第2章:カウトリオンに足を踏み入れて
カウトリオンの城門は高大にして重厚、青灰色の城壁には光沢を帯びた魔石が埋め込まれ、夕陽を受けてまるで呼吸するかのように微かに脈打っていた。
広々としたアーチの下を、商隊、旅人、漁師、学者が行き交い、賑やかな絵巻を織り成す。
門前に並ぶ列はゆっくりと進み、鎧を纏った衛兵が一人ひとりの荷物と通行文書を念入りに改めていく。普通の町と違うのは、門の両脇に石造りの魔像が立ち並んでいることだった。その双眸には冷たい蒼光が宿り、まるで悪意を抱く者を見逃さぬかのように鋭く光っている。
城壁の上には巨大な青の旗がはためき、そこには波と貝殻の紋章が刺繍され、海の王国の威光を示していた。
呼び声、蹄の音、そして潮の匂いが混ざり合い、訪れる者にこの都市の繁栄と秩序を最初の一瞬で印象づける。
群衆の中には、時折ローブをまとい杖を腰に下げた魔法学徒の姿も見える。彼らは水晶柱に軽く触れるだけで、門の結界をすり抜けるように通過していった。対して、商人や旅人は兵士の検査と問いかけに耐えながら、辛抱強く順番を待つしかない。
ルシウスは門前の魔像と巡回する兵を見て、思わず眉をひそめ、一歩退いて小声で呟いた。
「……ここ、簡単には通れそうにないな。いっそ人気のない所からよじ登った方が……」
だがカシアンは気にする様子もなく、肩を軽く叩いて笑みを浮かべる。
「安心しろ。タラシアはまだお前たちを指名手配していない。堂々と入ればいいさ。ただ――」彼は声を少し潜める。
「念のため、偽名を使ってな」
カシアンとルシウスは口裏を合わせ、正面から入城することを決めた。
ルシウスは振り返り、わずかに眉を寄せて問う。
「お前たちは、使わなくていいのか?」
ニクシアは平然とした顔で静かに言った。
「先に行け。こちらにはこちらの手がある。」
カシアンは眉を上げ、肩を叩きながらにやりとする。
「本当に大丈夫か? ここは設備が整ってる分、ちょっとした小細工じゃ通れんぞ」
ニクシアは唇の端をわずかに吊り上げた。
「あなたの言った通り、安心しろ。――城門の向こうで会おう。」
二人は列に並び、長い待ち時間を経て、ようやく関所に近づいた。
「おや、もう戻ってきたのか? 何か忘れ物でもしたんじゃないのか?」
門口に立っていた魔法使いが、半ば冗談めかして声をかけてきた。
「先輩、お疲れさまです。」カシアンは軽く会釈し、隣のルシウスを指し示す。
「道中で偶然会ったんですよ。こいつは村の知り合いで、名前はアテル。勝手に歩き回らせたら危ないので、ちょっと案内してやることにしました。」
その口調はどこまでも自然で、余裕さえ漂わせていた。
先輩は軽く頷き、「よし、通してやれ」と兵に目配せする。
それから再びカシアンに視線を戻し、半分冗談交じりに釘を刺した。
「ちゃんと面倒見ろよ。ヘマさせて『この街はひどい』なんて言われたら困るからな。」
ルシウスは城門をくぐりながら、思わず振り返った。外に残るはずの二人の姿はどこにも見えず、心配げに眉をひそめる。
「自分たちで何とかするって言ってたけど……本当に来るのか?」
その時、背後から肩を軽く叩かれた。
「……何してる? 私は忙しいんだが。」
「えっ――!?」ルシウスが振り返ると、そこには見慣れた二人の影が立っていた。
「ど、どうやって入ってきたんだ!?」
ニクシアは淡々と答える。
「忘れたのか。我らの同胞は常に〈影〉と共にある。」
カシアンは眉をひそめ、杖で地面を軽く叩いた。
「だが関所には魔力探知の結界が張ってあるはずだ。影に潜ったとしても、反応が出ないのはおかしいが?」
ニクシアの唇がかすかに上がる。
「門前には結界があろうと、城壁のすべてに隙間なく張られているわけではあるまい?」
「……なるほどな。」カシアンは感心したように頷き、わずかに笑みを浮かべる。
「さすがだ。」




