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5話

 クレアがアレントンにきて半年が過ぎた。


 ヴィクターは騎士に任ぜられることになり、教会で厳かに叙任式が行われた。


 鎖帷子とサーコートを着たヴィクターは、ドネルに跪く。

 堂々としたヴィクターの姿に、クレアは胸が高鳴った。


 ドネルがヴィクターの肩に、剣身を寄せた。


「お前は戦で多くの功績を上げてきた。褒めてやろう」


「身に余る光栄です」


「ところで、お前と私が戦えばどちらが強いのだ」


「もちろん閣下でございます」


 自分に従順に従うヴィクターに、ドネルは満足気に頷いた。不意にクレアに視線を向ける。


「これまでの褒美に、お前にクレアをやろうか?」


 ヴィクターはドネルを見上げた。


 クレアの心がざわつく。


 ドネルはヴィクターの肩を剣の平面で思い切り叩くと、ゲラゲラ笑った。


「冗談だ」




 その後は祝の馬上槍試合が行われた。


 ヴィクターは槍をぶつけ合い戦っている。クレアはベルトに通した巾着からロザリオを取り出し、ヴィクターの無事を願った。

 殺気立つヴィクターは、次々と相手に勝利していった。




「ヴィクター」


 クレアは天幕に戻ったヴィクターに歩み寄った。兜を脱いだヴィクターは顔の汗を拭う。


「おめでとう」


「ああ」


「もうあなたは騎士様なのね」


 ヴィクターは苦笑いした。

 あまり嬉しそうに見えない。


「嬉しく無いの?」


「もちろん嬉しいさ。⋯⋯ただ、別の人に叙任式をしてもらいたかったとは思う」


 ヴィクターは、クレアをやろうかと言うドネルに反応してしまった自分を苦々しく思い出した。当初の目的を忘れてしまう気か?

 準備は整った。後はタイミングを待つだけだ。

 ようやくアレントンを取り戻せる⋯⋯。



 クレアは黙り込むヴィクターの横顔を見つめた。

 ドネルはヴィクターの晴れの舞台を台無しにしてしまった。そんなドネルの姪を、ヴィクターはどう思うのだろうか。

 クレアはいたたまれない気持ちになった。




「モリー。これはどうしたの?」


「伯爵様が今度の宴で着るようにとのことです」


 クレアに金糸で刺繍された濃緑のドレスが用意された。


 数日後、灯に照らされた天守の広間で、クレアと婚約者の顔合わせの宴が開かれた。


 宴には、婚約者ティモシーの他に、グレイフォードの縁者やドネルの臣下達がいた。クレアはその中に、ヴィクターの姿を見つけた。

 

 ティモシーは何処か毒気を感じる顔をした、細身の青年だった。


 ティモシーはクレアに視線を向けると、隣の席のドネルに何か耳打ちをした。


「クレア、こちらに来い」


 クレアは身を縮めてドネルの所に進む。


「そこに座れ」


 ドネルは笑いながらティモシーの膝を指した。


 戸惑うクレアをティモシーが無理やり座らせる。手の平を腹部に回され、クレアは身体が強張った。


「食べさせてくれ」


 クレアは近くにあった梨をティモシーの口なうなかななうえあえなあきにかなえなかなに運ぶ。ティモシーは梨を口に入れると、クレアの指先に付いた汁まで舐め取った。


 クレアはヴィクターの視線を感じたが、とても直視することが出来なかった。

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