第2章:魔物探索
翌朝、小さな港町を後にして――
ルシウスは背に剣を負い、険しい表情で口を開いた。
「町長の話じゃ、島の北側で漁をしていた住民が魔物に襲われたらしい。生き残った者の証言では、巨大なカニ――その場で二人が死んだそうだ。」
ニクシアは前方の火山を見上げながら、気の抜けた声で答えた。
「ふうん。でも、それをわざわざ私に話す理由は?」
その気のない調子に、ルシウスは足を止め、眉をひそめた。
「依頼をこなすためだろ。お前も一緒に行くんじゃないのか?」
ニクシアはくるりと振り返り、唇の端を上げた。
「あなたが『私は休暇中だ』って言ったんじゃない? だったら、ちゃんと休ませて。……火山の眺め、悪くないよ?」
そう言って伸びをひとつ。肩の力を抜いたその姿は、まるで観光客のようだった。
「お前……っ」
ルシウスは言葉を詰まらせ、どう反論すべきか迷う。
ニクシアはくすっと笑い、細めた瞳で彼を見た。
「ただのカニでしょ? 危険でもなんでもないじゃない。あなたたちで十分。――あなたの仲間なら、こういう小さな依頼、慣れてるんじゃない?」
傍らを歩いていたカシアンが静かに頷く。
「その通りだ。難しくはない。私がいれば、撤退だけは確実にできる。」
「でも……放っておけば、また犠牲が出るかもしれない!」
ルシウスは声を強め、必死に言葉を繋ぐ。
カシアンは遠くの海岸線を眺めた。
「それは確かだ。だが、もう危険の報せは村に伝わっている。しばらくは誰も近づかんだろう。」
――白い波が浜辺の小石を叩き、一定のリズムでざぶん、ざぶんと音を立てる。
カシアンは手にした地図を広げ、静かに周囲を見渡した。
「……どうやら、ここが襲撃の現場のようだ。」
ルシウスは砂浜を歩き回りながら顔をしかめる。
「こんなに時間が経ったんじゃ、痕跡なんて残ってない。どうやって魔物を探すんだ?」
カシアンは視線を火山の中腹に向けた。
「村長の話では、あのカニの甲殻は鉄のように硬かったとか。――強力な魔物は、必ず魔力を吸収しているはずだ。」
彼は火山を指さした。
「この島の魔力源といえば、あそこだろう。」
ルシウスは少し考え、噴煙を上げる山頂を見つめる。
「本で読んだことがある。溶岩には大地の魔力が宿る……けど、カニが近づけば焼きガニになるだけじゃないか?」
カシアンはかすかに笑い、首を振った。
「溶岩の熱と魔力は、山体の裂け目や岩の隙間を通じて流れる。直接触れる必要はない。」
ルシウスの目に理解の色が浮かぶ。
「つまり……安全な場所からでも魔力を取り込めるってことか。海辺の魔物なら、火山の麓あたりが怪しいな。」
「その推測、悪くない。」
カシアンが小さく頷く。
「それを手掛かりに探ってみよう。」
二人は海岸線に沿って歩き始めた。
遠く、火山は堂々とそびえ、山頂の白煙が風に溶けていく。
砂浜には貝殻と流木が散らばり、潮風が吹き抜けるたびに、それらが微かに擦れ合い、しゃらりと小さな音を奏でていた。




