7話
未明、クレアはモリーに突然起こされた。
「クレア様、城が襲撃されております!」
クレアは慌てて寝台から起き上がり、窓から外を確認する。松明を持つ兵士達が大勢城に押し寄せている。
クレアは部屋の扉を僅かに開けて、通路の様子を覗いた。
「階段を上がって来ているみたい。降りられないわ!」
「クレア様、こちらへ」
モリーに連れられドネルの部屋まで来る。怪訝に思いながらも、クレアはモリーに着いて中に入った。
広い部屋の中は誰もいなかった。
モリーは壁に掛けられた大きな戦争画を手前に引いてずらした。隠し通路が見える。
「モリー。どうして知っているの?」
「昔部屋に呼ばれた時に、酔った伯爵様から聞いたんです」
クレアは思わず眉を寄せた。
「伯爵の恋人だったの?」
モリーは首を横に振る。
「そんないいものではありません。伯爵様の言いなりになるしか無かったんです。私以外も⋯⋯」
「モリー⋯⋯」
「クレア様、さあ急ぎましょう!」
クレアはロウソクを片手に、真っ暗な隠し通路に入る。階段を一番下まで下りると一本道の地下道に出た。左手からは僅かにどなり声や物音が聞こえる。クレアとモリーは右手に向かって走った。
ヴィクターも戦っているはずだ。クレアは心配でたまらなかった。
「モリー、行き止まりよ」
「あそこに扉があります!」
錆びた鉄製の扉が見えた。
クレアが扉に伸ばした手をモリーが止める。扉の向こう側から男の声がした。
「灯だ!」
後ろから足音が迫ってきた。
クレアは慌ててロウソクの火を消す。
クレアとモリーは身を寄せ合って立ち尽くした。震えるモリーがクレアを抱きしめた。
扉が開き、松明が差し込まれた。
「いたぞ!」
クレアとモリーは腕を掴まれ、男達に外に引きずり出された。
◆
クレア達は兵士に手を縛られ、城の広場の人だかりまで連れて来られた。
そこにはドネルがいた。
手足を縛られ、首縄をかけられている。大きなドネルの身体を兵士数人が抑え込んでいた。
その傍らにはドネルに剣をつきつけるヴィクターがいた。
「どうなっているの?」
クレアは頭が混乱した。主君のドネルに向かってヴィクターは剣を向けている。
クレアを引き摺る兵士が答えた。
「伯爵の圧政に私達は決起した。これからはヴィクターがアレントンの主だ」
「ヴィクター!?本当なの?」
ヴィクターはクレアを一瞥する。
「目をかけてやったのに。恩知らずが⋯⋯」
ドネルが歯を食いしばり唸る。
「私はお前に殺された前アレントン伯爵の息子だ」
ヴィクターの言葉にドネルは目を剥く。
「殺させたはずだ」
「確認したのか?」
ドネルはヴィクターの顔を食い入る様に見た。
「⋯⋯!」
ドネルが怒声を上げた。
兵士が丸太椅子を持ってくる。その上に暴れるドネルの首が押し付けられた。
処刑が始まるのだ。
ドネルが叫ぶ。
ヴィクターが大きく剣を振り上げた。
「やめて!」
クレアは顔を背けた。
クレアは再び恐る恐るドネルの方を見た。ドネルの首はまだ繋がっていた。激しく肩で息をしている。
ヴィクターは剣を下ろし、もの問いたげにクレアを見ていた。
「地下牢に入れろ」
そう言うと、ヴィクターはクレアに近づいてきて耳打ちする。
「後で会いに行く」
ドネル、ドネルに味方した臣下達、そしてクレアは城の地下にある牢に連れて行かれた。