97話:風導の決断、虚構の王へ
大図書院から脱出したハクたちは、王都の地下水路を通り抜け、ついに王城の最奥、玉座の間の直下へと辿り着いていた。
「ここが……王の部屋の真下……」
ジノが呟く。
耳を澄ませば、微かに兵の足音と、議政のざわめきが聞こえてくる。
「このまま正面から入るのは無謀よ」
ナギが囁く。だが彼女の目には、ためらいはなかった。
「でも、もう“待つ理由”も、ないよな」
ハクが静かに木刀を握る。
今、彼らは真実を知っている。
風が──そして“理”が──歪められた歴史を越え、
虚構の王の在り方を変えねばならないと。
「“王”を倒すためじゃない。
風を取り戻すために、進むんだ」
その言葉に、ジノとエリオットが頷く。
そして、ナギが封印していた“裏理核”を手に取った。
「これを使えば、王の記録と干渉できる。だが、代償は大きい。下手すれば私……」
「ナギ、行こうぜ」
ハクが言葉を遮り、笑った。
「お前がいなきゃ、ここまで来られなかった。だから、最後まで一緒に吹こう」
──扉を、叩け。
地下水路の天井に走る、古代通路の“理文”をナギが操作すると、空間が揺らぎ、ゆっくりと天井が開く。
「……開いた……!」
瞬間、王城の警戒魔術が発動し、赤い光が彼らを照らす。
「侵入者──!?」
「伏せろッ!!」
エリオットが雷障壁を張り、直上からの魔弾を弾いた。
続けざまに、精鋭の近衛兵たちが剣を構えて突入してくる。
「今、突破する!」
ジノが吠え、全身に風を纏って駆け上がる。
──“風影・乱連突”
木刀の連突が兵たちを押し返し、風の道を拓く。
「突破しろ、今しかない!」
ハクたちは一気に突入し、王の間の中央へと躍り出た。
玉座の奥──
そこには、沈黙を保ったまま立つ“王”の姿。
「……来たか、風の徒どもよ」
その声は低く、しかし全てを見透かすように響いた。
王──アズル・ディオ=レギア。
かつて“理の統治者”と呼ばれた男。
その目に、光はない。ただ、静かに語った。
「風は災いだ。だから封じた。それが正義だ」
「それは、お前の都合だろ!」
ハクが叫ぶ。
「“理”の名のもとに記録を塗り替え、剣を封じ、風を殺した!
それが……国のためだってのかよ!!」
王の表情が、わずかに歪む。
「ならば、その正義を力で示してみせよ」
その瞬間──玉座の影が崩れ、巨大な“機械式の鎧”が起動した。
「これが……王の力?」
ナギが震える声で呟いた。
それは記録の魔術と機構を合わせた、禁断の“機理装兵”。
そして王自らが融合し、そのまま現れたのだった。
「この国は、理によって支配されてきた。
剣も、風も、記録も、全て我が統べる」
「……なら、ぶっ壊すしかねぇな」
ハクが構えた。
「この木刀でな……!」
風が唸りを上げる。
──風と記録と王の意思、三つ巴の戦いが、今、幕を開ける──!




