覚えちゃいない。……ともかく、効果を試してみろ」


「効果って、どうやって?」


「その拳で木を殴ってみろ」


「いくら力が強化されてても、木を殴るなんて……痛くないのか?」


「心配するな。強化されるのは力だけじゃない。肉体の強度も上がる」


「よしっ、いくぞ!」


目の前の木は直径一メートルほど、ざっと見積もっても三千キロはある大木だ。ルシウスが拳を叩き込むと、巨木がぐらりと揺れ、枝にいた鳥たちが一斉に飛び立った。


魔王は腰掛けていた枝を通じて伝わる震動を感じ取り、心の中で呟く。

「……この程度か。まあ、新参にそこまで期待するのも酷だな」


そう思いながら、枝から軽やかに飛び降り、ルシウスの肩を軽く叩いた。

「よくやった。方法は掴めたな。あとは鍛錬あるのみだ。魔力を全身に巡らせるんだ」


「おう! もっと練習する!」

ルシウスは気力を取り戻し、再び修練に没頭していった。

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