第2章:初めての依頼Ⅰ
海風が頬を撫で、塩の匂いを含んだ湿った空気が白い飛沫をさらっていく。
片側には果てしなく広がる大海。寄せては返す波が絶え間なく岩を打ち、低い轟音を響かせていた。
もう一方には、切り立った山壁がそびえている。鋭く裂けた岩肌は、まるで巨斧で断ち割られたようだ。
傾いた砂浜は遠くまで続き、ところどころに岩の柱が突き出していた。崖とつながったものもあり、まるで自然が作った石の門のように見える。
二人は、波に削られた岩の門をいくつもくぐり抜けながら、さらに奥へと進んでいった。
進むにつれ岩は密になり、石門は次第に厚みを増し、やがて短い石の回廊のように変わっていく。湿った空気が肌を撫で、洞窟の気配が濃くなっていった。
やがて、石の回廊は本格的な海の洞窟へと姿を変えた。
その規模は次第に大きくなり、中にはまるで海岸全体を呑み込んでしまったかのようなものもある。
長い隧道のような入口へ入ると、光は急速に薄れ、頭上からは陽の光が完全に消えた。
聞こえるのは、波と足音が岩に反響する音だけ。
ルシウスは無意識に手を伸ばし、岩壁を撫でた。ざらつきと湿り気が同時に指先を伝う。
しばらく進むと、前方にぼんやりと光が広がり、やがて出口の輪郭を描いた。
海と空の青が、再び視界を満たす。
カシアンは足を止め、微笑みながら前方を指さした。
「着いた。ここだよ。」
「……ここ?」ルシウスは首をかしげた。「今まで見てきた中で、特に変わったところはなさそうだけど。」
「この採集依頼は年中出てるからね。もう何十回も採られてる。大きな結晶はとっくに無いさ。」
カシアンは岩壁を指差して続ける。
「今残ってるのは、ここ数年で新しく育ったやつだけだ。」
「でも、どこにも水晶らしいものなんて見えないけど? せめて爪くらいの大きさはあると思ってた。」
ルシウスは岩を軽く叩きながら言った。
「ははは、まるで畑仕事みたいに言うなよ。」カシアンは笑いながら肩をすくめる。
「このあたりの魔力結晶は、一年でだいたい一ミリしか成長しない。紙を数枚重ねたくらいの厚さだ。
海水の侵食も同じくらいの速度だから、一年で磨り減るのもそれくらい。」
彼は岩壁のわずかに盛り上がった模様を指で示す。
「お前が言った親指の節くらいのサイズになるには、二十年はかかるな。
鍾乳石なら、滴る水が百年かけてようやくその厚さになる。
それに比べれば、魔力結晶の成長はまだ速い方さ。」
「……そうか、ありがたい話だな。で、そんな小さいのをどうやって探せって?」
ルシウスは肩をすくめ、途方に暮れたようにため息をついた。




