第2章:初めての依頼Ⅱ
「方法ならあるさ。こいつらの結晶は、どこにでも生えるわけじゃないんだ。」
カシアンは岩壁を指でなぞりながら言った。
「一番よくできるのは、岩壁とか岩柱の中腹から少し下のあたりだ。あんまり低いと新しい結晶が海水に流されるし、高すぎると潮が届かなくて魔力を吸えない。」
カシアンは湿った岩壁を軽く叩きながら続けた。
「それに、この潮間帯に生えてるコケ、ただの飾りじゃない。水分を保つだけじゃなくて、結晶を固定してくれる天然のクッションなんだ。だから――ここが結晶にとって一番いい“成長帯”ってわけ。」
「へぇ、詳しいじゃん。」ルシウスは目を細めて岩壁を見つめた。
「でも、こんな小さいの探すなんて……目が壊れそうだな。」
カシアンは腰のポーチから小型の岩石ハンマーを二本取り出した。
鉄製の頭は片方が平らで、もう片方が尖っている。軽いが頑丈だ。
そのうちの一本をルシウスに手渡し、得意げに笑った。
「見てな、こうやるんだ。」
杖の先端を岩壁に近づけると、宝石が淡く光り出した。
光がゆっくりと動き、照らされた箇所に二つの微かな光点が浮かぶ。
「岩の表面に魔力を流し込むと、結晶が余分な魔力を吸って光るんだ。夜になればもっと分かりやすい。」
そう言ってカシアンはハンマーを構え、コケと岩の隙間を軽く叩いた。
金属が結晶に触れた瞬間、澄んだ音が響き、わずかに砕ける音が重なる。
結晶はまるで目を覚ましたように、かすかに揺れた。
ルシウスは慎重に小さな結晶核をこそぎ取り、布製の袋へと落としていった。
「分かったか?」カシアンが顔を上げた。
「まぁ、だいたいは。」ルシウスは肩をすくめた。
「話だけ聞いてるとすごそうだったけど……実際見ると、お菓子の欠片みたいだな。これ、値段つくのか?」
「だから新人の仕事なんだよ。」カシアンは苦笑して首を振った。
「でもバカにするなよ。これでも一帯ぜんぶ集めりゃ、結構な量になる。」
「一帯……って、気が遠くなるな。」ルシウスは手のハンマーを見つめ、深くため息をつく。
「文句言うな、働け。」カシアンはルシウスの肩を軽く叩き、自分もまたしゃがみ込んで作業を再開した。
ルシウスは諦めたように首を振り、仕方なく真似をしてハンマーを振る。
日差しの差す海岸には、寄せては返す波の音と――時おり響く鉄の“カン、カン”という音だけが残った。
魔王は防具店を早足で出た。顔には苛立ちの色が漂う。
「まったく、情けないな。こんなに防具店も武器店もあるのに、まともなものが一つもない。ここが大都市だなんて思ってたのに。」
「おっしゃる通りです。」
付き添いは声を合わせつつ、地図を広げ目を走らせる。
「では、次の店を見に行きますか?」
「次の店で、私の目を見張らせてくれると思うか?」
首をわずかに振る付き添い。
「恐らく、どの店も同じようなものでしょう。宮殿で見る宝物とは格が違いますし、この程度の品では市井で買えません。買えたとしても、オークション次第です。」
裾を払う仕草で、凡庸な品々がもたらす苛立ちを払拭する。
「それなら、もういいわ。カフェに行きましょう。午前中の味は、かろうじて許せるレベルね。」
地図をしまい、低い声で助言する付き添い。
「ですが、たとえ凡庸な品でも、手ぶらよりはましです。至宝には及びませんが、今ある物を使う方が安心です。」
顔にはわずかな不安が浮かんでいた。
「ふん、そんな品など身分に似合わないわ。私から見れば、紙屑と同じことよ。」
そう言い放つと、長い髪を風になびかせ、角のカフェへとまっすぐ向かう。




