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第1章:ベアトリス

痛みは、予想していたようには訪れなかった。

二度の金属音が甲高く響き、そのあと地面に落ちる鈍い音。勇者は目を見開いた。


ニクシアは彼の斜め後ろを鋭い眼差しで睨みつけていた。

「――誰が勇者に手を出していいと言った?」


ルシウスが振り返ると、メイド服をまとった魔族が魔王に向かって半跪し、頭を垂れていた。

「……お嬢様の汚名をすすごうと……」


「汚名、だと?」


「摂政王は申しておりました。お嬢様が自ら召喚に応じ、勇者の従者となり、魔界の敵となったのだと。私はもちろん信じております。ですが、私一人の信頼では足りません。もし私がお嬢様に代わって勇者を討てば、その冤罪も晴れるでしょう」


メイドは顔を上げ、魔王を真っ直ぐに見つめた。

「……それほどまでに勇者をお守りになるとは、まさか……」


ニクシアの表情が曇る。

「馬鹿げている。……さては、今はその摂政王が新しい魔王の座についているのだろう?」


「ご明察のとおりにございます」


「やはりな。動きが早すぎると思えば、用意周到だったわけか。勇者を殺したところで意味はない。傀儡として生きるのを拒んだ時点で、こうなるのは必然だ。罪を着せたい者にとって、理由などいくらでも作れるのだから」


「ですが……それでも、なぜ勇者と行動を共にされるのですか?」


そこでルシウスが一歩前に出て、先に答えた。

「俺は彼女を召喚したくなかったし、彼女も呼ばれたくはなかった。だから今回の異常を確かめたいんだ。利害が一致したから、こうして一緒にいる」


メイドは黙り込み、考え込む。

「……理解できなくはありません。ですが、魔王と勇者が同行するなど……」


「何も悪くはないだろ? “魔王と勇者は必ず殺し合わねばならない”なんて規則は、どこにもないんだから」

魔王は軽く手を振ってみせる。


「それは……」


ニクシアは口元に笑みを浮かべた。

「それに、面白いとは思わないか?」


メイドは困惑の色を浮かべ、やがてため息をつく。

「……承知しました。すべてはお嬢様のご判断に」


「わかればいい。――立て」


「はい」


メイドは静かに立ち上がる。ニクシアは彼女に耳打ちをした。

「……」


メイドは一礼して頷く。

「かしこまりました」


そう言い残すと、影に溶けるように姿を消した。


「彼女は?」

「彼女はベアトリス。私の側仕えの侍女よ。幼い頃からずっと傍に仕えてくれている」


勇者は小さくうなずき、「なるほど……」と呟いた。

「ところで……その“摂政王”って、誰のことだ?」


魔王はちらりと彼を一瞥し、わずかに不機嫌そうな声で答える。

「父上が亡くなった時、余はまだ幼く、政務を執るには不都合だった。だから父の実弟――つまり余の叔父に、一時的に政権を預けたのだ」


「へえ、じゃあ君の上にはまだ口出しする人がいるわけだ」

勇者は意地悪そうに口元をゆがめ、からかうように言った。


その言葉に、魔王はわずかに苛立ちを見せ、面倒そうに話題を切り替える。

「……話を戻そう。お前の当面の課題は、身体の基礎能力を底上げすることだ。もっとも……」

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